佐渡 再生可能エネルギーの島へ? 太陽光などメリットと課題
- 2023年02月21日
エネルギーをめぐる環境が大きく変化している。
ロシアによるウクライナ侵攻や歴史的な円安でエネルギー価格が高騰。政府はエネルギー安定供給のカギを握るとして再生可能エネルギーの主力電源化を進めるとしている。さらに政府は安全性を最優先とした原発の最大限の活用も打ち出している。
化石燃料の生産量は国内トップで、出力の合計が世界最大規模となる東京電力・柏崎刈羽原子力発電所を抱え「エネルギー供給県」でもある新潟県。
NHK新潟放送局では複数回にわけて「注目高まるエネルギー 新潟の未来は」と題して、エネルギーにまつわる新たな動きや今後の課題などについて考えていく。
初回は佐渡市で進む、再生可能エネルギーの導入。エネルギーのほとんどを島内の火力発電所でまかなってきた佐渡市では今、脱炭素を進めるため島をあげて再生可能エネルギーを導入しようという試みが行われている。民間で進む新たな取り組みや県と共同で策定した「新潟県自然エネルギーの島構想」など行政の動きを取材した。
(NHK新潟放送局 取材班 野口恭平記者)
放送した動画はこちら
再エネ導入進める製材所
「佐渡市で再エネ導入を進めているユニークな企業がある」
こうした話を聞いて、私がまず取材したのが佐渡市両津地区にある製材所「吉井木材工業」。
佐渡産の木材を使って住宅向けの建材を生産しているほか、住宅の新築やリフォームも手がける。
「SDGs宣言」をするなど環境対策に力を入れるこの会社、再生可能エネルギーの導入を進めている。
水野雅晴社長が最初に紹介してくれたのは太陽光パネルと蓄電池のシステム。2022年10月に設置した。
大手電力会社が提供する仕組みを使って導入した。パネル設置など初期費用がかからない代わりに、月額2万円ほどの利用料を支払っている(価格改定前の料金設定)。発電された電力は自分たちで使用でき、余った分は売電もできる。10年後にはシステムを無償で譲渡される設計だ。
冬場でも事務所で使う電力の半分ほどはまかなえているという。利用料を考えると設置前よりも費用負担が大きくなっているが、会社ではシステムを譲渡されて10年ほど使えば収支が合うと試算している。
製材所 水野雅晴社長
温暖化が進む中、自然環境をよくするためにも再エネを使うことで循環型社会を作ることが大事だと思っています。損得の経済性だけを考えたら太陽光を導入するという判断にならない人もいるかもしれないですが、環境をよくしたいとか停電など災害時への備えをしたい人にはモデルルームとしてこんな方法もあるよと提案したい。
"問題児"も有効活用
また、この会社で頭を悩ませていたのがこちら。
丸太を削った際に出る大量の「端材」だ。
丸太を四角い建材に加工すると木の皮の部分など半分ほどは余ってしまうという。月に10トンほど発生しているそうだ。
かつては地域のクリーニング店や銭湯に火を燃やす燃料として提供していたこともあったそうだが、今はそうした取り引き先もいなくなってしまった。
そのため、新潟市のバイオマス発電の事業者に提供してなんとか有効活用していた。
一方、船に乗せて新潟市まで運ぶなど経費は月10万円ほど発生し、経営の負担になっていた。
佐渡の木材から出た端材をなんとか島内で有効活用できないかー。
検討の結果、熱で建材を乾燥させる装置を2023年1月に新たに導入。
その燃料として端材を使うことにした。
国の「事業再構築補助金」を活用し約5000万円をかけて導入。
木材を乾燥させることでゆがみにくくなるなど建材の品質が上がるため環境に優しいだけでなく経営にとってもプラスだ。
さらに、端材を燃焼したあとに出る「灰」は農業向けの肥料に活用したいと考えている。
島内の資源を生かすサイクルを生み出すことで、再生可能エネルギーの利用を増やし地域に貢献したいという。
製材所 水野雅晴社長
佐渡は離島なので油にしても物資にしても島外から運ばれてくるんですけど木材や食材など資源は豊富にある。島外から持ってくるには輸送コストもかかるので地産地消を進めたい。最近仲間うちでは「SaDoGaShima」の頭文字をとるとSDGsになるといって、民間でも盛り上げていこうと話しています笑。
なぜ佐渡で?再エネの導入進める理由
佐渡市で再生可能エネルギーの導入が必要な背景に、離島特有の環境がある。
佐渡市では発電の90%以上を島内に3か所ある火力発電所に頼っていて、火力の比率は全国平均よりも高く、燃料の輸送コストもかかっている。
また、本土とは電力系統が切り離されているため、発電所にトラブルがあった場合でも本土から電力の供給を受けることはできず、自前で安定的な電力を確保することが課題となっている。
県がまとめた津波のハザードマップでは東北電力ネットワークが所有する両津地区と相川地区の火力発電所はどちらも浸水エリアに入っている。
東北電力ネットワークでは、現状では設備に浸水被害が出る可能性があるため、「開閉器」や「変圧器」などの重要設備は敷地内でも浸水被害の少ない場所に移設工事を進めていて、今後、設備の更新のタイミングでも浸水対策を進めるとしている。
一方、市では災害時に火力発電が使えなくなることも想定してエネルギー源を分散化しなければいけないと考えている。
このため、佐渡市では県と連携して、2022年3月に「新潟県自然エネルギーの島構想」を策定した。
2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を実現する長期計画だ。
構想のうち基準となるシナリオでは2050年までに再エネの導入比率を今の4%から66%に高めるとしている。
メインとなるのは太陽光発電の導入。学校や体育館など公共施設は現在13施設に導入しているものを201に増やすとする。
このほか、民間の住宅でも2500件あまりの導入を目指し、市の遊休地や耕作放棄地への設置も検討。
さらに、風力発電の導入も視野に入れる。
構想を策定したことで、佐渡市は全国に先駆けて脱炭素を目指す環境省の「脱炭素先行地域」に選定。
太陽光発電導入などの総事業費76億円に対して、50億円が国から補助されることになっている。
市ではまず、島内10の地域で公共施設に太陽光発電や蓄電池を整備していく方針で、1月には総合体育館に太陽光パネルが設置された。
公用車のほか、レンタカーなど民間向けでも電気自動車の導入を進める。
佐渡市 企画財政部 猪股雄司 部長
一番のネックは油が途切れたらもう発電ができないということ。火力をなくすことはできませんが割合として再エネ、ソーラーやバイオマス、その他のエネルギー源を組み合わせることで島内循環を増やすことが必要です。また、「トキ」の住む島として再生可能エネルギーの先進地、カーボンゼロの島ということで日本だけでなく全世界にアピールもできると考えています。
日照時間や高齢化…課題は山積
一方、課題は山積している。
佐渡市の年間の日照時間は平年値で1600時間あまりで、関東地方の都市が2000時間前後なのと比べても少なくなっている。新潟県全体で見ても曇天のイメージが強いためか、太陽光発電の導入は全国よりも低くなっている。
さらに「急速に進む高齢化」や「古い住宅」も一般家庭が太陽光発電を導入する上でハードルになっている。
市民の方に聞いても反応はさまざまだった。
うちは年金生活なのでこれからのことを考えるとちょっとね…。若い人はどんどんつけてくれればいいと思うんだけど。私の住んでいる両津は雪も多いですからちょっと難しいね。
佐渡は少しくもりが多いのが気になります。くもりでも十分使えて経済性があれば検討したいです。
再生可能エネルギーの導入は賛成でうちでもお風呂や暖房に薪を使っています。でも、うちのような古い家で太陽光パネルを設置しても大丈夫なのかしら。
製材所では?太陽光の天敵の「雪」
気象条件について、実際のところ影響はどうなのか。両津地区の製材所に聞いてみた。
取材に伺った2月下旬、屋根の上の太陽光パネルを見せてもらったが雪が降ったあとということもあってパネルの上には雪が積もっていた。
ただ、一面に積もっていたわけではないので晴れ間がさした際は発電しているのも確認することができた。
2022年12月の一か月のデータも見せていただいた。この月は佐渡でも大雪が続き、地区によっては1週間以上停電が続いた。
特に大雪となった12月18日から数日は発電量が大きく減っていたが、そのほかの期間は発電が確認できた。
電力会社の担当者によると、やはり、雪がパネル全面に積もってしまった場合は発電はできないとのこと。また、多くの住宅では複数ごとのパネルを直列でつないでグループを作っているため、グループのうちの1枚に雪が積もっているとそのグループ全体の電力が送れなくなってしまうという影響も出るそうだ。
ただ、くもりの場合、晴れの日と比べて出力は落ちるものの発電は可能とのこと。
担当者は「日本海側は12月~2月の時期は太陽光での発電がしにくくなるのは事実だが春~秋は十分発電することが可能なので効果はある」と話していた。
水野社長も「太陽光パネルのメリットもデメリットもきちんと理解した上で、新築を希望するお客さんに説明していきたい」と話している。
トキの島 自然との共生も
さらに、佐渡といえば国の天然記念物「トキ」がいる。
市民の方からもトキをはじめとした自然環境への影響を懸念する声もあった。
佐渡市では風力発電を導入する場合は、トキの生息の確認が少ない北部に設置する、とかバードストライク対策を行うなど、自然への影響が少ない導入方法について今後研究を進めるとしている。耕作放棄地や市の遊休地に設置する太陽光発電についても同様の考えだ。
自然環境を守りながら再生可能エネルギーの導入を進め、市民にも協力を呼びかけていきたいとしている。
佐渡市 企画財政部 猪股雄司 部長
脱炭素エネルギーの考えや省エネの考えを「佐渡市の当たり前」にもっていかないといけないと思っています。そういう中で市の職員だけが旗をふっていても当然広まらないと考えている。至るところでPRをしながら、佐渡市としても住民向けにどのような支援ができるのかを突き詰めていき、市民にもご理解をいただきながら進めていきたいです。
離島が抱える逆境を、再生可能エネルギー導入の機会に変えることができるか。
構想が「絵に描いた餅」にならないよう、具体的な施策の実行や機運づくりなど息の長い取り組みが求められる。