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子どもに「美容整形したい」と言われたら

「美容整形を受けたい」「実際にプチ整形をした」という10代の子どもは増えています。ある大手クリニックでは、二重まぶたにする施術を受けたという10代の患者の数が4年で6.7倍にも増えたといいます。

施術の方法で最も多いのは「二重埋没法」。まぶたの裏側から糸を通し、2、3か所を固定して二重のラインを作ります。比較的短い時間で行えて、腫れや内出血などが少ないのが特徴です。さらに、二重施術と並んで10代で増えているのが「注入施術」。涙袋や唇をボリュームアップをさせるための「ヒアルロン酸注射」、肩の筋肉を緩めて華奢(きゃしゃ)に見せる「ボトックス注射」、ダイエットのために脂肪細胞を溶かして身体から排出する「脂肪溶解注射」・・・。

親からすると「どれも子どもに必要ない!」と思う方もいるでしょう。しかし、SNSでは「見た目の良さ」を競い、電車の中でもテレビの中でも、そこら中に美容クリニックの広告があふれる時代。美容整形は特別なものではないという意識が子どもたちの中に根付きはじめていることが、増加の背景にあるのかもしれません。

しかし、美容医療の専門家は、多くの美容クリニックが営業成績やノルマを優先させ、施術のリスクの説明が不十分であることに警鐘を鳴らしています。さらに、消費生活センターには、美容医療をめぐるトラブルの相談も相次いで寄せられています。

そこで、この記事では10代の子どもたちの「美容整形」のリスクや、実際に起きたトラブルを紹介します。さらに、見た目を気にするわが子にどう声かけすればいいのか、発達心理の専門家のアドバイスもまとめています。

子どもに美容整形したいと言われたら…? “そのとき”、あなたはどう判断しますか?

子どもの美容医療 “リスク”

こちらのグラフは、大手クリニックで、二重まぶたにする施術を受けたという10代の患者の数。4年で6.7倍にも増えています。

二重手術をした10代の患者数(イセアクリニックの場合)

子どもが美容医療を受ける上で、どんなリスクがあるのでしょうか。

お話を伺ったのは形成外科の専門医で、美容外科も行っている医師の大慈弥裕之さんです。大慈弥さんは、子どもの眼瞼下垂(上まぶたが下がってしまう病気)などの治療の他、美容医療の分野でも子どもたちの手術を行っています。

日本美容外科学会 元理事長 大慈弥裕之さん

聞き手 上野陽子ディレクター

(上野ディレクター)
まずは、美容医療を行う子どもが増えていることについてどのように感じていらっしゃるか、教えて下さい。

大慈弥さん

日本では美容医療や自費診療についての体制や法律の整備が遅れていることも事実です。しかし、美容医療はあくまで“医療行為”です。けがや病気の時に行う手術と同じく、一定の割合で合併症や後遺症のリスクがあります。子どもが美容医療を受けたいという場合には、親子で様々な情報を調べ、慎重に話し合い、専門医にも相談した上で、リスクとメリットを十分に検討してほしいと思います。


その上で、デメリットよりメリットの方が大きいと判断した場合は、美容医療を受けることは決して悪いことではないと思います。むしろ前向きな医療として正当に評価されて良いと思っています。


たとえば、二重まぶたの形成手術は、目の機能の改善と患者さんのコンプレックスが解消することが期待できます。一重まぶたの人は、まぶたの皮膚が垂れ下がって無意識のうちに視野を妨げていることがあります。このような人に二重形成をおこなうと、視野が広がり上の方までよく見えるようなります。額の緊張もとれ、頭痛や肩こりが改善することもあります。逆まつげの改善にも有効です。


見た目に関しては、二重になることで患者さんが抱えていた見た目の悩みが解消され、前向きな気持ちにさせてくれる効果が期待できます。


ただし、二重の幅や形はその人のまぶたの構造やご本人の希望によって異なるので、美容的な点にまでこだわる場合は、より専門的な知識と技術を持った専門医(形成外科専門医または美容外科専門医)に相談することをお勧めします。

一方で、子どもの美容医療のリスクにはどんなものがあるのでしょうか?

大慈弥さん

まずは、「子どもは大人と違って美容医療施術後の人生が長いので、結果的にメリットになっているのかどうか保証ができない」というリスクです。


たとえば、まぶたを二重にする施術。その時は「希望のデザイン」に仕上がったとしても5年、10年、30年と年齢を重ねた時に、形が変わってしまったり、逆に施術した部分だけ不自然に若々しくなってしまったりする可能性もないとはいえません。30年後に「美容医療を受けてよかった」と思えるのかどうか、施術後の、さらにその先のことは保証できないということです。

若い人が好む「希望のデザイン」とは、どんなものなのでしょうか。

大慈弥さん

近年、「美容医療を受けたい」と相談にいらっしゃる若い方の中には、まるでヘアカットするかのように「こんなデザインにしてほしい」と写真を持ってくる方もいらっしゃいます。漫画のように目が縦に大きいとか、その時の流行りの目の形など、現実離れした写真をお持ちになり、そのために目頭や目じりを切開したり、下まぶたを引き下げたりする手術も受けたいという方もいます。 こうした手術を希望する子どもの低年齢化を心配しています。

そうした子どもの二重手術には、リスクはないのでしょうか?

大慈弥さん

たとえば、目の機能障害と見た目の問題というリスクが生じます。


機能障害というのは、たとえば、上まぶたや下まぶたが開きすぎると、眼が閉じにくくなり「兎眼」という状態が生じ、ひどい場合には黒眼(角膜)に傷ができ眼障害が生じるほか、まぶたに左右の差ができてしまうことがあります。年をとると下瞼もたるみやすくなって症状が出やすくなるので、長期的な治療が必要になることを考えておかなくてはいけません。


見た目については、まぶたの開きすぎは驚いた目やきつい印象になることがあります。また、将来、個人や社会の美意識が変化することが考えられます。たとえば、日本では戦後しばらくは劇的な顔の変化を求める傾向にあり、西洋人のような目もとや鼻が理想とされていました。しかし現在では、東洋人として違和感のない形が好まれるようになっています。美意識が変化したときに、「二重の手術をやりなおしたい」という気持ちが生まれる可能性も考えられますが、美容医療は化粧とは異なり元に戻すことはできません。

深刻な結果を招く場合もあるということなのですね。

大慈弥さん

そうですね。ほかにも二重まぶたの形成手術で一番多いリスクは、「不満足結果」というリスクです。二重の幅は、0.5ミリ違うだけでも表情は全く変わります。もし、医者側が「うまく仕上がった」と思っても、患者さんからすると「思っていたイメージと違った」と感じた場合、それは「不満足結果」になります。特に、最近のお子さんたちはSNSの影響を大きく受けているので、理想像が高く、「美容医療を受ければ、こんな二重になれる!」と思い込んでしまう傾向にあります。施術の効果やリスクは人によって差があることを患者さんにも理解してもらう必要があります。

もし「望んだとおりに仕上がらなかった」場合は、どうなるのでしょうか。

大慈弥さん

まずは担当医によくご相談下さい。しかし、修復手術にもリスクと限界があるので、医学的に「修復できない」と判断されることもあります。実は、修復の技術は美容形成手術よりも難しいのです。


美容医療に携わる医師たちは、修復の知識と技術を獲得していくために日々、形成外科のトレーニングを積んでいますが、医師によって差がでてしまうことはどうしても仕方のないことです。そして、知識と技術はあっても、クリニックのノルマに追われて患者さんの悩みに寄り添う心に欠けている医師もいます。ですので、トラブルが生じた時に対応できる実力ある専門医、またはクリニックであるかかどうかという点は、クリニック選びにおいて最も重要です。

ただ、SNSに出てくる美容医療の広告や、動画を見てみると、思いどおりの形が簡単にできると、子どもが期待を持ってしまうのも仕方がないのではないかと感じます。

大慈弥さん

繰り返しになりますが、美容医療は“医療”ですから、効果もありますが、リスクや限界もあることを理解することが最も大切です。その上で、広告には注意をする必要があります。


美容医療広告は、安全でトラブルのない診療を行うため、「医療法」などによってその表現が規制されています。ホームページやポスター、CM、SNSなどでは虚偽広告や誇大広告等が禁止されています。


しかしSNSを見てみると、今も「安い」「痛みが少ない」「ビフォーアフター動画」などメリットが強調され劇的な変化が目立つように表示されているケースも少なくありません。


ですから、こうした動画を鵜呑みにせず、形成外科学会や美容医療外科学会のホームページなど、特定の美容医療クリニックに限らずに、ぜひ参考にしてください。適正な治療法や医師のプロフィールなど、様々な情報が載っています。

日本形成外科学会 (NHKサイトを離れます)
日本美容外科学会 (NHKサイトを離れます)

教えていただいたような、美容医療に関するリスクについては、美容医療クリニックではきちんと説明されているのでしょうか?

大慈弥さん

残念ながら、そうとは言えません。リスクを説明することで美容医療を躊躇する人が増えてしまい「美容医療がビジネスとして成り立たなくなってしまう」と考えるクリニックがあるからです。


医療行為を行う際、医師は16歳以上の患者に対して「インフォームド・コンセント」を行うことが医療法で定められています。そして、義務付けはされていないものの、15歳未満の子どもに対しては「インフォームド・アセント」を行うことが一般的になっています。


これは、行われる施術に対し、医師がメリットとデメリットを十分に説明し、本人とその保護者の同意を得た上で、実際の医療行為を行うというものです。しかし、その説明が不十分だったり、メリットばかりを強調して説明するクリニックが一部あるのです。

施術を受ける側も、きちんとリスクを理解し、医師とコミュニケーションをとることが大事なのではないかと感じています。

大慈弥さん

私としては、リスクや限界について十分に説明した方が、むしろ患者さんも安心して治療を受けてもらえるように思いますし、万が一トラブルが生じた場合にも冷静に対応できると思っています。


そのため、私は、美容外科手術を受けたいという患者さんに対しては、その日にすることはしません。リスクなどを説明した上で、一度持ち帰ってご家族で話し合いをしていただくようにお話ししています。

子どもの美容医療で実際に起きたトラブル事例

続いて「子どもの美容医療をめぐるトラブル」について見ていきます。
お話を伺ったのは、東京都消費者生活総合センターの高村淳子さんです。

(上野ディレクター)
子どもの美容医療トラブルについては、どれぐらいの数の相談が寄せられていますか?

高村さん

大人よりは少ないですが、消費者庁が全国の市区町村に設置している相談窓口「消費者ホットライン188」には、主に、保護者からの相談が日々寄せられています。こちらは昨年の3月までのデータです。

2018年から2023年の間で、東京都内の消費生活センターに寄せられた子どもの美容医療に関する相談件数は115件。2022年に特に相談件数が急増しているのは、新型コロナウィルス対策の行動規制や自粛が緩和したこと、成年年齢の引き下げにより高校生でも18歳になれば契約ができるようになったことが影響していると考えられます。

どんな相談が多いのでしょうか?

高村さん

115件の内訳は、医療脱毛60件、二重施術に関して18件、鼻の美容整形について9件、痩身について8件、頬の施術に関して(ボトックス等輪郭)5件、包茎2件。あとは全身など特定できないケースです。具体的な相談内容で一番多いのが、解約・解約料に関するものです。次いで、料金に関するもの(高額等)、そして安全(けがなど)に関するものです。何件が、具体的なトラブルをご紹介します。

トラブル① 二重の施術

18歳の娘がネット広告で見つけた「3万円程度でできる二重術」を受けたいというので母親が同行しカウンセリングを受けた。そこで 「1時間弱の簡単な手術」「まぶたの脂肪を取るとすっきりして見える」など長時間勧誘され、結局80万円近くを支払い、二重の施術とまぶたの脂肪摘出術の契約をした。しかし、実際の施術は2時間以上もかかり、術後は腫れがひどく目が開けられない状態になった。話が違い過ぎるがどうしたらよいか。

トラブル② 鼻の美容整形

17歳の娘が「どうしても鼻を高くしたい」というので一緒に美容クリニックのカウンセリングを受けた。「切開しない方法で鼻を高くすることができる」「モニターになれば安くなる」などと言われ、高額で契約した。しかし、施術後1か月もしないうちに元に戻ってしまい、効果はなかった。クリニックに理由を問い合わせたところ、「まれに効果が実感できない人がいる」との返事。解約を申し出たが、既に手術済みのため返金は難しいという。なんとか返金してもらえる手はないか?

トラブル③ 目頭切開の手術

以前から美容整形に興味を持っていた18歳の娘。鼻を高くする施術、目を大きく見せるための目頭切開、頬へのヒアルロン酸注入などの美容医療を、親に言わずに勝手に受けてしまった。150万円以上になった手術代のうち半額についてはローンを組み、残りは親を保証人にして返済をする契約を結んでいた。クリニック側は子どもにこんなに高額なローンを組ませてもいいものなのか。

トラブル④ 脱毛

17歳の娘がSNSの広告で見つけた脱毛クリニックで、親の同意のもと60万円で10回の施術が受けられるコースを契約。しかし、予約をしても確認のメールが届かず、おかしいと思い問い合わせたところ、連絡が取れなくなってしまった。まだ2回しか施術を受けていないが、倒産したのだろうか?

高村さん

このほかにも、“無料カウンセリング”といううたい文句に興味を持ち、クリニックに来た子どもに対し、高額なコースをローンで契約させようとしたり、「今日中に契約すれば安くなる」など、強引・悪質な勧誘で断れない状況を作ったりするクリニックもあるので注意が必要です。

こうしたトラブルは、解決できるのでしょうか?

高村さん

契約の取り消しなど金銭に関するトラブルについては、解決できるものも多くあります。しかし、受けた相談の中では、手術の結果に対する不満や事故などについては、取り返しのつかないものも多くありました。そこで感じるのは、美容医療を安易に捉えているお子さんが非常に多いということです。「安い費用で理想の姿になれる!」と、飛びつきたくなる気持ちも分かりますが、美容医療で受ける手術はけがや病気で受けるものと同じです。そもそも今受ける必要のあるのか、いったん立ち止まって冷静に考えていただきたいと思います。


また、強引に契約を迫られる場面になることを想定し、自分だったら何と返事をするのか、シミュレーションをしていくことも大事なことかと思います。

◆厚生労働省のホームページには、美容医療に関するチェックシートが掲載されています。

厚生労働省ホームページ (NHKサイトを離れます)

◆実際にトラブルにあってしまった場合は消費者庁が全国の市区町村に設置している相談窓口「消費者ホットライン188」があります。

◆消費者が契約後、一定の期間内であれば一方的に無条件で契約を解除することもできます。

クーリングオフの手続き方法(国民生活センター) (NHKサイトを離れます)

それでも、どうしても美容整形がしたいと言われたら

子どもに「美容整形がしたい」と言われたら、親としては様々なリスクやトラブルがあることを説明するのは大切なことです。しかし、それでもなお、どうしても美容整形をしたい、と子どもに言われてしまったら、親はどうすればいいのでしょうか?

大学生の一人娘を育てるNさんは、まさにそんな経験をしたと言います。

Nさんの娘、はるかさんが見た目を気にし始めたのは、高校に入学してすぐのことでした。そのきっかけのひとつが、クラスメートから「目つきが悪いから怖い子かと思った」と言われたことだったと言います。

「目つきが悪いのは、私が一重まぶただから・・・?」

それから、周囲の言葉や笑い声が、まるで自分に向けられているように感じるようになりました。

「みんなかわいくていいなぁ」「なんで私はこんな顔に生まれたんだろう」と自分の見た目について頻繁に口にするようになった娘。母親のNさんは、自分を否定してほしくない一心で、こう語りかけたと言います。

「あなたはかわいい」「人間は見た目ではない」

しかし、娘の気持ちが晴れることはありませんでした。

そんな日々の中で起こったコロナによる外出自粛。大学生になったはるかさんは、一日中SNS の投稿や動画を見て過ごすようになりました。他人と比較することで「見た目」についての悩みは深まっていきました。

そしてある日、はるかさんは両親に「美容整形をする」という決意を打ち明けました。
アルバイトをして費用の準備も済ませていたはるかさん。

リスクがあることも調べ、それでも美容整形を受けたいと説明しました。

Nさん

社会に出れば、娘のことを褒めてくれる人も出てくるから今やる必要はないと思ったし、リスクが心配だった。それに、一回やって次、また次、、、と美容整形が止まらなくなるんじゃないかという不安がありました。

しかし、両親がどんなに懸命に説得をしても、はるかさんの決意は揺らぐことはありませんでした。

Nさん

娘の意志の固さに、それ以上の言葉が出てこなかった。美容整形を認めたというよりも、『仕方がないな』・・・という気持ちでした。

親の「あなたはかわいい」は届かない・・・!?

娘に繰り返し「あなたはかわいい」と伝え続けたという母親のNさん。その背景にはこんな気持ちがありました。

Nさん

年頃の可愛らしさというか、美しさってあるじゃないですか。本人が気に入らなかったとしても、親としてはそのままでいいというか、愛してるっていうことをやっぱり揺るがすわけにはいかないっていうか、それは伝えたいと思いました。

一方で、娘のはるかさんは母親から言われ続けた言葉には今も複雑な思いがあると言います。

Nさんの娘のはるかさん
はるかさん

いくら見た目がすべてじゃないっていうふうに言われても、普通の精神状態ではないから、そういうふうに思えないし。やっぱり美意識や美の規範というのがこれだけ社会に浸透しているのだから、美容整形は“美しくなろう、心が健康になろう”とする努力だととらえてほしい。そうすれば、価値観の押し付けや偏見というのはなくなると思います

では、子どもが「リスクがあっても美容整形したい」と言い始めたら、親はどうすればいいのでしょうか?

最後に、発達心理学の専門家、渡辺弥生さんのアドバイスをご紹介します。

渡辺弥生さん(法政大学 文学部心理学科教授)

■子どもが劣等感を持つのは当然

渡辺さん

まず、発達的に見ると小学校高学年ぐらいから、自分と他者と比べながら自己嫌悪や劣等感を持ちやすい時期に入ります。ただ、発達心理学では劣等感を持つこと自体は悪いことではないと考えられています。思春期近くなると対人関係も広がりますし、過去のことを思い返したり、先行きの不安を感じる中、さまざまな思いや葛藤を持つのは成長の証であるといえるからです。劣等感とかネガティブな感情を持つ経験をすると、他の人の劣等感とか上手くいかなくてつらい気持ちなども想像できるようになります。共感する力も育まれます。また、劣等感があることからこそ「じゃあ、自分のいいとこどこなんだろう」とか「自分らしさを伸ばすってどういうことなんだろう」という自分探しも始まり、深く考えられるわけです。そういう意味で、劣等感を持つことは、その後の成長にとても大切な経験だと思います。

■親が答えを用意する必要はない

渡辺さん

子どもが悩みを感じた時、親自身も不安と焦りから、「自分が答えをあげなきゃいけない」と思い過ぎなのではないでしょうか。親自身も他の親子と比べたりして、ストレスを抱えがちです。でも、子どもが悩んでいるときにはまず、子どもに共感してあげましょう。「生きていくということは難しいことだよね。なんで自分だけって嫌になることがあるよね。そうだよね、そういう時って本当に苦しいよね・・・」と。いつでも困った時に一緒に感じてくれる、考えてくれるという、親からの何気ない、あたたかな関わりが大事なのかなと思います。

■大事なことを伝えられるのも、親

渡辺さん

10代の頃の子どもは、第二次性徴の影響も受け、「成績」「友人関係」「性格」「身体的魅力」などについて、他人と比較して悩むことが少なくありません。そして、青年期後半になると自己探究が始まり、悩みは「自分は誰なのか」「自分はどう生きていくのか」という抽象的なものに変化していきます。


しかし、思春期真っ只中の頃は葛藤や不安をなかなか正面から受け止められず、目先や束の間の楽しさを求めがちです。「人間は見た目じゃない」とか「人生とは何か」など、親が語る人生論は、子どもからするとどこか強制されているように感じられ、面倒な話だと嫌がることが少なくありません。でも、それは大きな不安を抱えているからこそ、つっぱってバランスを取ろうとしているということ。親が期待する子になれないよ、という気持ちの表れでもあります。


それでもなお、思春期の子どもの「ウザいなぁ!」をうまく交わしながら、その背景にある気持ちに寄り添い、支えてあげたいという思いを親が伝え続けることは大事なことだと思います。


また、子どもにとって、親は一番身近な「人生のロールモデル」です。親自身が悩みながらも解決していく姿をありのまま見せていくことも、子どもが生き方に悩んだ時のヒントになると思います。

■では、大事なことはどうやって伝えるか?

渡辺さん

【子どもが安易に喜ぶ言葉かけだけをしない】


親が一緒にテレビを見たり、食事をしたりしながら、押しつけがましくない程度に親の考えを伝えるのは良いことだと思います。ただ、「あの人かわいいね」など表層的なことばかりを話題にすると、子どもは「かわいい方がいいんだ」と見た目を気にするきっかけになりかねません。心の中を軽視してしまうリスクもあります。たとえば、「あの人、〇○していて優しいね」とか、「あの人は一見無愛想に見えるけど、さりげなく助けてくれる人なんだよね~」など、子どもが気づいていいない「人の心の豊かさ」に気づくような言葉かけをすると良いでしょう。

渡辺さん

【言葉だけでなく、具体的な解決方法を一緒に考えてみる】


一緒に映画を見たり、本を読んだり、登場人物の考え方や内面について「こんなことが大切だよね」と語り合ったりすることは、子どもが気づくきっかけ作りになります。その上で、子どもが抱える悩みや葛藤について「~するとどうだろう」「あー、こうしたら、こんなことが起きるかもね」「こういう時は、まず美味しいものを食べよう」など、一緒になって考えながら、いろいろな解決法があることに気づかせてあげましょう。ちょっと難しいかもしれませんが、子どもが実行できそうな、具体的な考えを、押し付けずに、さらっと提案する…。子どもが反論してきたとしても、子どもの気持ちがより詳しくわかり、さらに寄り添いながら考えことができるようになります。

【取材後記】

「美容整形したい」・・・わが子の言葉がきっかけで始めた今回の取材。「まだ子どもなのに」「リスクわかってる?」・・・当初はそんな思いが湧いてきました。

しかし今回、「美容整形を受けたい」「実際に受けた」と言う子どもたちの声をきくと、その多くは「可愛くないと人生楽しくない」「二重のほうがかわいい」「勉強や友人関係など上手くいかないのは顔のせい」など、それぞれが真剣に悩み・・・そして、SNSに投稿される美容クリニックの施術写真や、動画を熱心に見ており、「リスクがあっても整形をしたい」と考えていました。

美容整形の広告はテレビや電車、雑誌、SNSなどいたるところで見かけ、「美しさを手に入れよう」と呼び掛けています。特に「若者向け」の広告は、制服を着たモデルが「青春」をアピールしたキャッチコピーがついていたり、「学割」を設けていたり・・・、劣等感を持ちやすい時期の子どもたちのコンプレックスを、過度に刺激しすぎているように思います。

一方で、「整形したい」という子どもたちの話を聞いていると、「自分の顔が嫌だという気持ちをなぜ分かってくれない」、「親のいう『あなたはかわいい』はきれいごと」、「どうせ反対されるんだから親に話そうと思わない」など、自分の気持ちが親に伝わらない歯がゆさを口にしていました。 実際に整形に踏み切った大学生はるかさんも、何度も両親と言い争いをしたエピソードを振り返り、「否定してくれてもいいんです。でもまず、私の話を聞いほしかった。それだけで心は救われたのに」とも話していました。

子どもに「美容整形したい」と言われたら・・・。取材を経て私自身が感じていることは、一人の社会人としては、美しいことが大切であると子どもに思わせるような社会には賛成しない立場を保ちながらも、わが子の親としては「美容整形を認める、認めない」ということにこだわるのではなく、まずは子どもの思いに耳を傾ける。『親の思い』を“盾”にして、子どもと美容整形について話し合うことを避けてはならないことだと感じています。

子どもに美容整形をしたい、と言われたら・・・みなさんはどう答えますか?

みんなのコメント(1件)

感想
ysm
40代 女性
2024年5月26日
子供の整形について。
私にはいま小学6年生の娘がいます。
娘は私に似て一重です。
私は若い頃自分の一重の目がすごく嫌で、今でも二重に整形したいと思っています。
最近娘が、なんで一重なんだろ…と言うようになり、きっとこの先私と同じように悩んでくるのかな...。と思い娘には、どうしても一重が嫌なら整形もありだと思うよ。と伝えています。
二重にすることによって、娘のコンプレックスが一つ取り除けて、今以上に笑って過ごせるなら私は反対しません。