ページの本文へ

NHK長野WEB特集

  1. NHK長野
  2. 長野WEB特集
  3. 強引な右折「松本走り」 その理由と対策をお答えします

強引な右折「松本走り」 その理由と対策をお答えします

  • 2022年12月14日

交差点で直進車に急ブレーキを踏ませる程、強引に右折する車がいます。他県では見ないので、理由を知りたいです。

安曇野市の男性から車の運転に関して「身近な疑問」としてこのような投稿が寄せられた。調べていくと、こうした強引な右折は「松本走り」とも呼ばれていることがわかった。この「松本走り」の疑問をお答えするためさらに調べを進めた。(斉藤光峻、大谷紘毅)

投稿を寄せてくれた中村哲也さん。8年前、大阪から安曇野市に移住してきた。中村さんは移住してすぐに強引な右折を目の当たりにしたという。

直進しようとしたら向こう側から右折の車両がグッと突っ込んできて僕の目の前に入ってきた。びっくりして急ブレーキを踏んだ。

「松本走り」とは?

松本市の交差点で撮影したところ、青信号で直進してくる車がいるにもかかわらず、やや強引に右折する車が見られた。

こうした強引な右折は「松本走り」とも言われることがあり、「松本走り」には明確な定義はないものの、対向車がいるのに強引に右折することなどとされている。

中村さんは次のような疑問を抱いて投稿したという。

ほかの県では見ない。何らかの理由があるはずだなと思い、今回問い合わせた。

松本市での反応

「松本走り」と呼ばれる運転がなぜ起きるのか。松本地域の人たちにそう呼ばれていることの受け止めを含めて聞いた。

タクシー運転手

基本的には道が狭い。後ろが渋滞して右折できないのでイライラしてしまう。ちょっとしたスペースがあれば強引に入っていく。

松本市内で

渋滞しているので逆に信号変わったときに早く渡ろうと思うのかな。
右折の矢印がない道が多い。後ろが詰まっていると慌てる。

このほかにも「後続の車を待たせてはいけないので早く右折する。右折のほうが直進より先だと聞いたことがある」などの意見があった。

「松本走り」の理由を調べる

こうした話から「松本走り」は右折の矢印信号と道路の幅が関係しているのではないかと着目した。

長野中央警察署と長野南警察署の2つの管内で右折信号のある交差点は人口1万人あたりで3.6。

これに対し、松本警察署管内では3.1、投稿してくれた中村さんが住む安曇野警察署管内では2.2で、松本地域ではやや少ないことがうかがえる。

さらに道幅だ。右折レーンなどを設けられる片側2車線とするには13メートルの幅が目安となる。

松本市と長野市の市道を比較したところ、その割合は長野市の0.56に対し、松本市は0.24。しかも、松本市には幅13メートル以上の国道がないのだ。

中村さんの身近な疑問、「松本走り」に対して取材の結果、次のような仮説を立てた。

“右折信号が少なく道幅が狭いという事情から、「右折がなかなかできないから、無理をしてでも右折をする」という意識が生まれ、広がってしまった”

取材の結果立てた仮説

強引な右折を防ぐには

こうした強引な右折を防ぐために有効な方法はあるのか。さらに取材を進めた。

まず右折信号の効果について、交通工学が専門の愛知工科大学の小塚一宏名誉教授に聞いた。

愛知県では強引な右折のことを“名古屋走り”とも呼ぶ。こうしたこともあってか、愛知県内の交通事故死者数は16年連続で全国ワーストだった。ところが、右折信号などを積極的に導入したところ、事故死者数が減り、全国ワーストの汚名を返上した。

松本市の対応は?

松本市でも同じように対応できないのか、市に取材すると次のような回答だった。

右折信号を導入するには道路を拡幅する工事が必要ですが、城下町ならではの事情もあり、工事には時間がかかってしまう。

実際に松本市では道路の拡幅工事を進めていて、昨年度(2021年度)までの9年間に10か所以上の右折レーンを市道に設置。ただ、城下町特有の歴史的建造物があるなどの理由で、簡単には道路の幅を広げることはできないという。

キケンです!松本走り

松本市の広報誌

松本市は3年前、広報誌で「松本走り」を特集して、道路交通法違反にあたり、罰則もあるとして注意を呼びかけた。

さらに松本市は地元のプロサッカーチームなどと協力して「松本走り」は危険だと教えるカルタを作成。子どもの頃から強引な右折は危険だという意識を持ってもらおうと取り組んでいる。

強引な右折があることを教えている自動車学校もある。受講生に対し正しい交通ルールを教える一環として、地域独特とも言える運転に触れて、注意を促しているのだ。

 

松本走りとか言われる悪い習慣を変えていくのは、これから免許を取る皆さんがなくしていかないとなくならない。悪い習慣に流れてしまわないように、正しいルールを忘れずに運転を続けてもらいたいと思う。

専門家「反則金対象の違法行為と周知」

交通計画・交通心理学に詳しい京都大学大学院の藤井聡教授は、「松本走り」を無くすためには2つのアプローチが不可欠だと指摘する。

強引な右折が罰金の対象になる違法行為だと周知することが規範を変える上で重要な条件の第一歩だ。なかなか松本走りが減らないのであれば取り締まりを強める取り組みも必要だろう。

そして、ドライバーの心の持ちようも大切だと強調する。

ドライバー1人1人の倫理、モラルやマナーが重要だ。その重要性は意外と大きい。倫理やモラル、マナーは我々の行動に大きな影響を与えていると理解してほしい。

【取材後記】

今回投稿を寄せくれた中村さんに調べた結果を伝えると、反応は次のようなものだった。

中村さん

▼科学的に調べてくれたのはよかった。
▼ほかの狭い道路の多い地域はどうなのか疑問がわいた。
▼事故に至らない“ヒヤリ”“ハット”は多いと思うので「松本走り」は減ってほしい。

2019年5月8日、大津市の交差点で直進していた車が右折車と衝突したはずみで歩道に突っ込み、散歩をしていた保育園児2人が死亡し、保育士を含む14人が重軽傷を負った。右折車のドライバーが過失運転致死傷などの罪で禁固4年6か月の実刑判決を受けたが(2020年確定)、この際に「松本走り」などの強引な右折に注目が集まった。こうした悲惨な事故が起きないようにするためにも、取材を続けていく。

  • 斉藤光峻

    報道局経済部(元長野放送局)記者

    斉藤光峻

    2017年入局。長野では軽井沢町スキーツアーバス事故、松本走り、あさま山荘事件などを取材。

  • 大谷紘毅

    長野放送局記者

    大谷紘毅

    2021年入局。事件・事故担当ながらも、山賊焼きから選挙まで幅広く取材。

ページトップに戻る