
医者の4割近くが“自信ない”!? 更年期医療の課題とは
「更年期症状をちゃんと診てくれる医師に出会えない」「“気のせい”と取り合ってくれない」「治療の効果を感じられない」・・・。この1年間、当事者の皆さんを取材する中で見えてきた更年期の“医療の壁”。診療に携わっている医師の側にはどんな事情があるのでしょうか。
関連番組の放送予定
NHKスペシャル「#みんなの更年期」
2022年4月16日(土)総合・夜10時放送
※放送から1週間は見逃し配信をご覧いただけます。
更年期症状の疑いがある患者「自分で診療」は7割
取材班では専門家の監修のもと、医師専用コミュニティサイト「MedPeer(メドピア)」に登録している全国の医師を対象に、先月オンラインでアンケート調査を実施しました。
「更年期の疑いがある人を診察することがある」と回答した医師は709人(うち産婦人科医は184人)。この医師たちに患者にどう対応するか聞いたところ、「自分で診療する」という割合が最も高く68%。「婦人科の受診を勧める」(42%)「症状に応じて専門医を紹介する」(32%)という医師も多くいました。

初診の問診時間 半数以上が「10分以下」
更年期の疑いがある人を「自分で診療する」という医師479人(うち産婦人科医は178人)に、診療の内容について聞きました。
更年期症状の疑いがある人の初診の際、どれくらい問診時間をかけているかを尋ねると、「10分以下」の医師が過半数を占めました。

患者がどの程度継続的に受診しているか聞くと、「2年以上継続する人が多い」「半年から2年継続する人が多い」という医師がそれぞれ約4割。患者の多くが継続して通院していることがうかがえます。

更年期治療 最も多いのは漢方療法
更年期症状の患者に対して、どう治療するかを尋ねると「漢方療法」が最も多く85%。次いで、少量のホルモンを補うことでエストロゲンの減少を緩やかにする「ホルモン補充療法(HRT)」が53%。こうした薬を使った治療だけでなく、カウンセリング(36%)、運動(23%)、食事(19%)など薬によらない治療も行われています(⇒詳しくはこちらの記事「更年期とは いつから?症状は?男性も?ポイントまとめ」をご覧下さい)。

国際的な標準治療“ホルモン補充療法”「処方していない」が半数近く
更年期医療の専門医などでつくる日本女性医学学会は、ホルモン補充療法(HRT)を「症状を改善できる国際的な標準治療」だとして推奨しています。
しかし今回のアンケートでは、「直近1年間でホルモン補充療法を処方していない」と答えた医師が46%に上りました。そのうち産婦人科医は14人で、「処方していない」医師の多数を産婦人科以外の医師が占めました。

ホルモン補充療法を処方していない医師にその理由を複数回答で聞いたところ、「専門外・詳しくない」という声がもっとも多く、61%。次いで「処方した経験がない」が28%、「管理が難しい」が25%に上りました。

また、20%が「ガンのリスクがある」と答えました。
乳がんや子宮内膜がんの治療中の人などを除いて、ホルモン補充療法(HRT)は医師による適切な管理下で処方している限り、安全性の高い治療法です。詳しくはこちらの記事「ホルモン補充療法(HRT)とは?更年期症状を改善するために」をご覧下さい。
更年期診療に「自信がない」医師が4割
国際的な標準治療・ホルモン補充療法に対し「専門外・詳しくない」という医師が多い現状。更年期症状の診療そのものについては、どのように感じているのでしょうか?
「自信を持って診療できる(14%)」「ある程度自信がある(46%)」という医師はおよそ6割。一方、「あまり自信がない(33%)」「自信がない(5%)」という医師はおよそ4割。「更年期症状の患者を自分で診療する」という医師であっても「自信がない」場合が少なくないという結果になりました。

更年期診療の難しさ 時間対効果・リテラシーの問題も・・・
アンケートでは、更年期診療に関してどのような課題や難しさを感じているか、複数回答で尋ねました。すると「症状が多様で診断が難しい」という声がもっとも多く66%。診断の難しさについては「ホルモン値の検査だけでは診断できないので難しい(53%)」「精神疾患との区別が難しい(53%)」「その他の疾患との区別が難しい(38%)」という声も多くあがりました。
ほかにも、「問診に時間がかかり診療報酬が見合わない(21%)」、「経営的に採算が合わない(9%)」という構造的な課題を指摘するもの。さらに、「更年期症状についての知識が乏しい(16%)」「専門分野ではないので分からない(13%)」など、医師側のリテラシーの問題も見えてきました。

更年期医療 過半数が「臨床現場で」初めて学ぶ
そもそも、更年期診療について医師はいつ学ぶのでしょうか。最初の学習機会を聞いたところ、医学部教育で学んだ医師は36%。最も多かったのは臨床現場で学んだという医師(52%)でした。中には「学習機会はなかった」という医師(3%)もいました。

更年期診療のガイドライン 周知に課題
更年期診療については、日本女性医学学会がまとめている「女性医学ガイドブック・更年期医療編」という診療ガイドラインがあります。このガイドブックを「日常の診療で活用している」という医師は20%。「知らない」という医師がその2倍以上の46%に上りました。

標準的な治療法とされている「ホルモン補充療法」についても、ガイドラインを「知らない」という医師が27%。日常の診療で活用している医師は37%に留まりました。

更年期症状「あまり診療したくない」43%
様々な課題や難しさがあることが見えてきた更年期診療。医師自身はどう捉えているのでしょうか。アンケートでは、「積極的に診療したい」と答えた医師が40%いた一方で、「あまり診療したくない」という医師が43%に上りました。

「あまり診療したくない」理由を聞いたところ、特に多かったのが「訴えが多様で問診や診察、検査に時間がかかる」「診療にかける時間と診療報酬を考えると採算が合わない」「労力と報酬が見合わない」など更年期診療を取り巻く課題を指摘する声でした。
また「ひとりひとりに時間がかかるわりにお互いの治療達成感が得られない」「治療の手応えがつかみにくい」という悩みもありました。さらに「外来がパンクしており、問診にじっくり時間をかけられない」という事情も影響していました。
一方、「積極的に診療したい」という医師からは、「患者が増えている」「症状が劇的に改善するのを見るととてもやりがいを感じる」などの声が多くあがりました。
目立ったのは、これからの社会では更年期医療の重要性がますます高まると指摘する声です。
少子化社会では周産期管理をメインにやっていた時代は過ぎ去ったように感じる。それに女性の社会進出がますます進めば、更年期障害の重要性は増加するだろう。(産婦人科医・60代)
日本人女性の半分が50歳以上であり、その後の人生に大きく影響を及ぼすと考える。(産婦人科医・60代)
家庭や社会を支える女性が元気でいることは、その患者さんだけでなく周りの人々にも良い影響がある。(産婦人科医・40代)
更年期診療の充実に必要な仕組みは
最後に、アンケートに回答した709人の医師全員に、「今後どんな医療や社会の仕組みがあれば医師として更年期の女性たちの力になれるか」複数回答で聞きました。更年期医療の専門家が多い婦人科と、他の科との連携を挙げた医師が最も多く、71%。「医学部教育の充実(26 %)」や「卒後教育・研修機会の充実(36%)」といった医師教育の必要性も挙げられました。

医師教育が急務 患者は医師を“選ぶ”意識を
アンケート調査を監修した専門家は、更年期医療が抱える課題が浮き彫りになったとした上で、医師側にも患者側にも更年期診療に関するリテラシーを持ってほしいと呼びかけています。
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アンケート調査を監修した 昭和大学医学部 有馬牧子講師(日本女性医学学会幹事)
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「更年期診療のガイドラインがそもそも知られていない、というのは大きな問題だと思います。特にホルモン補充療法(HRT)という有効な治療法が患者にとって選択肢になりにくい現状は憂慮すべきことです。HRTは専門知識を持った医師がきちんと管理して処方する必要がありますので、医師は自己研鑽をして更年期医療についてよく学ぶ必要があります。
一方、患者さんの側も、今かかっている科や医師が必ずしも更年期医療に詳しくない可能性を念頭に置き、更年期診療に詳しい専門医・産婦人科医を女性医学学会のリストなどで確認して、信頼できる医師を「選ぶ」という意識をもって受診してください。
日本女性医学学会としても、他科との連携に課題のある開業医や地方の医師に対してオンラインで講習会を行うなど、啓発・教育活動に力を入れていく必要があります」
更年期医療 全国どこでも安心して受けられる社会に
アンケートからは、更年期医療の現状に医師自身が課題を感じていることが見えてきました。一方で、この状況をどうにかしたい、医療者として更年期にきちんと向き合いたいという医師も多くいます。
当事者の皆さんが全国どこでも医療機関を安心して受診できるようにどうすれば良いのか。私たちは取材を通して、みなさんとともに考えていきます。記事に対する感想や意見、あなたの体験談、取材してほしい内容などを、下の「コメントする」からお寄せください。
更年期症状に詳しい専門医・専門資格者は
▼日本女性医学学会
https://www.jmwh.jp/
更年期症状・治療に関する相談は
▼一般社団法人 女性の健康とメノポーズ協会
https://www.meno-sg.net/
電話番号 03-3351-8001(火曜・木曜 11~16時 無料相談実施 8月は休止)
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NHKスペシャル「#みんなの更年期」
2022年4月16日(土)総合・夜10時放送
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