みんなでプラス メニューへ移動 メインコンテンツへ移動

みんなでプラス

ガソリン価格の“疑問” 4人の専門家に聞く

1リットルあたり180円を超えたレギュラーガソリン価格。

9月に過去最高値を更新したあと、国の補助金延長によって値下がりを始めましたが、今も高値が続いています。

背景にあるのは中東情勢が緊迫化し、原油価格が高止まりを続けていることです。

補助金は、既に6兆円が計上されており、財政負担はさらに膨らむ可能性もあります。

化石燃料への依存から脱することができず目の前の対応に追われる日本、この危機をどう乗り越えていけばいいのでしょうか?

高値をきっかけに見直しの声が出ている“二重課税”などのガソリンの税制を含め、4人の専門家に話を聞きました。詳しくご紹介します。

(クローズアップ現代 取材班)

ガソリン価格を抑え込む補助金とは? 予算は6兆円超

政府は、物価対策として、2022年1月からガソリンなどの燃料の価格を押し下げるための補助金を続けてきました。

補助金は、石油元売り各社に支給され、ガソリンなどを出荷する際に、その分の金額が割り引かれる仕組みです。期限付きの措置でしたが、円安や原油価格の上昇でガソリンの高値が続いていることから、現在は年内までの延長が決まっています。

10月16日時点のガソリン価格は全国平均で174.7円ですが、もし補助金がなければ209円の価格水準になるとされています。補助金により35円近く抑え込まれているかたちです。

しかし、この補助金には、これまで6兆円の予算が計上されていて、国民1人あたりに換算すると5万円になります。補助金の延長が続けば、さらに予算が膨らむおそれもあります。

ガソリン価格は税のかたまり? トリガー条項の凍結解除と“二重課税”解消の声

ガソリン価格の内訳

実はガソリンには、様々な税金がかかっています。ガソリン価格の高値が続く中で、税のあり方に関心が集まっています。

ガソリンには、「ガソリン税(53.8円/L)」と「石油石炭税(2.8円/L)」の計56.6円/Lの税金がかかっているのに加え、購入価格に対し10%の消費税もかかります。
ガソリン税などに対し、さらに消費税がかかっていることが“二重課税”にあたるのではないかとして、解消を求める声が出ています。

また、「トリガー条項」を発動して、税の一部の免除を求める意見もあります。「トリガー条項」は、ガソリン価格が高騰した時に、ガソリン税のうち上乗せ分の25.1円を一時的に免除して、消費者の負担を抑える仕組みです。

2010年に導入されましたが、翌年起きた東日本大震災で復興財源を確保するために、法律で発動を凍結する措置が取られました。凍結を解除して発動すれば25.1円の値下げとなりますが、その分、年間1兆円の税収がなくなるとされています。

4人の専門家はどうみる?

ニッセイ基礎研究所 上席エコノミスト 上野剛志さん

補助金 財政負担増も出口見えない
補助金のメリットは家計とか企業の負担を減らすことだが、すでに国の予算ベースで考えると、スタートしてから6.2兆円がつぎ込まれ、さらに膨れるおそれもある。そして、その出口戦略が難しいことが大きな課題だ。

そもそも補助金は細かい設計について法律で通しておらず、政府が思うままに増減させている印象がある。今175円程度に抑え込む目標だが、なぜ、その金額なのか説明も十分になされていない。

当初は、物価対策の激変緩和措置で、一時は補助率を縮小したが、原油価格が想定以上に上がってしまい、一度、出口戦略に失敗している。

仮に出口を、補助金なしのガソリン価格が175円を下回ることだと考えると、円高が劇的に進むか、原油価格が大幅に下がる必要があるが、それがすぐに起きると考えるのは現実的ではないと考える。

トリガー条項の凍結解除 課題は多いが透明性というメリットも
トリガー条項の凍結解除には、地方税収の減少に対する手当が必要になる可能性が高いうえ、対象に灯油や重油、ジェット燃料は入らないなどの課題がある。一方で、トリガー条項の凍結解除の方が、今の補助金のような仕組みに比べ透明性が高いということはいえる。法律に明記され、仕組みや金額が明確に決まっているからだ。

原油・ガソリンに依存しない社会を
原油が高くなる度に、景気が圧迫され、富が国外に流出するということを日本は繰り返している。

原油・ガソリンに依存しない社会を作るべきで、そこから脱却する意味でも脱炭素を急ぐべきだ。EVや燃料電池車、プラグインハイブリットなど、なるべくガソリンを使わない自動車社会を作ることを急ぐ必要がある。日本の政治は目先の課題への対処に終始している。

野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト 木内登英さん

補助金 市場をゆがめ脱炭素と逆行
補助金の大きなデメリットは、市場メカニズムが乱れ、脱炭素政策に逆行することだ。

ガソリン価格は高値が常態化する可能性もあるが、本来は市場原理で、それに合わせて消費行動や経済活動が変わってくるべき。そこに新たな成長の芽も生まれる。そういう取り組みを損ねてしまうのが補助金制度。

ガソリン価格が高ければ、例えばEV車などへの乗り換えにつながり、新しい需要が創出され、経済全体で見るとプラスの部分もある。日本が遅れているEVの普及にもプラスになって、それが脱炭素につながるが、そういった意欲をそいでしまっている。

ガソリンへの課税の現状 不当とは言えない
二重課税については、消費税は主に社会保障関連で必要なものだ。社会全体を支えるために両方負担するのはおかしくないように思うし、不当に二重に払っているとはいえない。

財政の環境が良いのであれば廃止を検討していいのかもしれないが、歳入が歳出に届かない状況で税収を減らすのはどうかと思う。

トリガー条項についても、凍結した背景には東日本大震災後の財政環境の厳しさがあったわけで、今はさらに財政悪化している。そういう時に税収を下げるような改正をしても、その分、国債発行で穴埋めすれば、負担が将来に転嫁されていくことになる。そういうかたちに、するべきではない。

逆風を生かして 脱炭素に向かうべき
ガソリン価格の上昇は、国民生活にとって短期的には逆風であるが、一方で、国民が脱炭素の意識を高めるきっかけとなり、脱炭素社会実現に向けた好機でもある。

日本でもGX投資として、政府が20兆円を投じる計画だが、本当にそれだけで脱炭素が2050年に達成できる根拠はないと思っている。政府が主導して、税制や規制による強制力を持ってやらないと進まない。

日本にとって重要なのは、CO2の排出量をできるだけ減らす技術革新を促していくことだ。

例えば火力発電は、すぐにはやめないけども、その中でCO2の排出量をできるだけ抑えていくために、アンモニアと混ぜるなどの技術を支援していく。そして石炭火力発電に依存するアジア全体に対して、新しい技術を提供していく。そのような技術支援では、日本が世界をリードできる余地がまだあると考える。

第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野英生さん

補助金 “財政負担を抑えるアイデアを”
政府は、ガソリン価格を1リットル175円程度に押し下げているが、将来的には原油価格が下がっていき、補助金なしでも175円を下回ることも想定される。

そうした状況になった時にも、逆にガソリン価格を175円程度に維持して、逆に多く支払ってもらうことで、今の財政負担を回収するような政策にシフトしていくべき。

これは、将来ガソリン価格が下がって、ガソリンの消費量が増えるのを抑制することで、二酸化炭素の排出量を抑えることにもつながる。これは金融の考え方を応用したものだが、エネルギー分野でもこうしたアイデアを生かしていくことで、よりよい政策になると考える。

二重課税はなくすべき トリガー条項の凍結解除は望ましくない
二重課税は、税の理論として望ましくないため、原理としては、なくしたほうがいい。

トリガー条項が発動されれば、税収を減らすことになるが、その分の歳入の裏側にある道路事業など財源が宙に浮く。その財源確保を国債で埋めればいいというような無責任な考えになりかねないので、望ましくない。

収入と支出のバランスを考えていくことが大事だ。

政策立案能力が問われている
私は、50年前のオイルショックの時、幼稚園児から小学生低学年だったが、子どもながら「省エネ」という言葉を、耳にタコができるぐらい聞いた記憶がある。

しかし、今はガソリン補助金を延長するというように、社会改革の色合いが薄い政策が行われ、そこからリーダーシップが見えてこない。

今、家計の負担軽減と、脱炭素化進めるという、いくつかの問題にまたがっている状態で、どのようにコーディネーションするのか、政策立案能力がすごく重要になっているので、その能力が試されていると思う。

日本はEV化がすごく遅れていて、世界の流れに置いてきぼりにされている。EV購入の補助金を拡充したりするなど、もう少しサポートを入れ、政策的な優遇をやりながら普及していくべき。

みずほリサーチ&テクノロジーズ 主席エコノミスト 酒井才介さん

補助金は “セカンドベスト” 実質賃金上昇までの時間稼ぎ 
ガソリンなどへの補助金の延長は“セカンドベスト”。本当はより望ましい政策があるが、足元ですでにガソリン価格が上がっている状況では、政府の目線では、短期的に効果を出せる現実的な政策にはなっている。

ただ、そもそも車を持ってなければ恩恵がなく、高所得者ほど負担軽減額が大きい傾向があるなど不公平な側面も大きい。政策の費用対効果という観点からも、燃料コストの上昇による影響を受けやすい運輸業などの業種(特に中小企業)や、中低所得者に対してより重点を絞るかたちが望ましい。

今後のポイントは実質賃金が前年比でプラスに転じるかどうか。

来年前半には米国経済がこれまでの利上げの影響等で景気後退入りし、国際的な需給が緩むことで原油価格に下押し圧力がかかることが見込まれるほか、米国で利下げがなされることで為替も円高が進展する可能性が高い。

来年度の半ば以降、賃金の伸びが物価の伸びを上回るようになってくるのではないかと考えているので、そうなれば、消費者にとってこれまでのような生活水準が切り下がり続ける状況が改善される。それまでの時間稼ぎとして、政府は補助金を延長していく可能性が高いとみている。

二重課税などへの関心の高まり 税制を議論するきっかけに
“二重課税”は、消費者側として納得しにくい面があるのは事実。ただ、こうした“二重課税”状態はガソリンに限ったことではなく、税体系全般に関する論点として議論する必要があり、簡単に結論が出せる問題でない。

その観点から、「二重課税廃止」は今のガソリン価格の高値に対する現実的な解決策とは言い難いと思う。

トリガー条項の凍結解除も法改正が必要になり、目先の物価高に対して迅速に対応する観点から難がある。発動すると、一気に価格が下がって人々の消費行動が非連続的に変化し、ガソリンスタンド周辺で混乱が生じる可能性もある。

ただ、人々の関心が集まることで税制に関する議論が深まることはいいことで、これを機に税制の見直しが検討される可能性もあると思う。政府としても、国民に対して納得感ある説明を行うことが求められる。

消費者も現状を冷静に考えるべき
ガソリン補助金には既に6兆円以上の予算が計上されている。国民1人あたり5万円程度の負担に相当する規模であり、原油の価格が上がったからといって今後も補助金を配り続けることは現実的でないので、中長期的には資源価格高騰に耐えられるだけの経済の地力を引き上げていくべき。

ガソリン補助金は徐々に縮小させ、消費需要をガソリンからEV・省エネ製品にシフトさせることがグリーン化の推進にもつながるし、それこそが本来あるべき「出口戦略」である。

私たち消費者もやっぱり考えていなければならない。政府が介入することでガソリンの価格が下がっていることは確かにうれしいが、これは当たり前のこととして良いのか、冷製によく考える必要がある。

例えば家電を買い替える時に、省エネを意識するなど、今回のガソリン高を、消費行動を変えていくきっかけにしていくことが望ましい。

担当 クローズアップ現代 取材班の
これも読んでほしい!

みんなのコメント(3件)

感想
ひげじい
男性
2023年10月26日
補助金が財政負担になっていると言うが、元々予算より税収が増えているのだから国民に還元するのは当たり前だ。
同様にトリガー条項発動で税収減は国債発行で将来に負担を転嫁という理屈も財務省の詭弁だ。
収入の多い人の方が補助金の金額が単純に多いから不公平という理屈はおかしい。高騰によるガソリン支出額の増加は更に大きいのだから。
提言
ガンバル博士
19歳以下 男性
2023年10月25日
 ガソリン予算6兆円を代わりに全額EV車(価格は600万円と仮定)につぎ込んだら100万台買える計算になり、2022年一年の乗用車販売台数約6万台の約17倍になる。
 正直政府にはガソリン補助金のような小手先の政策ではなく、10年は持つEVをプレセントのような長期的な視点で政策を考えてほしい。
感想
リゾートおやじ
2023年10月23日
国会で決めたことを実行しないことはおかしいと思う。議員自身が自分をおとしめている。(トリガー条項について)