もしも今、核兵器が使われたら? 日本も攻撃の標的に
今、私たちの日本を含む北東アジアでは、急速に核兵器が増えています。中国は410発、北朝鮮は、すでに30発持っているという見方もあります。さらに核大国のロシア。日本と韓国は、アメリカの「核の傘」に入っています。
そんな中、長崎大学を中心とする国際プロジェクトが北東アジアでは初めて「もしも今核兵器が使われたら…」というシミュレーションを行いました。
そこから、明らかになったのは従来の想定をはるかに上回る甚大な被害とともに、日本も攻撃の標的にされるリスクでした。核兵器が使われる懸念が高まる今、研究者が導き出した破滅的な結果とは…。
(クローズアップ現代 取材班)
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【ケース①】北朝鮮が先制攻撃 アメリカが反撃したら…
国内外の経済的圧力によって追い詰められた北朝鮮がアメリカや韓国を交渉のテーブルに着かせることを目的に、威嚇のために核兵器の使用に踏み切るという想定です。
この際に使用されるのは射程距離が短い「戦術核」と呼ばれる核兵器で、TNT火薬に換算して広島に投下された原爆より威力が低い10キロトンと想定されています。
北朝鮮は、韓国の艦船が領域に侵入して国民を脅かしていると主張し、韓国の沿岸地域に核兵器を使って攻撃します。使用されると想定されたのは北朝鮮が開発している短距離弾道ミサイル。低威力の核弾頭を搭載できる可能性があります。
写真は北朝鮮が2021年9月におこなった発射実験の様子です。列車を使って運搬でき、どこからでも発射できることをアピールする狙いがあったと考えられます。
これに対し韓国の要請を受けたアメリカは、潜水艦から8キロトンの核兵器2発を使用するとしています。
狙うのは、北朝鮮がICBM=大陸間弾道ミサイルや核戦力を隠していると考えられる山間部や地下基地があるとされる2つの地点です。その後は外交交渉が集中的に行われ、さらなる核兵器の使用は避けられると仮定しています。
合計3発の核兵器の使用により、放射線や飛散した放射性物質の影響で長期的にがんになって亡くなる人も含めた最終的な犠牲者は4万人以上にのぼる可能性があるとしています。
*ケース①:シミュレーション動画について
長崎大学をはじめとする国際プロジェクトのメンバー、エヴァ・リソウスキーさん(東京工業大学)とデビッド・フォン・ヒッペルさん(ノーチラス研究所)が中心となってシミュレーションを実施しました。
各国の核戦略を綿密に分析し、どの核兵器が使われるか、どこが標的とされるか、時間帯はいつか、詳細に想定されています。
シミュレーション動画は核兵器の威力、爆発高度によって放射性降下物がどのように拡散し、住民の被ばく量がどの程度になるか計算したものです。気象条件は過去の実際の気象データが用いられています。
【動画で見る👇】
ケース①のシミュレーションでは、アメリカが潜水艦から発射する2発目と3発目の核兵器は比較的威力が小さいにもかかわらず、大量の放射性降下物が発生します。
これは北朝鮮の地下基地を破壊するため、地表で爆発させると想定されているためです。北朝鮮が高度700mで爆発させると想定された1発目は放射性降下物をほとんど発生させないのと対照的です。
また冬に発生しやすい強い北西風にのった場合、放射性降下物は日本にも到達する可能性があることもわかりました。
爆心地近くの黄色やオレンジのエリアでは、被ばく量が100ミリシーベルト以上となり、がんで亡くなるリスクが0.5%以上高まるとされています。水色は一般の人の一年間の被曝限度1ミリシーベルトを上回るエリアです。
【ケース②】台湾をめぐり 米中で核戦争が起きたら
もう1つは、シミュレーションの中で最悪の被害が出るとされたケース、核戦力の増強を急速に進める中国とアメリカが台湾をめぐり対立するというものです。
台湾で独立を目指す政権が誕生したことをきっかけに、中国国内での指導部への反感が高まり、中国指導部が国民の意識をそらすために台湾に軍事侵攻するという想定です。
これを受けてアメリカが大規模な部隊を送って台湾を支援すると、アメリカのさらなる関与を懸念した中国は、通常兵器だけでは勝利できないと判断し、「核の先制不使用」の核戦略を放棄し、核兵器の使用を決断するとしています。
その時に狙うとされているのは、グアムや佐世保、嘉手納にあるアメリカ軍基地で、250キロトンの核兵器5発で攻撃するとしています。
これに対してアメリカは、中国の内陸部にあると推定されているミサイル基地などを狙って小型の核兵器10発を使って反撃。
さらに事態はエスカレートし、中国は韓国にあるアメリカ軍基地や横須賀基地、アメリカ本土の基地も核兵器で攻撃するとしており、報告書ではさらに大規模な世界戦争に発展することもありうるとしています。
シミュレーションでは両国で合わせて24発の核兵器が使用され、数か月間だけで亡くなる人は攻撃を受けた地域の人口の35%にあたる260万人、放射線や飛散した放射性物質の影響で長期的にがんになって亡くなる人は9万6000人から83万人にのぼるとしています。
*ケース②:シミュレーション動画について
中国が在日アメリカ軍基地やグアム基地を狙った最初の攻撃では、中距離弾道ミサイル「東風26号」に250キロトンの核弾頭を搭載して攻撃に使うとされています。広島型原爆の15倍以上と非常に威力が大きいため、シミュレーションでは大量の放射性降下物が発生します。
ミサイル基地があると推定されている中国内陸部の2か所をアメリカが攻撃する際には、戦闘機に搭載可能で、地下を貫通する新型の核爆弾「B61-12」が使われると想定されています。小型にもかかわらず地下で爆発させるため、放射性降下物が非常に広い範囲に拡散します。
【動画で見る👇】
プロジェクトチームが考えた30のケースの中には、相手の本土や基地ではない場所を狙って核兵器を使用したり、勘違いをきっかけに核兵器を使ってしまったりするケースも含まれています。
具体的に3つのケースを紹介します。
【ケースα】原発への秘密工作
アメリカと韓国の行動の変化により、攻撃が差し迫っていると判断した北朝鮮は、韓国への秘密攻撃によって米韓からの攻撃を回避できると判断し、韓国に派遣した特殊部隊が原子力発電所に持ち込んだ核兵器を爆発させるという想定です。
これに対しアメリカと韓国は、北朝鮮による韓国への全面的な侵攻が差し迫っているとして、軍事境界線付近の北朝鮮軍や指導部に空爆を行い、さらに爆撃機やミサイルで核兵器を投下します。
核兵器の応酬の結果、北朝鮮の南部は通行不能となり、韓国国民は非武装地帯と南部でくすぶっている原子炉施設の間に閉じ込められることになります。
もし北朝鮮が運用可能なICBMを保有していれば、米韓の攻撃後にICBMでアメリカを攻撃し、さらに短距離兵器を使ってアメリカ軍基地、そして日本の民間地域も標的になる可能性があるとしています。
さらにアメリカがミサイルや爆撃機でロシアや中国の領土を上空飛行して北朝鮮を攻撃した場合、米国がロシアや中国の領土を狙っているのではないかという懸念から、これらの国が米国に向けて核兵器を発射し、米国がロシアや中国の発射に対応することで、実質的に世界規模の核戦争に発展する可能性があるとしています。
【ケースβ】電磁パルス攻撃
日本と北朝鮮の関係が悪化し、日本が北朝鮮に対する経済制裁を強化したことをきっかけに、北朝鮮が東京に電磁パルス攻撃(HEMP)を行い、電子機器への影響などで国内インフラに大きな被害が生じるという想定です。
日本は、北朝鮮が核兵器を含めたさらなる攻撃を仕掛けてくる可能性を危惧し、アメリカに対して日本が北朝鮮のさらなる攻撃を危惧し、アメリカに対して反撃の北朝鮮への核攻撃を要請するとしています。
その後、アメリカによる北朝鮮指導部への初期攻撃が失敗に終わったことで、北朝鮮はアメリカ本土、そして日本や韓国へ核兵器を使用します。これに対してアメリカは、より大型かつ貫通性の高い武器を使用して北朝鮮指導部を狙って再度攻撃するとしています。
【ケースγ】潜水艦部隊の誤認
北方領土などの領土問題で緊張が高まり、ロシアの潜水艦部隊が日本海やその近海でパトロールの回数を増やすなど、最大級の警戒態勢をとる中、アメリカと韓国による合同演習が行われていることを事前に把握していなかったロシアが演習を実際の攻撃だと勘違いし、沖縄の米軍基地に核ミサイルを発射するという想定です。
これを受けてアメリカは日本の要請を受けてロシアの太平洋艦隊司令部をはじめとする東部基地を攻撃し、それに対してロシアは韓国の米軍基地などに通常ミサイルや核ミサイルを使って反撃するとしています。
その後、有事に備えたコミュニケーション手段を事前に確保されていなければ、北東アジアにとどまらず、互いの領土にICBMを発射するなど全面的な核戦争に発展する可能性があるとしています。
長崎大学などの国際プロジェクトがこうしたシミュレーションを行ったのは核兵器が使用されないようにするための方策を考えるためで、今後、核兵器の使用を未然に防ぐための方策などを取りまとめることにしています。
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