“モヤモヤする力”のススメ 「AI時代」を生き抜く術がここに!
効率性を高める”タイパ"が流行し、AIが質問に瞬時に答えてくれる生成AIが登場した現代。
そんな中、真逆の概念が注目を集めています。
それが「ネガティブ・ケイパビリティ」=すぐに答えを出さず、迷ったり、悩んだりする
“モヤモヤする力”こそ大切だ、という考え方です。
近年、世界ではビジネスの分野を中心に調査や研究が進み、日本でも看護職のマニュアルや、高校や大学の入試問題、医療や教育の分野で扱われるなど、幅広く取り入れられています。
注目を集める“モヤモヤする力”の良さとは何なのか?そのメリットや、実践の方法についてご紹介します。
(クローズアップ現代 取材班)
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各分野のトップランナーも“モヤモヤする力”に注目
“モヤモヤする力”。元プロ野球選手のイチローさんや、作家の村上春樹さんなど、各分野のトップランナーたちも、こうした考え方を重視しています。
イチローさん 「結果が出ない時、どういう自分でいられるかが一番大事」
村上 春樹さん 「即座に答えを出すというよりも時間をかけて深く考察することが求められている」
“モヤモヤする力”とはいったいどんなものなのでしょうか。
“モヤモヤする力”とは? 効率重視から一転!人生が豊かに
“モヤモヤする力”の考え方を取り入れることで、働き方や人間関係が大きく変わった人がいます。ヨガインストラクターの尾石 晴(おいし・はる)さんです。
3年前まで、外資系企業に勤め、管理職も経験した尾石さんが最も重視していたのは「いち早く答えを出すこと」でした。朝から晩まで分刻みのスケジュールを組み、非効率な人にはイライラすることもあったと言います。
しかし、出産後、子育てと仕事を両立するようになり、効率を追求してもうまく行かない日々にジレンマを感じるようになりました。そのさなか、本で知ったのが“モヤモヤする力”の考え方でした。無理に答えを見つけようとしなくても良い、むしろ悩みの中にこそ、生きる意味があるという考え方にハッとしたと言います。
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尾石 晴さん
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「効率だけを追求しても、より良い人生につながらない。別に答えを出さなくてもいいからモヤモヤを持っておく意識をすることが大事なんじゃないかと気づいた」
そこで、尾石さんが始めたのが「モヤモヤノート」でした。生き方や人間関係などすぐ答えの出ないモヤモヤを書き出しています。「悩むことは当たり前だ」と気持ちが楽になり、人の悩みにも寄り添えるようになったと言います。
仕事を辞めた尾石さん。今は、少人数で雑談しながらヨガをする「雑談ヨガ」のインストラクターをしています。同世代の参加者が、仕事や夫婦関係で抱えるモヤモヤに、あえて答えを出さず寄り添うことで、少しでも支えになれればと考えています。
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参加者
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「仕事の悩みとかで、モヤモヤしている時に、このレッスンを受けると山登りがちょっと楽になる。また頑張ろうと思える」
「答えは自分で見つけるしかない。それも分かった上で、くみ取りながら質問してくれるので、モヤモヤが吐き出せるすごくいい空間。身も心もスッキリする」
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尾石 晴さん
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「すぐジャッジをする癖がなくなり、寛容になったと思います。(モヤモヤは)自分の願っていること、幸せ、やりたいことをいつか連れてきてくれる羅針盤みたいな、コンパスのような力に今なっているんだなと」
大学教授が実践!“モヤモヤする力”を発揮する働き方改革
九州大学の高田 仁(たかた・めぐみ)さんです。
自らの研究に加え、ビジネススクールの講師や、大学の運営など複数の仕事を抱えています。以前は「結論を出さなければいけない」という不安とプレッシャーから眠りが浅くなり、早朝に目覚めてしまうなど、精神的に追い込まれていたと言います。
そんな時、知ったのが「すぐに答えを出さなくても良い」という“モヤモヤする力”の考え方です。
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高田 仁さん
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「答えが出ない状況に、耐える、うまくやり過ごす事をポジティブに捉えていいというのは、自分自身はすごく腹落ちしましたね。
答えを出さなきゃと思い込んで、日々の仕事や人間関係など、無理矢理 答えを出しながら生きていたので。
でも、どうにもならい事もあるので『全部 答えを出さなくても良いんだ』っていう事に気づけました」
そこで、高田さんが始めたのが“モヤモヤする力”を取り入れた働き方の改革です。午前と午後で、真逆の働き方をすることで、モヤモヤする時間を意識的に確保しようというのです。
頭のスッキリしている午前中は「モヤモヤタイム」。すぐに答えが出ない、創造力が必要な課題を考える時間に充てるようにしています。
この日考えていたのは、オンライン化が加速する中での今後の大学のプログラムについて。もちろん、結論は出しませんでした。
午後は逆に「問題解決タイム」。
会議やメールなどに特化し、問題を解決したり、すぐに出来ることを処理したり、結論を出すことを重視しています。
ストレスが減り、余裕が生まれたことで、よりアイデアが沸くようになったそうです。
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高田 仁さん
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「片づけなきゃいけない仕事と、じっくり向き合う仕事っていうのをうまく仕分けて向き合えるようになりました。答えが出ない問題に関しては、ある意味寝かせる。
すると、ある所で結びついて「あぁこういうことかな」っていうアイデアが出てくる、自分なりに見えてくる経験が、今は少しずつ増えてきています」
第一人者に聞く “モヤモヤする力”向上の秘訣とは?
“モヤモヤする力”は、どう伸ばし、どう生かしていけばよいのか。
ことし2月に、この考え方をテーマに本を執筆し、海外の最新研究にも詳しい翻訳家の枝廣淳子(えだひろ・じゅんこ)さんに聞きました。
伸ばし方のポイントは「1人の時間を持つ」
枝廣さんによると、“モヤモヤする力”を伸ばすには、1人になって、安心してモヤモヤに浸れる時間を意識的に持つことが大切とのこと。5分でも10分でもよいので、一度判断を保留する、見落とした事を見てみるという視点が、ポイントだそうです。
実際に、海外のインタビュー調査では、めい想などのトレーニングを定期的に行っている人の80 %が高いレベルで“モヤモヤする力”を発揮していたことから、めい想や黙想の実践と“モヤモヤする力”には相関関係があるとされています。
会社・組織も“モヤモヤする力”生かす仕組みを
“モヤモヤする力”の生かし方として、枝廣さんが提案するのが、会社や組織の一部に“モヤモヤする力”を発揮できる仕組みをつくること。
例えば、昭和シェル石油(現・出光興産)の新美春之氏は、「ネガティブチーム」と呼ばれるチームを設けて、会社にとって大きな決断をする時に、案件をあえて批判的な視点で分析していたそうです。
また、大阪府看護協会では、患者に対する向き合い方をまとめた看護職のマニュアルの最初のページで「基底に流れている理念」として、 “モヤモヤする力”について触れています。
「性急に『正解』を求めず、答えのない中でじっくりと傾聴と働きかけを続けていく。
いつかどこかで何かがつながりあって、新しい地平が拓かれるのを待ちつつ対話を続けていこうとする」
組織の中に、“モヤモヤする力”を発揮できる仕組みを作ることで、じっくりと考え抜ける人が増えれば、イノベーションにもつながり、普段はテキパキとしながらも、緊急時には、じっくりと立ち止まり考えることができる、リスクにも強い組織になれると言います。
効率性や問題解決を追求する風潮が強まる今だからこそ、あえて、ヒトならではの“モヤモヤする力”を見つめ直す必要があるのかもしれません。
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