NHK長崎 原子力空母「ニミッツ」乗艦リポート
- 2023年06月20日
5月19日、長崎県の佐世保港にアメリカの原子力空母「ニミッツ」が寄港した。佐世保港に原子力空母が入港するのは、平成26年の「ジョージ・ワシントン」以来、9年ぶり。入港の2日前には
地元の報道陣向けにニミッツの内部が公開された。
原子力空母『ニミッツ』ってなに?当初「ニミッツ」を「ミニッツ」と勘違いしていた空母取材初心者の私が乗艦してきた。
長崎局 松本麻郁
【原子力空母「ニミッツ」ってなに?】
乗艦取材に先立ってアメリカ軍から原子力空母「ニミッツ」に関する資料が配付され、私は必死に下調べを始めた。
ニミッツは、ワシントン州ブレマートンを母港とする原子力空母で、全長333メートル、幅は77メートル、高さは74メートルとおよそ23階建てのビルの高さを誇る。2基の原子炉を動力としていて、事実上、無制限に動くことができるため、海上で軍事基地同様の役割を果たすことができるという。ニミッツは、1975年就役の「ニミッツ級」の原子力空母の1番艦で、アメリカ海軍の現役空母の中で最も古い。
「FA18」戦闘機などおよそ70機を載せ、約4600人の乗組員を乗せている。ニミッツと空母航空団は海上戦術を支援するために前方展開(敵国または潜在敵国の周辺に米軍を常駐させる)している間、航空作戦を行うのが任務だとされている。
【いざ!乗艦へ】
「ニミッツ」乗艦取材に向けた、集合場所は「AMC AIR TARMINAL」。福岡空港の国際ターミナルの滑走路脇にあった。
空港の保安検査のレーンや金属探知機などがあり、その横の待合室に通された。ブリーフィングを受けたあと「ゴーグルとヘッドフォン付のヘルメット」「ライフジャケット(チャックには笛、染料パック、ケミカルライトが入っている)」「耳栓」の3つが配られた。そして、機内では音がうるさいから絶対に耳栓をすることと、空母に着艦時は危険をともなうので、合図に合わせてライフジャケットを
両手で掴むよう指示された。
「ライフジャケットを 掴まなければいけない状況って 一体どういうこと?」私は不安でたまらなかった。
【映画の世界】
原子力空母に向けて乗り込んだのは軍用機グラマン「C-2Aグレイハウンド」と呼ばれる輸送機だった。
アメリカ軍によると、普段は主に郵便の配達などに使っているそう。後ろ向きに座る座席が並んでいて中は、ひんやりとして、オイルのような独特な匂いが漂っていた。機内はオレンジの電灯で照らされ窓は前方にある小さな2つの丸窓だけで薄暗かった。
飛行時間はおよそ1時間。しばらく乗っていると、着艦に近づいているのか、揺れが強くなってきて具合が悪くなった。そして、”あの合図”がありしばらくすると「ガタンガタンガタンガタン」と もの凄く揺れながら着艦した。
私は数日前に知り合いの記者が話していたことばを思い出した。「搭載機がワイヤーで着艦するの が見られるんでしょ?トップガンの世界だよね」。
映画「トップガン マーヴェリック」の冒頭ではスーパーホーネットと呼ばれる戦闘機がワイヤーに
引っかけられて着艦するシーンが出てくる。私はまさに拘束着艦した輸送機の中にいて、その衝撃を体験したのだろう。(※帰りの着艦時、ポケットに入っていた携帯用バッテリーが揺れで飛んだ。それくらいの衝撃がある)
ちなみに、アメリカ軍の担当者は、これからはオスプレイ(垂直離着陸機)が主流になるため、そう遠くない未来、拘束着艦の機体は使われなくなると説明した。
【ニミッツに上陸】
お尻の痛さと具合の悪さでなんとか力を振り絞って降りるとそこにはもの凄い数の艦載機と
筋肉隆々の米軍人たちがいて、ことばを失った。原子力空母「ニミッツ」に無事、着いたのだ。見渡すと周りは海に囲まれているのに、コンクリートの上に立っているため、まるで陸地にいる感覚だった。
まずは、艦内を案内され、「MEDIA TV STUDIO」へ。広報担当の担当者がいてテレビのスタジオカメラやパソコンの編集機などが並んでいた。
説明を受けたあと、飛行甲板に向かい飛行訓練を見学した。目の前をもの凄い勢いで飛行するのが「F/A18E/Fスーパーホーネット」だ。
常に4機から15機くらいが訓練をしていて、1日に7回~9回の異なる訓練を、違う機体とパイロットが行っているという。着艦には4本のワイヤーのうちどれか1本を、機体のうしろにあるテイルフックに引っかけて減速させるという。(3本目に引っかけるのが理想)。もし、ワイヤーがすべてひっかからなければ、すぐに再離陸するのだそう。この技術は、パイロットが何年間も訓練を重ねて、何千回も採点と順位を付けられながら培ったものでほぼ100%パイロットのスキルに左右されるという説明だった。
【由来となった人物が】
飛行訓練を見学したあとは、昼食タイム。ここでは、サラダやマッシュポテト、チキン、ケーキなど好きな物をビュッフェ形式で食べた。乗組員たちは、何ヶ月も艦内に過ごすため少しでもストレスを軽減するため、いろいろな種類のメニューが用意されているという。
そして、食堂のいたるところにニミッツ提督の肖像画が飾られていた。
原子力空母の命名の由来になった人物で、第2次世界大戦中のアメリカ太平洋艦隊司令官兼太平洋域最高司令官だ。アメリカ軍によると、ニミッツ提督はアメリカ海軍にとっては、「神様のような存在」で尊敬されているという。
ちなみに、佐世保市内にはアメリカ軍が管理する「ニミッツパーク」という公園があり、サッカー場や野球場などの運動施設が揃っている。
【ニミッツがリタイア!?】
午後は第11空母打撃群司令官のクリストファー・スウィーニー少将がインタビューに応じた。少将は2025年にもニミッツは役目を終える予定であることを明らかにした。今回の前方展開が終わってから母港のブレマートンに戻り、整備や修理を行い、また前方展開を行ったあとに、リタイアを予定しているとのことだった。
「この空母は50歳近いが、能力はほかの空母と全く変わらない。ニミッツはワシントン州のシアトル近くの基地で、整備港で常に修理をしてもらっていて、そのレベルが非常に優れている。おかげ50年近くたっても衰えずに任務を果たすことができている」
【艦内の様子】
このほか、格納庫で艦載機を修理する様子を見学したり、艦内の売店(現地で調達された日本のお菓子や飲み物などもあった)を見学したりした。
【佐世保への寄港 割れる受け止め】
乗艦取材から2日後、佐世保港にニミッツが寄港した。約5000人の乗組員が乗船している原子力空母の寄港とあって、町は人で溢れた。米軍バーでは、ニミッツを歓迎するチラシが貼られるなど、
飲食店は、経済効果を期待して歓迎ムードだった。
一方で、23日までの5日間の滞在期間中市内のいたるところで、原子力空母の寄港を反対する集会が開かれ、シュプレヒコールが鳴り響いていた。週末には、佐世保基地近くで、寄港に反対するデモ行進も行われ約300人が集まった。
(原水爆禁止佐世保協議会のメンバー)
「原子力空母は、原子炉があるのに軍事機密だという理由で日本の原子力規制委員会の検査も受けていない。事故があったらどうするのか。 僕も妻も被爆2世で、これ以上、核による被爆者を生んではいけない」
(社会民主党佐世保総支部代表)
「原子力空母はまさに動く原発だ。原子力空母に頼って経済効果を期待するのは違う」
軍事機密として訪問の詳細が明かされないまま9年ぶりに被爆地・長崎を訪れた原子力空母。
空母の受け入れをめぐり賛成と反対で割れる人々。この状況をどうやって伝えていくのか。さらに取材を継続して行きたいと思った。