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拉致を知らない世代はどう感じ 向き合うのか

  • 2022年10月06日

北朝鮮が初めて拉致を認めた2002年の日朝首脳会談から20年。
その年の10月に、蓮池薫さんら拉致被害者5人が帰国しましたが、その後は1人も帰国を果たしていません。
被害者の帰国に進展がないまま、家族は高齢化し、一方で当時を知らない若い世代は増えるばかりです。
若い世代は拉致問題をどのように感じ、向き合うのか。教師を目指す学生たちを取材しました。
                               新潟放送局 油布彩那

知らない世代が教える

先生
目をつぶって今あなたの家族1人思い浮かべて。
きょう帰った瞬間からその家族と会えません。
さあ目を開けて。どう思った?

ことし7月、上越市の小学校で行われた拉致問題を扱った授業の1シーンです。

多くの拉致事件から40年以上が経過。
知らない世代はどんどん増えていき、先生も含めてこの教室に当時のことを知る人はいません。

子どもたちは、「拉致」とはどういうことなのか、自分の家族と重ねて想像します。

自分が教壇に立ったとき どう教えればよいのか

そして、授業を見学しているのは、教師をめざす上越教育大学の学生です。

5人の拉致被害者が帰国した2002年当時は2歳。

当時の状況を知らない自分たちが教師になったとき、子どもたちに拉致問題をどのように伝えたらいいのか。

そのヒントを探そうと、県が行う拉致問題啓発セミナーに参加しました。

拉致=怖い 歴史上の出来事...

セミナーに参加した1人。4年生の海沼芹奈さんです。

横田めぐみさんが拉致された新潟市で、生まれ育ちました。

海沼さん
小学生のときアニメを見て、拉致問題=怖いものというイメージがすごい最初は大きかった。
ニュースとかでは耳にする言葉というイメージなんですけど、ニュースから遠ざかると歴史上で起こる出来事という考え方も結構強いなと思っていたので。
身近ではあるけれどそこ(ニュース)から離れると身近じゃなくなるっていう問題かな。

拉致を学び 役割を考える

県の担当者
2002年9月に、日朝首脳会談が開かれまして北朝鮮が拉致を認めて謝罪をしました。
拉致被害者と家族の思いを想像して感じてほしい。

県の担当者から話しを聞いたり、拉致問題をテーマにした映画を見たりして、自分たちの役割を考えます。

学生
子どもたちが当事者意識をもって接することのできるような授業をするというのが、子どもたちにとって理解をすすめる第一歩なんだなと。

学生
表現悪いかも知れないですけどむごいというか。
それぐらい内容が残酷であるというところが考えなくちゃいけないところかな。

海沼さん
めぐみさんへの思いがあるからこそ、声を上げ続けることができて、
そこから国民の人の意思や政府の方々の意志を変えることにつながったのかなと思いました。

現場で感じる 佐渡市の拉致現場へ

学生たちは、被害者や家族の気持ちをより具体的に感じようと佐渡市を訪れ、
曽我ひとみさんと母親のミヨシさんが拉致された現場を歩きました。

なぜこの場所で拉致が起きたのか、当時はどういう状況だったのか想像します。

学生
工作員は直線で北朝鮮に帰れるってことでしょ。

学生
直線で帰れるのは大きいよね。

日常が突然奪われる

20年前に帰国を果たした曽我ひとみさんから、直接話を聞く機会も設けられました。

曽我さん
家まであと100メートルたらずというところまで来たときでした。
男性3人が足早にかけより私と母に襲いかかってきました。

曽我さん
信じられない出来事で家族がバラバラになってしまうのです。

当たり前の日常が突然奪われる。
44年間母親のミヨシさんと会えていない曽我さんの言葉は、学生たちにとって、文章とはまた違う、非常に重いものでした。

海沼さん
「ただいま、おかえり」を母親に言いたいという曽我さんの言葉が、私の中ですごい心に響いて。
これから親とかに何回ただいまおかえりを言えるのかなと思ったら結構つらいものが湧き上がってきました。

自分たちはどう向き合えばいいのか

当時を知らない自分たちがどのように拉致問題に向き合えばよいのか。
ストレートな質問を曽我さんに投げかける場面もありました。

学生
曽我さんが日本に帰ってきた 2か月後に生まれて。
日本に帰られた時のニュース自体見たことない。
僕らが今後拉致問題を捉えるにあたってどういう心持ちで捉えていってほしいですか。

曽我さん
急にじゃあほらいなくなったらお父さんお母さんさみしいよね。
嘘でしょうって思うかもしれないけどその拉致問題は本当にあった話であり、家族が一日も早く帰ってきてほしいっていう思いで今もあのみんなに訴えているんだよ、待ってるんだよって。
まず家族の気持ちに寄り添うというか。
それから拉致問題のことを勉強して子どもたちに正直に伝えてほしいと思います。

拉致被害者であり、母親の帰りを待つ家族でもある曽我さん。

曽我さん自らの経験や母親への思いを直接聞いたことで、学生たちは拉致問題を自分ごととして捉えるきっかけになりました。

自分の言葉で伝える

自分が拉致被害者やその家族と同じ立場だったら。

自分の目で見て、耳で聞いて体感したことを次はどう自分の言葉で伝えるか。

学生たちの次のステップへの挑戦が始まっています。

海沼さん
曽我さんの言葉を聞くことで自分の中でもより拉致問題との距離が縮まって、現実で本当に起きたことなんだってことをとても実感して。
こういった貴重な経験をしたからこそ自分の言葉で伝えられるものが前よりは多くなっていると思うので、自分の言葉で子供たちに伝えられるような授業づくりをしていけたらいいなって。

  • 油布彩那

    新潟放送局 記者

    油布彩那

    令和元年入局
    警察取材や拉致問題を担当

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