おいしい有機給食が町の元気につながった!
学校給食が、地域の活性化や課題解決の手だてとして注目されています。
長野県松川町では、学校給食と遊休農地対策をコラボさせたユニークな取り組みを実施。その結果、おいしくて豊かな給食が実現しただけでなく、地域の魅力もアップしたとか。
一体、どのような取り組みが行われているのでしょうか?
松川町を訪ねてお話を聞きました。
(クローズアップ現代取材班)
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子どもたちに好評!地元農家が作った有機作物の給食
まだ寒さの厳しい1月中旬。長野県南部・伊那谷にある、人口1万2千人あまりの松川町を訪ねました。
児童数538人の松川中央小学校の給食室では、ニンジンの皮むきをしていました。
この色鮮やかなニンジン、実は町内で有機栽培されたものだそうです。この町では4年前から、町内で作られた有機作物を小中学校と保育園の給食に積極的に使っています。
この日の献立はミートローフとサラダ、スープ。校内放送では生産者の名前が紹介されていました。
「スープには牛久保さんのニンジン、凍り豆腐。ミートローフには牛久保さんのニンジン、ゴボウ。ここにも牛久保さんのニンジンが使われています」
有機栽培のニンジンは苦みがなく、子ども達に大好評。他にも日によって、米やジャガイモ、ネギ、コマツナなど、さまざまな有機作物が使われます。一般的に有機栽培のものは割高な傾向がありますが、この学校の食材費は1食あたり282円と、近隣市町村と同レベルです。
給食を食べる子どもたちに「このニンジン、誰が作っているか知ってる?」と聞くと「牛久保さん!」と元気な声が返ってきました。
給食を支える地域の連携 きっかけは遊休農地対策
給食事務室を訪ねると、ニンジンをつくった農家の牛久保二三男(ふみお)さんが来ていて、調理員や栄養教諭(栄養士)の木下めぐ美さんと談笑していました。
このあいだの善光寺いも(サトイモの品種)はどうだった?
おいしかった。むく方もかゆくないの。粘りもあるし
じゃ、今年はあれを増やすか
牛久保さんは時々こうして学校を訪ね、出荷した野菜について木下さんや調理員の感想を聞いて、作付けにいかすそうです。
農家の方の思いや栽培の苦労、畑の様子などを聞くと献立作りの参考になるし、私たちも子ども達が残さず食べるような美味しい給食を作ろう!という気持ちになります。
給食現場のみなさんで、畑を見学することもあるとか。調理員を町が直接雇用していることもあり、栄養教諭と調理員、農家が、栄養のあるおいしい給食を子どもたちに届けようと心を1つにして工夫を重ねていることが感じられました。
松川町では毎月、町内の小中学校や保育園の栄養士と農家、それに町役場の農業振興係が顔を合わせる会議が行われます。栄養士が作った翌月の献立を元に、各農家の畑や田んぼの状況を確認しながら、野菜の出荷量のすり合わせをします。
町は、学校給食に有機栽培の米や野菜が使われることを積極的に後押ししています。町内産の有機作物を学校給食の食材として使うと、農業振興予算から補助金が出るのです。
野菜は価格の4割、有機栽培が難しい米は価格の7割の補助が出ており、その分、学校側は食材を安く調達できるしくみです。現在、小中学校と保育園の給食で使う野菜の4分の1以上が町内産の有機作物になっています。
なぜ、給食の補助金に農業振興予算が使われているのでしょうか。
背景には、町の農業が抱える課題があります。松川町はリンゴや桃など果物の栽培が盛んですが、近年は農業の担い手不足などで、遊休農地が200ヘクタール以上にも増えてしまっています。
町の農業振興係の宮島公香さんは、遊休農地が宅地や太陽光発電などに転用されるより、できるだけ農地として活用し農業の衰退を食い止めることが必要だと考えていました。そこで、町民に遊休農地を貸し出す「一人一坪農園」での野菜づくりを呼びかけました。ケーブルテレビで一般向けに野菜づくり講座を提供するとともに、農家向けにも専門家による有機栽培の研修会を実施。
さらに、収穫した有機栽培の野菜や米の確実な販路として考えたのが、学校給食でした。
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宮島さん
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松川町がめざす持続可能な地域づくりのために、環境に配慮した農業についてみんなで学びながら、子どもたちのために学校給食に野菜とかお米とかを提供できたらと思っています。
松川中央小学校にニンジンを提供している農家の牛久保さんは、定年退職後に本格的に農業を開始しました。遊休農地などを活用した2ヘクタールの畑で有機栽培の根菜類などをつくり、給食のほか直売所などに出荷しています。
町の呼びかけで始まった、有機作物を学校給食で使う“有機給食”の取り組みは、農家の経営の安定にもつながっているといいます。
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牛久保さん
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給食は量がドーンと出て予定がつくので、それが一番ありがたいですね。
うちのニンジンでないと嫌だと子どもたちに言われたりすることもあって、大きな励みになっています。
給食に出荷する農家は「ゆうき給食とどけ隊」というグループを作っています。参加する農家は、当初の5軒から今は10軒に増えました。中には若い新規就農者もいて、町としてはこの取り組みが移住者の増加につながることも期待しているそうです。
農家の協力で子どもの食育も充実
学校と農家がつながったことで、学校の食育も充実しました。
子どもたちが授業の一環として野菜の収穫体験をしたり、みその仕込み方を農家に教わったりと、地域ぐるみで食の大切さを子どもたちに伝えています。
遊休農地対策から始まった、松川町の地産地消有機給食。昨年、町は農林水産省が後押しする「オーガニックビレッジ」(地域ぐるみで有機農業に取り組む自治体)宣言も行いました。子どもたちを健やかに育みたいと願う町の人たちが立場を超えて横に連携し、食育の充実や農業の振興など、幅広い地域づくりにつながりつつあります。
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木下さん
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食べることって今すぐ結果が出ないので。松川町の給食を食べて育ったから、体も健康になりつつ、自分のふるさとをしっかりと覚えていて戻ってきてくれたら、それが最高の評価じゃないかなと思っています。
取材を通して
いま日本の食料自給率はカロリーベースで38%。農業人口の減少が問題になっている中で、学校給食が農業の振興に果たす役割は大きいのではないかと、松川町の取り組みを見て思いました。
最近は松川町以外にも、全国で地元産の有機栽培の米や野菜を給食に使う動きが広がっています。こうした取り組みは地方だけでなく、大都市圏でも近郊の野菜農家とつながれば可能ではないでしょうか。地域とつながる給食の取り組みには、大きな可能性があると感じました。
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