賃上げの波 長崎県の中小企業は・・・
- 2024年04月07日
春闘は、3月13日、製造業を中心とした集中回答日を迎え大手企業では労働組合の要求通りの「満額回答」を含む高い水準の賃上げの回答が相次ぎました。こうした大手の賃上げの影で苦しんでいるのは中小企業です。労働環境を整えなければ人材確保もままならない状況になっています。ある企業の現状を松本麻郁記者が(まつもと・まい)取材しました。
長崎県時津町に本社がある金属の表面処理会社です。
この会社は大手メーカーを相手に部品の処理を行っており、県外にある工場なども含め180人余りの従業員が働いています。大手企業で高い水準の賃上げの動きが広がるなか、その動きに追随し、去年(令和5年)4点04%のベースアップに踏み切りました。この会社がベースアップを行ったのはおよそ30年ぶりのことだといいます。
ことしも3%ほどの賃上げを実施する予定です。
「物価が上がっているので(賃金を)上げていただけるのは本当に助かる」
賃上げを決断した社長の西亮さん。(にし・まこと)
賃上げを行わなければ人材が確保できなくなるという危機感がありました。
「少子化によって出生率も減ってるなかで採用が非常に難しくなってきているという環境があると思います」
こちらの会社、今年度は高卒などの新入社員を5人採用しましたが、大卒の社員は1人も採用できませんでした。
「これがことし求人に出している求人票になります」
いまもハローワークを通じて大卒などの中途採用も募集していますが採用には至っていません。
「昨年は学卒の採用者ゼロということで困ったなというふうに考えてました。だから賃上げもして大手にも劣らない程度までベースを上げていく必要を感じました」
こうした賃上げ、実施するのは簡単なことではありませんでした。西さんの会社では、まず、取引先との価格交渉を行い賃上げに回す資金を捻出しました。
こちらは自転車に使われる部品です。
この会社では摩擦ですり減るのを防ぐための特殊な処理をして出荷しています。
粘り強い交渉で納入価格を2割ほど上げることに成功しました。さらに、作業効率を上げ、利益を増やす取り組みも進めました。
こちらの運搬用のクレーンです。
以前は4人で動かしていましたが、機械化を進めて1人でできるようにし、その分、ほかの仕事に回れるようにしました。
「効率的には、だいたい3割以上がった」
ただ、まだまだ大企業に比べると従業員の賃金には開きがあると感じています。
こちらは、経団連が全国の企業の賃上げの状況をまとめたものです。このところ、中小企業でも賃上げの幅を拡大する所が増えていますが、ここ数年、大手企業との賃上げ率の差はさらに拡大しています。
「中小企業でも5%(の賃上げ)は無理でも3%は絶対守るとか、4%はいくぞとかっていうような自分たちでトレンドを作っていくのは大事なこと」
大手に対抗するためこの会社では職場環境の改善にも取り組んでいます。
「2月の中旬からタブレットを工場に20台入れまして」。
こちらの工場では、伝票処理のためにタブレット端末を導入しました。
これまで月に100枚ほどの伝票を手書きでチェックし担当者が回覧していましたが、
新たなシステムを導入することで、作業の煩雑さが大幅に減りました。
また、これまで従業員に月に1度、土曜日にも出勤させていましたが、来月からは完全週休2日と
することにしました。
「やっぱり働きやすい職場にして企業が変革していく、体質を変えていくことをやっていかないと残っていけないような状況になる」
大手に比べ体力の弱い中小が人材を確保していくにはどうすればいいのか?。専門家は「企業が働きがいを高めていくことが鍵だ」と話しています。
「賃金水準というのも1つ鍵になることではあるんですけれども、それ以外にもより良い職場環境づくり、福利厚生面の充実ということが挙げられると思います。従業員がいかにやりがいを感じて働きがいをいかに企業側が高めていくかということが鍵になってくる」