
更年期障害でNHKアナウンサーを辞めようと思った日
「周りの空気を明るくする元気でパワフルな女性」。スタジオで見る武内陶子アナウンサーはテレビで見てきたイメージそのものです。でも実は、数年前に仕事を辞めようとまで思い詰めた時期があったと言います。原因は更年期障害。どうやって乗り越えてきたのか?インタビューしました。
関連番組
NHKスペシャル「#みんなの更年期」
2022年4月16日(土)放送
生放送中に言葉が出ない!?
更年期の症状がいちばんきつかったのは5年ほど前、52歳の時でした。顕著だったのは「ホットフラッシュ」。ほてるんですよ、急に。突然首から上だけ熱くなるんです。カーっときて物が考えられなくなって、これがいつ来るかわからないというのは本当に恐怖で、「来たらどうしよう?」っていつも思っていました。

ホットフラッシュがきたときにカメラが回っていたりすると、急に頭の中が真っ白になって、口の中が乾いて言葉が出なくなるんです。私はNHKに入ってからずっと生放送ばかり担当してきたので、自分で自分に驚いちゃった。生放送でテレビカメラが私の方を向くのは、1回につき30秒からせいぜい1分くらい。その時間を集中してなんとか乗り切るしかなかったです。

毎回「いま大丈夫だったかな?ばれなかったかな?テレビの向こうで見てる人に全部わかってしまったんじゃないかな?」とすごく不安でした。しゃべれなくなるというのはアナウンサーにとっては致命的だと思っていたので、「もうこの仕事できなくなるのかな?辞めようかな?」って思い詰めた時期がけっこうありました。
お化粧できない、きれいな指が曲がっていく・・・自分に戸惑う日々
肌のトラブルもすごくて、ある日突然起きたら顔が真っ赤に腫れて、「これ誰?」という顔になってしまっていて、化粧水も乳液も何もつけられなくなっちゃったんですね。肌が全部拒否するというか。1年以上何にもつけられない日々でした。自分の皮膚の上に一枚別の皮がついていて、ゴワゴワした感じ。「これ何、誰の肌?」みたいな。宇宙人が来て、私を乗っ取ったみたいな感じでした。

指もほら、曲がっちゃってるんです。更年期の時期に指の関節がものすごく痛くなって。整形外科に行っても「遺伝と老化ですね。曲がりきったら痛みはなくなりますから。我慢するしかない」としか言われないんですよ。後から知ったんですけど、ヘバーデン結節って言って更年期の女性に多いんですって。私の手あんなにきれいだったのに・・・って今でも思います。もう痛くなくなっただけ、いいですけどね。

更年期の症状は、女性ホルモン・エストロゲンの分泌量が大きくゆらぎながら急激に減少することによって起こります。エストロゲンには肌の弾力性を保つ働きや関節をなめらかにする働きがあるため、更年期に肌荒れや手指のこわばりに悩む女性は少なくありません。更年期に現れる症状や対処法についてはこちらのWEB記事でも紹介しています。
ハッピーな私がいなくなった・・・一番悩んだ子どもとの関係
39歳で長女を45歳で双子の次女、三女を出産した武内アナウンサー。更年期の症状が出始めた時、子どもたちは小学生と中学生でした。更年期と子育て期が重なったからこその悩みもあったそうです。

家族との関係が悪くなりました、特に子どもたちとの関係が最悪になってしまったんですね。3人の娘たちが同時に、「ママ怒ってばっかりいる」と言ってきたんです。子どもたちに本当に辛そうな顔をしてそう言われた時にハッとして、「本当に私怒っているかも」って気が付いたんです。でも怒っている自分をどうにも止められなくて、何かを叩きたくなったり「わーっ」って叫びたくなったりするんですよ。このままだと虐待しちゃうんじゃないか、とまで思いました。これまで物を投げるなんて絶対になかったんですけど、そのくらいの衝動にかられて。明るいだけが自分の取り柄と思っていたので、明るくない、ハッピーが全くなくなってしまった自分に、ただただびっくりでした。
更年期は「チーム戦」
疲れやすくなって、とにかく眠くて。朝起きられないとか、起きたら目の前がぐるぐる回っているとか、家で仕事をしていても座ったまま寝てしまうとか。自分でどうにもできなくて一人で悩んでましたね。その頃に家族も異変に気付き、「なんかママしんどいんじゃない?」「どうにかした方がいいんじゃない?」と言ってくれたんです。それでようやく自分でも「もしかしたら更年期かも?」と気づくんですね。

家族にやさしい言葉をかけられると少し気持ちが緩んで「ありがとう、もうちょっと頑張ろうかな」って思えて。「家族助けて」っていう声を出し始めてから、すごく気持ちが軽くなりました。つくづく更年期はチーム戦だと思います。家族じゃなくて友達や周囲の人でも良いのですが、一人で抱え込まずにチームに支えてもらうのが大事なんですよね。
話すと周囲が応えてくれた
だから職場でも周囲のスタッフに「私なんか変なんだけど」って言い始めたんです。私が「こんな事で困っているんですよね」って言ったことで「私も、私も」ってみんなの経験を聞けるようになったんですね。それで「あ、これは私だけの病気じゃないんだ」と思うようになりました。

職場には女性もいるんですけど男性が圧倒的に多い。どうにもならない時、しんどい時、迷惑をかけてしまう事になるんですよね。例えばインタビューしていても質問が出てこなくなったり、同じ事を2回聞いてしまったり。自分でも「あれ、おかしいな?」って思ってるんですけど止められないんです。ずっと一緒にやってきている仲間だからもう相談しようと思って、「もう更年期でいろいろ体調の変化があって、しんどくって」って言ってみました。そうしたら、結構わかってくれる人もいたりして。「うちも妻が大変だった」とか「思えば自分が高校生の一時期、母が本当に嫌な人になっちゃった時期があるんですよね」とか、男性も若い人も、みんなどこかで更年期との接点があるんですよ。当初はわかってもらえないんじゃないか?という恐怖はあったんですけど、話すと相手も接点を探してくれるし、私自身も口に出すとちょっと楽になるし、全然無駄じゃないなと思うようになりました。
好きなもの・夢中になれるものを見つけて
一生懸命になれることを見つけることで少し気が紛れた気がします。やっぱり自分の体だけにフォーカスしている時が一番つらかった。「ああ、いつ来るんだろう?いつ来るかな?またしんどくなるかな?また後ろ向きになるかな?」と考えれば考えるほどしんどくて、これは気を散らす作戦しかないんじゃないかって思ったんです。そこから色んな事を始めました。ゴスペルのグループに入ったり、韓国語を習い始めたり、仕事以外で自分の時間を作るようにしました。

それから、いつも気に入ったもの・必要なものをそばに置いておくように気をつけました。お気に入りの缶バッチをつけた筆箱とか、リップクリームとか、子どもたちのメッセージが書き込まれた手帳とか。焦った時にそういうものが近くにあるだけで気持ちが落ち着くんです。

一個、一個お守りを手にいれるイメージなんですよね。「つらくなったらこの歌を思い出そう」「つらくなったら、この食べ物を食べよう」とか一個ずつ桃太郎のきび団子みたいに自分の中にためていくんです。そうしているうちに不思議と更年期があまり怖くなくなりました。怖くなる時もあるけど、それはそれなりに対処しよう、次どうやって乗り越えようかな、と前向きにとらえられるようになって。そうするといつの間にかホットフラッシュもだんだん治まってきました。
選択を迫られ続けた人生 閉経して初めて“私になった”

そうこうしているうちに閉経して更年期をかなり乗り越えてくると、なんだか全てから解放された気分になりました。考えてみると、生理があって妊娠するかもしれないというのは私にとってはものすごく大変なことだったんですよね。「妊娠するかも?いま仕事が面白いから妊娠したら困る!」「妊娠したいのにできない?どうして?」「子ども諦める?いや頑張ろう」「いま私が決めるべきなのか、どうなのか?」って一瞬一瞬が生きていく上での選択の連続だった、そのことに更年期で初めて気づいたんです。

閉経してみて初めて、「私なんの不安もなく、これから自分の選択ができる」って、これまでのしがらみとか、いろんな大変なこと、自分の体とか全て解放されて、母でも妻でもなく、男とか女とか関係なく、全部私で「人として生きていけるんだ」という、その解放感がすごかったです。精神的にものすごく自由になった気持ちになりました。イギリスでは「Finally, be me!」と言うらしいけど、まさに「ついに私になった!」って感じですね。
新しい自分、こんにちは!

今となっては、お疲れさま自分!よく頑張ったね自分!これからは本当の自分、新しい自分として生きよう!新しい自分、こんにちは!という気持ちです。悩んだ事、苦しかった事、経験しなくても良かったような事もありますけど、それすら今となれば「あの自分があったから今の私がある」と思えるようになった。そう考えると、更年期は新しい自分に到達するまでの長い道のりでした。
その症状、あなたのせいじゃない!

私が一番しんどかったのは、なんで自分がこんなことになっているのか全く分からなかった時期。「更年期」という言葉だけ途中からわかるんですけど、「でも自分ひとりで戦わないといけないんだよね」と思っていました。これはホルモンのせいで私のせいじゃないってことに気が付かなかったんです。
もっと早く「ホルモンのせいだよ」と分かっていれば楽だったのに、と今になって思います。「あなたのせいじゃないから、だから一緒に考えよう」って当時の自分に教えてあげたいし、いま悩んでいる人にも伝えたいです。
NHKスペシャル「#みんなの更年期」
2022年4月16日(土)放送