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三幸製菓6人死亡の火災から1年

  • 2023年02月16日
煙が立ちのぼる「三幸製菓」の荒川工場。2022年2月上空から撮影。

村上市にある菓子メーカー「三幸製菓」の荒川工場から火が出たのは去年2月11日の深夜。
火はおよそ11時間後に消し止められましたが、工場のうち南側の建物が全焼。
アルバイト従業員4人を含む6人が死亡しました。
あれから1年。「なぜ火災が起きたのか」「なぜ6人もの命が奪われたのか」。
これまでの調査で明らかになってきました。         (新潟放送局記者 髙尾果林)

三幸製菓のトップは?

去年5月の記者会見以来、公式の場で取材に応じていなかった佐藤元保 代表取締役CEO。
火災発生から1年のことし2月11日。亡くなった人を悼む式典を非公開で行ったあと、報道陣の前に姿を見せました。

取材に応じる佐藤元保代表取締役CEO(2月11日・荒川工場前)

佐藤氏は「改めて6人のご冥福をお祈り申し上げます。また、遺族の皆さまに心よりおわび申し上げます。申し訳ございませんでした」と、謝罪のことばを述べました。

また、「辞任する考えはあるのか?」という質問に対しては、
「謝罪と再発防止をまっとうすることが責務と考えている。今後の行政処分などを鑑みながら検討していきたい」と明言を避けました。


火災の原因は?

火元とみられる乾燥機(総務省消防庁の中間報告より)

去年12月、総務省消防庁が公表した中間報告で、乾燥機の中にたまったせんべいのかすが、乾燥機や近くに設置していた焼き釜の熱を受けたほか、酸化反応による熱も加わったことで、300度以上になり発火した可能性が高いことがわかりました。

現場から採取された炭化物(総務省消防庁の中間報告より)

また、会社が断熱材として工場の天井部分に吹きつけていた発泡ポリウレタンが延焼を拡大させた可能性が高いことも分かりました。


会社の安全体制に問題は?

会社が設置した専門家などでつくられる事故調査委員会は去年12月に報告書を公表。
「防火安全の体制づくりが積極的に行われていなかった」と指摘しました。
報告書によると、従業員への聞き取りなどで以下のことが判明したということです。

●火災が起きた際、玄関の防火シャッターが降りるため、近くのう回用の扉から出て避難しなければならないことが十分に周知されていなかった
●火災報知器がたびたび誤作動を起こしていたことから、警報音を聞いて避難する人がほとんどいなかった
●消防設備の不備のうち、費用などの理由ですぐに改修できないものの多くが、そのまま放置されていた


これらの調査結果に対して会社は。

「調査委員会より頂戴した提言を重く受け止め、再発防止策を継続していくための体制の強化と運営の整備を引き続き行ってまいる所存です」とコメントしました。

会社の改善策

会社は、火元とみられる乾燥機を、上部から床へ移すとともに、せんべいかすの掃除を週1回から毎日の業務終了後に行うよう変更しました。延焼拡大の原因とみられる発泡ポリウレタンも撤去しました。

別工場の乾燥機。移動させ掃除しやすくなった(画像提供:三幸製菓)

また、避難経路を明確に示したり、誘導灯を増設したりするなど再発防止策を実施しています。

停電しても避難経路が分かるよう蓄光テープを貼付(画像提供:三幸製菓)

「なぜ母が…考え続けた1年」遺族の思い

一方、遺族は、家族を失った悲しみを背負いながら日々を過ごしています。

母の遺影に手を合わせる長男

残念というより、もう、悲しみだけです。
仲良しの同僚たちとともに亡くなっていたと考えると、「みんなで生きて戻りたかったなあ」って思ってんだろうなって。

そう話すのは、火災で亡くなった伊藤美代子さんの長男です。
美代子さんは、出口の近くで3人の同僚とともに倒れているのが見つかりました。停電して視界が暗い中、避難経路を知らず逃げられなかったとみられています。
母を失って1年、「なぜ母が巻き込まれなければいけなかったのか」と考え続けてきたといいます。

火災で亡くなった伊藤美代子さん(当時68)

母親は、まだまだ長生きできたはずでした。
子どもたちの誕生日や正月などの祝いごとは率先して企画する人で、「あの子の誕生日どうしようか」「何好きだっけ?」と聞いてくれる人がいなくなったんだなって。
火災が起きなければもっと楽しく過ごせたのかな。いろいろなことをしてあげられたのかな。

火災で亡くなった伊藤美代子さん(当時68伊藤さんはこれまで、「母はどうして逃げられなかったのか、そして今後、従業員の人たちは安全に働いていけるのか」を会社に問い続けてきました。しかし、納得のいく回答は得られないままです。

火災の現場にいなかった社員の方々は、うちに来ても、ひと事のような話し方で経緯を説明していくだけで、本気で謝っているのかどうかも分からない。
設備を良くしても、安全への意識がなければまた火災が起きるんじゃないかと思ってしまいます。二度とこのようなことを起こさないよう、責任をもって組織全体で変わってもらいたい。

会社は「遺族に誠心誠意対応していく」と話していますが、遺族との溝はいまだ埋まらないままです。


火災の影響は米菓業界にも…

火災直後、三幸製菓のすべての工場が停止し、三幸製菓の商品はスーパーや商店の商品棚から消えました。

三幸製菓荒川工場の焼け跡。いまは解体されている

「このままでは、新潟の米菓が県外の米菓に押されてしまう」
「商品棚が狭くなり、米菓業界全体が縮小してしまう」
全国1位の出荷額を誇る「米どころ新潟」の米菓を絶やさないため、県内の多くの企業が増産に動き出すなど、米菓業界全体に大きな衝撃を与えました。

一方、新潟労働局は米菓業界の安全対策を調べました。県内すべての米菓企業17社に抜き打ちの調査を行った結果、全体の7割近い25の工場で労働安全衛生法違反が確認されました。
具体的には、次のようなものです。

●機械に危険防止のためのカバーをつけていない
●乾燥設備に安全管理の担当者が配置されていない
●避難経路に荷物が積まれていて、十分な経路が確保されていない

労働局は各企業に指導を行い、現在、ほとんど改善されているということです。


火災をきっかけに防火安全対策を検証した米菓企業は

小千谷市「阿部幸製菓」の工場

小千谷市にある米菓企業は、消防や労働局から指導を受けることはありませんでしたが、自主的に工場の安全性を検証しました。

非常口に貼られた蓄光板

三幸製菓の火災をきっかけに夜間の避難訓練を実施。真っ暗な中でも安全に避難するための対策を考える機会になったといいます。工場内各部署に懐中電灯を設置したり、蓄光板で避難経路を表示したりするようにしました。

乾燥機には冷却機能が搭載、発火リスクを低く保つ

火災の原因とみられている「せんべいかす」については、以前から細心の注意を払ってきたといいます。

機械は、かすが熱を受けないよう考慮された仕組みになっていて、掃除も、米菓の種類によっては30分に1回のペースで行っています

大村敏史
常務取締役

火災が起きて、改めて従業員の安全が一番だということを思い知らされました。
従業員の安全が一番に来ないと、おいしく安心して食べてもらえる商品を提供できない。従業員の安全と健康を重視した経営に取り組んでいくとともに、新潟県の米菓全体がより発展していくように寄与していきたい。


警察の捜査は

警察は会社の安全管理に問題がなかったかどうか、業務上過失致死傷の疑いで、詰めの捜査を行っているものとみられます。

1月31日に行われた「三幸製菓」本社の捜索。段ボールを運び出す様子

ことし1月31日からの2日間は、新たに資料が必要になったとして、本社や荒川工場を捜索しました。
荒川工場では、昭和63年から令和1年にかけて、せんべいかすが発火するなどした火災が8件起きています。
そうしたぼやを起こしていながら、今回の火災が起きることを予測できなかったのか。事前に対策を実施していたら、このような結果にはならなかったのか。

こういった点を中心に、警察は調べを進めているものとみられます。

  • 髙尾果林

    新潟放送局 記者

    髙尾果林

    2021年入局。事件・事故、裁判などの取材を担当。

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