勝利の秘けつは“ピンチでも笑顔”
- 2024年04月04日
カナダで開催されたカーリング女子の世界選手権。日本代表として出場したのは、ことしの日本選手権で初優勝したSC軽井沢クラブです。選手全員が地元の軽井沢町出身。幾多のピンチを乗り越え逆転勝利を収めてきたチームには、1つの約束事がありました。
(長野放送局 松下周平)
ピンチでも楽しく
群雄割拠のカーリング女子で、ことし4度目の挑戦にして日本選手権初優勝を果たし、日本代表として世界選手権に出場したSC軽井沢クラブ。決戦の舞台となるカナダへの出発を控えた3月上旬、地元の軽井沢町で行われた記者会見で、選手たちがそろって口にしたことばがありました。
笑顔を忘れないで、“楽しむ”ことが1番
“楽しんで”笑顔でプレーすることが強み
それは“楽しむ”。日本選手権でも3敗を喫するなど厳しい戦いが続きましたが、選手たちは笑顔を絶やさずプレーし、優勝をたぐりよせました。
チーム最年少の21歳、上野結生選手は、苦しい状況でこそ楽しむことが必要だと語ります。
ピンチの場面でも、自分たちが勝っているように見えるくらいの笑顔でプレーしています
逆転勝利を呼び込む笑顔
そのことばどおり、日本選手権の準決勝と決勝は、終盤の第9エンドまでリードを許す展開となりましたが、選手たちの表情から笑顔が消えることはありませんでした。
上野結生選手の姉で、司令塔のスキップを務める上野美優選手(23)は、自分たちだけでなく、見ている人たちにも笑顔になってもらえるようなプレーを心がけているといいます。
カーリングを存分に楽しんで、周りの方にも楽しんで頂けるようなプレーをしたい。世界選手権に出場しているどのチームよりも楽しむということをテーマにしています
20代前半の選手がほとんどの若いチームを豊富な経験で支えているのが、最年長の43歳、西室淳子選手です。何度も苦しい局面を乗り越えてきたベテランは、楽しくプレーすることのメリットを、極めてシンプルに語ってくれました。
なぜ明るくしているかというと、パフォーマンスをとにかく上げたいから。単純に楽しく声を出している方が、自分たちも楽しめます
そのスタイルは世界の舞台でも
3月に開幕した世界選手権。SC軽井沢クラブはほとんどの選手が初出場。唯一の経験者である西室選手も18年ぶり2回目です。出場13チームが総当たりで予選リーグを戦い、上位6チームがプレーオフに進みます。日本の初戦は世界ランキングでは格下のニュージーランドが相手です。
この大会で日本が苦戦したのが、会場のアイスへの適応でした。氷の温度や会場の湿度、それに空気の流れなどの微妙な変化がストーンの滑りに影響を与えるカーリングでは、その時々の“氷を読む力”が勝敗を左右します。
ニュージーランド戦でも序盤からアイスの読みに苦戦した日本。第3エンドには、相手の赤いナンバーワンストーンをはじき出せば一気に3点獲得というチャンスを迎えますが、スキップの上野美優選手がラストショットをミス。有利な後攻で相手に1点を献上する“スチール”を許してしまいます。
それでも流れを引き寄せたのは、楽しくプレーするというスタイルを貫いたからでした。思うように得点できず追いかける展開が続いても、選手たちは「ナイス」などと笑顔で声をかけあい逆転のチャンスをうかがいました。
すると後半開始直後の第6エンド。日本はラストショットで相手のストーンをうまくはじき出し、この試合初となる複数得点で逆転に成功。その後再び同点に追いつかれましたが、第8エンドには大量3点を奪って相手を突き放し、初戦を白星で飾りました。
アイスの読みに難しさを感じたが、自分たちらしく最初からプレーしようと意識していた。観客の多さなど、世界選手権ならではの雰囲気をすごく楽しんでプレーすることができたと思います
初の世界選手権は厳しい結果に
さい先よいスタート切った日本でしたが、その後は4連敗。アイスへの適応に苦しむ試合が続き、予選リーグ最終日を前にプレーオフ進出の望みは絶たれました。
なんとか意地を見せたい日本は、予選リーグ最終戦ですでにプレーオフ進出を決めていたイタリアと対戦。強豪相手に必死に立ち向かい、最終の第10エンドを終えて8対8の同点。延長戦にもつれ込みます。
最初のエンドを有利な後攻で迎えた日本でしたが、ここでリードの上野結生選手のショットがミスとなり、相手に主導権を握られてしまいます。
「ピンチでも、自分たちが勝っているように見えるくらいの笑顔でプレーしたい」。大会前にそう語っていた上野結生選手でしたが、プレッシャーのためか表情は硬いまま。“楽しむ”様子は見られませんでした。
結局、日本は延長で2点を奪われ敗北。最終戦でも勝利の笑顔は見られませんでした。
上野結生選手は試合後のインタビュ-で大粒の涙を流し、悔しさをあらわにしました。
今大会で1番いい試合ができたが、最後の最後で私のセットアップが決まらなくて、相手にリードされてしまったのが悔しい。課題がいっぱい見えたので、日本に戻って再スタートしたい
一方、スキップとしてチームを引っ張った上野美優選手は、初めての世界選手権を冷静に振り返りました。
ほとんど毎試合、苦しい展開があった。世界選手権の舞台で挑戦心を持てたのはいいが、そこに精度がついてこないのはまだまだなので、もっと頑張りたいと思います
オリンピックへの険しい道のり
2年後のミラノ・コルティナダンペッツォオリンピックの出場枠は10か国。最終予選に回ることなく出場できるのは、開催国のイタリアを除いた7か国です。出場権はことしと来年の世界選手権の順位に応じた獲得ポイントで決まりますが、ことしの世界選手権で13チーム中11位に終わった日本は、優勝したカナダが15ポイントを獲得したのに対し、わずか3ポイントの獲得にとどまりました。
さらに、日本が出場権を獲得できても、SC軽井沢クラブがオリンピックの舞台に立つには、国内のライバルチームとのしれつな代表争いを勝ち抜く必要があります。2年後の冬、表彰台の真ん中でとびきりの笑顔を輝かせるために。SC軽井沢クラブは、“楽しむ”プレーで険しい道に挑み続けます。