地域おこし協力隊に聞いた 地方移住トラブルはなぜ?解決策は?
「田舎はどこもこうなんですか?」
2023年5月に、SNSにアップされた投稿文です。
都会から地方に「地域おこし協力隊」として移住した人が、地域とトラブルになったと訴え、1億3000万回以上も閲覧され(2023年9月時点)、拡散されました。
地方でいったい何が起きているのか?
どうすればトラブルを防ぐことができるのか?
今回私たちは大規模なアンケート調査を行い、そのヒントを探りました。
(クローズアップ現代 取材班)
「地域おこし協力隊」とは?
「地域おこし協力隊」とは、その名のとおり、地域に入って地域活性化を担う人のことです。
過疎化などに直面する地方の自治体が都市部からの協力隊員を募集。
任期は最大3年で、将来的には定住を目指す制度です。
活動内容は地域の状況によって様々。「地場産品の開発」や「地域の情報発信」などを任される場合や、隊員がその地域で行いたい活動を自ら提案するケースもあります。
給与や活動費は国からの財政支援でまかなわれます。
6400人余が、1116の自治体で活動をしています。(2022年度)
トラブルはどれくらい起きているのか?
アンケートは、その「地域おこし協力隊」(退任者含む)と隊員たちを受け入れている自治体を対象としました。
2023年8月7日から30日まで、オンライン形式で行い、1453人の協力隊と584の自治体から回答を得ました。
SNSで散見されるような移住先での「トラブル」がどれくらいあるのか、聞きました。
地域おこし協力隊の73%が「経験がない」と回答した一方で、27%が活動を行う中で何らかのトラブルを「経験したことがある」と答えました。
トラブルになった相手を尋ねると…
結果は、地域住民が38.5%と最多。
次いで自治体職員、同僚の協力隊員となりました。
地域おこし協力隊の制度に詳しい徳島大学大学院の田口太郎教授に、この調査結果について読み解いてもらいました。
田口教授自身も数々のトラブルのケースを見てきたといいます。
その上で、次のように印象を述べました。
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徳島大学大学院 田口太郎教授
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「もっと多いかと思っていました、正直、半分くらいは、経験しているんじゃないかと。今回のアンケート回答者は現役の協力隊が約8割を占めていた、本当にトラブルを抱えた人はすでに退任している、というのはあるかもしれません」
その上で、「最多となっている地域住民とのトラブルが一番難しい問題」と指摘しました。
数字以上に深刻なトラブルのダメージ
アンケートでは、トラブルを経験した隊員たちに、具体的な内容についても聞いています。
最も多かったのは「協力隊が行っている活動へのクレーム」で45.7%。
次いで「パワハラ」「ひぼう中傷」「セクハラ」となりました。
こうしたトラブルの程度をはかるため、隊員自身が感じた精神的な苦痛について「まったく感じなかった」から「非常に強く感じた」までの5段階で聞きました。
最も程度の大きい「非常に強い苦痛を感じた」と答えた人が最も多く、31.6%。
「かなりの苦痛を感じた」という人も24.7%という結果になりました。
田口教授は、パワハラやセクハラが相次ぐ背景の一つに、地方では新しい価値観に触れる機会が少ないことがあると指摘します。
人的な交流が少ないため、現代的なマナーのようなものが浸透していかないため、古い価値観のまま接してしまうためです。
そして、覚悟を持って地域に入っていこうとする隊員にとって、精神的なダメージは大きいといいます。
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徳島大学大学院 田口太郎教授
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「精神的苦痛を『非常に強く感じた』と答えた人が最も多くなったということは、経験しているトラブルが決して小さなものではないということの表れですね。私も神奈川から徳島に移住しているので分かるのですが、地域に入っていかなければいけないと思っている立場からすると、ちょっとした否定的な言葉や行動が響くんですね。特に協力隊の皆さんは周りに味方がほとんどいない中で、地域住民と一緒に地域おこしをするのが仕事なので、その人たちから否定的なことを言われると、これは非常にパンチがある。たぶん、地元の人はそこまで強く言っていなくても、協力隊には響いてしまうことはよくあります」
トラブルにつながる3つの要因
地域に求められて来たはずなのに、活動を巡ってなぜトラブルになってしまうのでしょうか。
田口教授は、「3つの要因」を指摘します。
トラブルの要因 ①ズレ
協力隊が着任する前に抱いていた活動内容のイメージと、実際に活動を始めたあとの内容にズレが生じてしまうケースです。
アンケート調査でも、ズレの実態を聞きました。
トラブルを経験したことがあると答えた協力隊のうち、活動する前に抱いていたイメージと、着任して受けた実際の印象との間に「大きな違いがあった」「少し違いがあった」と回答した人が54.6%。「おおむね違いはなかった」「まったく違いはなかった」を大きく上回る結果となりました。
田口教授によると、着任した時に経験する活動内容を巡るズレから、自治体側の担当者との関係が悪くなり、互いの意思疎通ができないまま退任するケースもあったそうです。
トラブルの要因 ②放置
仕事が特になく、「自由にしていてください」と言われてしまうケースです。
行政としては、移住してくれるだけでありがたい。放っておいても金は国から支給される。
放置された側は、〝自分の存在価値〟が感じられず非常につらくなるパターンです。
トラブルの要因 ③束縛
自治体側に具体的にやって欲しい業務があり、「それ以外のことはやらないでくれ」と言われるケースです。
活動に自由度が一切ないため、わざわざ都会から来た自分がやる必要があるかどうか、ある意味、便利な“補てん要員”とされてしまうといいます。
求められる自治体の〝調整〟能力
こうしたトラブルを防ぐために、田口教授が重要視するのが自治体の「調整」機能です。
募集から活動の内容や手段まで、自治体や隊員が決められるのが地域おこし協力隊の制度の魅力でもある一方で、現場では難しいかじ取りが求められます。
隊員一人一人の個性に合わせて、地域が求める成果と隊員個人が成し遂げたい目的をすり合わせたり、移住後も地域住民や行政の他の部署や機関との間をとりもったり、小さなほころびが大きなトラブルに発展しないように、関わり続けることが大切だといいます。
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徳島大学大学院 田口太郎教授
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「制度自体の自由度が高く、ゆったり構えているものなので、互いの調整がかなり必要です。この調整をうまくやった所は、地域おこしがうまくいっている地域で、調整をしようとしなかったことがトラブルになる傾向があります」
その一方で自治体側にも、目が行き届かない事情もあるといいます。
その理由のひとつとして田口教授が挙げるのは、「自治体職員の人手不足と多忙さ」です。
アンケートで地方自治体に、地域おこし協力隊に関する業務を担当している職員の状況を聞いたところ、担当者1人が地域おこし協力隊の業務に加えて、役所の別の仕事も兼務しているという意味の「1名兼務」。その状態にある自治体が31.7%に上ることが分かりました。
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徳島大学大学院 田口太郎教授
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「これは結構な数字です。1人で兼務している3割の人たちは、かなり苦しんでいると思います。兼務しているほかの内容は、移住受け入れとか、最近はやりのワーケーションなど、地方創生関係の業務が今すごく多いので、業務量が爆発的に増えていると思います。協力隊を導入する地域は、基本的には人口減少地域なので職員も少ない地域なんです」
地域おこし協力隊を所管する総務省も、対応に乗り出しています。
任期を終えた地域おこし協力隊が現役隊員を支援するネットワークを拡充しようとしています。
また、総務省から制度に詳しい専門家を派遣する「アドバイザー制度」もスタートしています。
田口教授は、こうした支援策もうまく活用しながら調整していくことが、トラブルへの発展を防ぎ、地域活性の起爆剤として活躍してもらうことにつながると強調します。
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徳島大学大学院 田口太郎教授
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「地方自治体は自分たちが調整が苦手だということを自覚して、ある意味開き直って周囲を頼ったほうがいいと思います。支援策を上手に使うことが、トラブルを未然に防ぐことにつながるのではないでしょうか。そして、受け入れる地域側も移住する隊員側も、お互いをきちんと尊重しあうというスタンスが必要です。今まで経験してきた文化がまったく違うので、違いがあることを前提にして、お互いにどう歩み寄れるかという気持ちを、両者がもっているかどうか、これがすごく大事なことだと思います」