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岡山発 玉野から“再エネの爆発的普及を”

NHK岡山「もぎたて!」 “ことしにかける”
  • 2024年01月17日

岡山県玉野市に新たにつくられた国内最大級の蓄電池工場が、ことし本格的に稼働を開始します。『再生可能エネルギーの爆発的普及』を目指す若き経営者の思いを聞きました。
(岡山放送局記者 遠藤友香)

玉野に国内最大級工場

メイド・イン・玉野の急速充電器。スマートフォンの専用のアプリに表示されたQRコードをかざすと、充電を始めることができます。240キロワットの高出力で2台のEVを急速充電することが可能で、フル充電までにかかる時間はおよそ40分です。
EVの充電インフラ整備を強化しようと、政府は2030年までに全国に設置する充電設備の数値目標を大幅に引き上げる中、この急速充電器もことし中にあわせて150基以上が出荷予定となっています。

工場の外観

この充電器や心臓部となる蓄電池を生産するこちらの工場。東京のベンチャー企業「パワーエックス」が、岡山県玉野市に完成させました。国内最大級の規模で大量生産することにより、コストを大幅に引き下げることを目指します。現在、工場では急速充電器などの一部の製品の出荷が始まっているものの、ことし春からの本格稼働に向けて、準備が進められています。

IT業界からエネルギー業界へ

この工場を運営する「パワーエックス」の社長、伊藤正裕さん(40)です。

伊藤さんは、17歳の時に3Dの画像処理を手がけるソフトウエア会社を起業。その後、会社は大手ファッション通販サイト「ZOZO」の傘下に入ります。

画像提供:ZOZO

COO=最高執行責任者も務め、身体のサイズを測るボディスーツの開発などに取り組みました。しかし、会社経営を考えるうちに、社会の持続的な発展には再生可能エネルギーの普及が欠かせないと、新たな分野に挑戦することを決心します。

(伊藤正裕 社長)
「いかに再エネを爆発的に普及させるか。調べれば調べるほど蓄電池は重要だとわかりまして、蓄電池を買ってみようと思うと、なかなか手に入らなくて。これは挑戦する価値があるのではないかと

そしてZOZOを辞め、3年前にいまの会社を設立。起業家として知る人ぞ知る存在となっていた伊藤さんの会社には、電力会社や商社・銀行など、多くの大手企業が合わせて150億円以上、投融資しています。

常識にとらわれない工場

最初に課題となったのは、工場をどこにつくるか。重視したのは、「交通の利便性」と「製造業の蓄積」。そこで選んだのが、かつて宇高連絡船が行き来した港町で、造船工場などが立地している岡山県玉野市でした。さらに、岡山県内に大きな活断層がないことや、瀬戸内の温暖な気候や豊かな自然、国際芸術祭の開催地だったことなども決め手になったということです。

(伊藤正裕 社長)
「物流的には高速道路、鉄道、さらに港と空路全部あるので、玉野は好立地。自然、文化、観光地もあって、人が移り住みやすく、右脳と左脳が両立したような特別なところだと思っている」

コンセプトは「未来の工場」。工場は建築界のノーベル賞とも言われるプリツカー賞を受賞した妹島和世さんが設計。美術館のようなイメージです。

工場の壁は透明 自然光がふんだんに

現在あるのは、かつての建材工場の建屋を利用した生産ラインですが、なんと1階部分の壁は透明。“外から工場のなかが丸見え”という、常識にとらわれないデザインです。来年中には工場の隣に開発棟などが完成する予定で、開発棟で働くエンジニアと工場で働く社員がお互いの姿を見ることができ、連携がしやすいよう壁を透明にしたということです。

見学者通路から工場を見渡す

さらに、工場全体を見渡せる見学者通路を、あらかじめ配置。カフェテリアなども整備する予定で、地域に開かれた工場を目指しています。

(伊藤正裕 社長)
「人に見に来てもらって、どうやって電池が作られていて、再エネや目に見えない電力、エネルギーのことにも関心を高めてもらえるような環境を目指したので、なるべく多くの人に見学してもらえるよう開けていきたい」

再エネをむだなく

この工場で生産される、大型の蓄電池です。大きさは貨物用のコンテナとほぼ同じで、250世帯が1日に使う分の電力を蓄えることができます。普及すれば、太陽光などによる電力を貯めておき、夜間など必要な時に、むだなく利用することにつながります。

組み立て作業の様子

この蓄電池の組み立て作業は地元の造船会社に依頼。玉野市の基幹産業の造船業で長年培われた大型部品を扱う技術が生かされています。

世界初の“電気運搬船”の開発も

画像提供:パワーエックス

さらにこの会社では世界初の「電気運搬船」の開発も愛媛県今治市で進めています。洋上風力などで発電した電力を必要な場所に運ぶための船で、将来的には玉野の工場でつくる蓄電池を載せる計画です。この船を利用すれば、海に送電網をつくる必要がないため、より低コストで洋上風力を運用することができるとしています。初号機は来年中の完成を目指すとしています。

“再エネの爆発的普及”を

溜める=大型蓄電池 運ぶ=電気運搬船 使う=EV急速充電器

自然エネルギーを「溜める」「運ぶ」「使う」。そのすべてに関わっていくことで、爆発的な普及を目指すとしています。

(伊藤正裕 社長)
「基本的にはみんなが負担しているコストをより安く、クリーンにすることで、持続可能な社会が実現できる。それが最終ゴール。玉野から次世代電池を全国に出荷して、日本の再生エネルギーの爆発的な普及に貢献したい

  • 遠藤友香

    岡山放送局 記者

    遠藤友香

    2019年入局 岡山市政や県内経済などを担当

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