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坂の街・長崎 ぬくもり届ける灯油配達

  • 2024年02月17日

     

    寒い冬の暮らしには暖房器具が欠かせませんが、灯油ストーブで暖を取るご家庭もあるのではないでしょうか。ただ、灯油の入った重いポリタンクを運ぶのは簡単なことではありません。
    そんな中、坂の街・長崎で斜面地の階段を歩いて登り、お年寄りたちのもとに灯油を届ける男性がいます。冷え込みで灯油の注文が相次いだ1月下旬、私も配達に同行しました。

                           NHK長崎放送局ニュースカメラマン 鈴木勇輝

    冬の暮らし支える灯油配達
     

    灯油を配達するのは、長崎市で氷の卸売店を営む三浦馨(みうら・かおる)さん(58)です。三浦さんの店では氷の注文が減る冬の間、氷のほかに灯油を配達しています。灯油配達は祖父の代から続く冬の仕事で、三浦さんは高校生のころから両親を手伝い始めました。
     

    灯油配達の準備 三輪バイクで配達に向かう

    現在、三浦さんは近所の商店や個人宅など約100軒に灯油を配達しています。18リットルのポリタンクひとつから注文を受けすぐに配達するなど、地域の人から頼りにされています。なかには、30年以上配達を続けるお得意さんもいます。愛用の三輪バイクの荷台にポリタンクを載せて、配達に向かいます。

    ポリタンクひとつから配達する
    三浦さん

    地域に根づいた商売をしています。地域の人が困ったらみんな助けあって生きる、大げさかもしれないですがそういう思いで灯油配達をしています。

    立ちはだかる"長崎の坂"

    三浦さんの配達先は、おもに斜面地に住宅が建ち並ぶ地域です。家の前まで車やバイクが入ることが出来ず、長い階段を登ってようやくたどりつく、坂の街・長崎ならではの場所も多くあります。
    注文の多くは、灯油の入った重いポリタンクを自分で運ぶのが難しいお年寄りからです。

    灯油を配達してもらう男性

    自分では重たい灯油を持って階段を登ることができません。感謝ですよね。

    灯油が入ったポリタンクを持って急な階段を登る

    そのような急な階段でも、三浦さんはポリタンクを両手に持って運びます。灯油の入ったポリタンク2つの重さは約30キロ、かなりの重労働です。現在58歳の三浦さん。年を重ねるにつれ、階段を登る配達がいっそうきつく感じるようになりました。

    三浦さん

    年をとるにつれて手首が痛いなど、いろいろ出てきました。配達は時間もかかって大変ですし、やはり利益的にはわりに合う仕事ではないとは思っています。

    最大の難所 "100段"の階段

    三浦さんの約100軒ある配達先のうち、40軒ほどは階段を登る必要があります。
    市内の斜面地に暮らす磯田美恵子(いそだ・みえこ)さん(80)も、そのひとりです。

    自宅までの階段を登る磯田さん

    磯田さんは、以前は別の店に配達を頼んでいました。しかし、お店の人が高齢で配達が出来なくなったため、いまは三浦さんが頼りです。冬の間は10日に1度、灯油を注文しています。

    磯田さん

    平地よりも坂の上は、服を1枚増やすくらい寒いです。エアコンは乾燥するので好きではありません。ぬくもりを感じる灯油ストーブが好きです。私も年をとっているので、自分で灯油を運ぶことはできません。

    磯田さんの家がある斜面地

    磯田さんの自宅は斜面の真ん中にあり、車道から自宅まで約100段の階段を登る必要があります。三浦さんは、灯油の入った重いポリタンクを持って100段を登るために、ある工夫をしています。
     

    三浦さん

    休憩したら休憩した分だけきつくなると思って、半分の50段ほど登ったところで1回だけ休憩します。それから、あとひと息という感じで一気に登ります。また、先が見えるときつく感じるので、あまり上を見ないで足元を見て登るようにしています。

    時おり呼吸を整えながら階段を登る
    半分ほど登ってひと休み
    100段を登りきって思わずポリタンクを地面に置く三浦さん

    無事に灯油を届け終わると、思わず"ああ、やっと終わった"と思います。

    灯油ストーブで暖をとる磯田さん
    磯田さん

    温かいなあって、ほっとします。三浦さんに感謝です。
    三浦さんがいなくなったら大変です。

    これからもぬくもりを届け続ける

    坂の街の灯油配達は、いつもの配達と比べて時間も体力も必要としますが、三浦さんは体が動くかぎり続けたいといいます。
     

    三浦さん

    感謝されるというのは、うれしいことですよね。若い時に比べれば体力はないですよ。それでも、ほかに灯油を持って行く人がいないなら、自分が持って行かなきゃいけないのかなと思います。配達した灯油で温かい暮らしをしてもらいたいです。

    取材後記

    私も取材中に18リットルの灯油が入ったポリタンクを持たせてもらったのですが、ひとつ持つだけでも重く、とても100段の階段は登れそうにないと思いました。
    三浦さんによると、最盛期には200軒もの配達先があったそうですが、最近では斜面地の空き家が増えたり、灯油ストーブを使う人が以前に比べて少なくなったことで、年々、配達の依頼は減っているということです。重いポリタンクを持って階段を登り、坂の街の冬の暮らしを支え続ける三浦さんの姿に、尊敬の念を抱きました。

     

      • 鈴木勇輝

        長崎放送局ニュースカメラマン

        鈴木勇輝

        2019年入局
        坂の階段を登って
        足腰を鍛えます

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