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三陸の海で進む“魚種の交代” 海水温上昇の逆境に立ち向かう

  • 2023年10月27日

 

捕れる魚が変わった

10月12日の朝、宮古市の魚市場では定置網で捕れた魚が水揚げされていました。通常、この時期から秋サケ漁が本格化します。宮古漁協によりますと、かつて最盛期には1日で10万匹以上の水揚げがあったそうです。しかしこの日、揚がったサケは数匹でした。

この日 水揚げされたサケ

1998年から6年ごとの宮古市魚市場の水揚げ量の推移です。全体量が半分以下に減少。そしてかつて花形だったサケやサンマは最盛期の1%足らずに。一時、水揚げ日本一にまでなったタラも最近は大きく減ってしまいました。一方でここ数年で入れ替わるように増えているのがサバです。
 

こうした“魚種の交代”が進む大きな理由の一つとして海水温の上昇が指摘されています。三陸沿岸では秋になっても平年より3~4度ほど高くなっています。サバは、サケやタラに比べ暖かい水温を好む魚です。

この日 水揚げされたサバ 

“新たな魚種” 活用が課題

では、サケやタラに代わってサバを主力として活用すればいいのではないでしょうか? 市場に仕入れに来た人に聞いてみると。

地元の鮮魚店
サバは脂が薄いので多くは仕入れません。
しめさばを作りたいが脂が少ないと…

揚がっているサバは小さかったり痩せたりして、脂ののりがいまひとつのものが多く、地元では活用しにくいようです。漁協によりますと、9割は冷凍で海外に輸出され、1割が地元の水産加工業者や鮮魚店に売られるということです。

捕れる魚に柔軟に対応! 不安も・・・

こうしたなか、宮古で捕れたサバを活用しようという地元の水産加工業者がいます。「丸友しまか」の島香友一社長です。

丸友しまか 島香友一社長
僕らはあくまで太平洋の恩恵で商売しているので、あるものでなんとかやっていく。いままで捕れた魚がないならそれに代わるものと、柔軟に切り替えていくしかないと思っています。

この会社がこの2か月ほどで開発したのが、こちら↓。焼いたサバの身をほぐして無添加のみそや削り昆布などであえました。アイデアを出したのは先代の社長で父親の尚さんでした。

先代社長 父親の島香尚さん
でかくて脂がのっているに越したことはないが、そうなると値段が極端に跳ね上がるので。それならこういう小さいサバでも活用法があるのではないかと考えました。身をほぐすので大きさはあまり関係ないし。中には脂のあるサバもいるので、混ぜあわせると結構おいしくできました。

サバの新商品は11月中に取引先の生協に納入することをめざしています。この会社では、宮古がタラの水揚げが日本一だった数年前にはタラを活用した商品を開発するなど、工夫しながらその時々に捕れる魚に柔軟に対応してきました。

しかし、友一社長は急激に進む魚種の交代に、どこまで対応できるのか不安ものぞかせます。 

丸友しまか 島香友一社長
ほしい魚が少ないときはあります。その中でも何かあると、チャレンジして試作して、商品化までいければベストですが、(商品化できる魚が)そこまで安定して継続して捕れるかは微妙かもしれない…。

震災、コロナと傷つき、いまだその復興途上にある三陸の水産業にとって、急激な「魚種の交代」はいわば「新たな災害」です。それにどう対応していくか、大きな悩みです。
県や自治体、漁協は、
▼新たに捕れるようになった魚種の活用
▼トラウトサーモンの養殖
▼高い水温にも耐える丈夫なサケの稚魚の開発
を柱に取り組んでいます。

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