みんなでプラス メニューへ移動 メインコンテンツへ移動

みんなでプラス

教えて!“放置竹林”の活用アイデア

今回寄せられた地域の課題は、整備されない竹が広がってしまう、いわゆる“放置竹林”の問題です。「竹が放置されると、いったい何が問題なの?」と感じる人もいるかもしれませんが、獣害などさまざまな被害を引き起こしてしまいます。一方、竹は活用次第では「害」ではなく「財」にもなります。竹に関するお悩みと活用の最前線を取材しました。

【関連番組】

祖父から引き継いだ山 竹林を管理する人がいない・・・

福岡県北九州市に住む鎌田雅光さん(44歳)から寄せられたのは「家族で所有している竹林を管理する人手が足りない」というお悩みです。

祖父の代から竹林を保有し、幼いころは毎春、家族でタケノコ掘りを楽しんでいました。
しかし、社会人になって実家を離れたため、山のことにほとんど触れることはできず、父の体力も落ち、この数年は手入れも、タケノコ堀りもできない状態になってしまいました。
去年の春に伸び切ったタケノコの間伐、秋冬に枯れた竹の伐採をしましたが、こういった作業ができるのは、私と姉の二人だけです。
竹林の片付けや活用法などアイデアがあれば、教えてほしいです。

鎌田さんが生まれ育ったのは、JR小倉駅から車で30分ほどにある福岡県北九州市志井地区。付近には日田彦山線が走り、青々とした山や田園風景が広がっています。鎌田さんの家族は、この場所にある広大な山林を祖父から引き継ぎました。
鎌田さんに案内され、実際に山に足を踏み入れると、普段の生活ではありえないほどの大量の蚊が寄ってきました。夏の山は蚊が多いので、山に入ることはほとんどないといいます。今回、取材のためにわざわざ案内してくださった鎌田さんに感謝しつつ、蚊を払いながら歩いていると、目に入ってきたのが竹やぶでした。すると、鎌田さんが、ぽつり…。

鎌田さん

荒れ放題。古い竹は、切らないと…

緑色の竹の中には、黄色になった古い竹もたくさん混じっていました。竹は1日で1メートルも伸びることがあるほど繁殖力が強く、こまめな管理が必要です。

しかし、祖父から山を引き継いだ父親は70歳を過ぎて体力が衰え、鎌田さん自身も今は地元から離れて働いているため、山に入れるのは年に数回だけ。整備ができずに荒れた竹林には、イノシシの住み処と見られる場所もありました。

「このままだと獣害などで地域の人たちに迷惑をかけてしまうのでは…」日々、不安を募らせているといいます。

荒れた竹林を放っておくと、地域社会に被害が…

放置竹林が引き起こす主な被害は、獣害だけではありません。倒れた竹が交通網や電線などを寸断したり、繁殖力の強い竹が家屋の床から突き出したり。さらには土砂崩れの危険性もあるといいます。

放置竹林が引き起こす詳しい被害については、以下の記事をご覧下さい。

家族との思い出が詰まった竹林を守りたい

鎌田さん

なんとかしたいんですけどね…

鎌田さんが「竹林を整備したい」と悩んでいる理由は「地域に迷惑をかけたくない」という気持ちのほかにもあります。

幼いころ、毎年春になると、山に入ってタケノコを掘るのが家族の行事でした。特におじいちゃんっ子だった鎌田さんは、一緒に作業したり、収穫したタケノコを使って料理をしたりするのが楽しくて、大好きだったといいます。自分たちで掘ったタケノコで作る煮付けは、まさにふるさとの味。竹林には、家族との思い出がたくさん詰まっているのです。

鎌田さんは、そんな幼いころの記憶や祖父に対する思いから「これからも山を手放さずに自分たちで管理したい」と考え、時間を見つけては、インターネットなどで竹の活用法などについて情報収集をしているといいます。その一環で今回、NHKにメールを寄せてくれたのです。

全国各地で広がる竹林の面積

林野庁が調査した最新のデータ(2017年)によると、日本の竹林面積は、およそ16万7000ヘクタール。15年前と比べると、東京ドームでおよそ2100個分も増加しています。

その理由として、外国からの安価な竹材輸入の増加、たけのこ生産農家の後継者不足、プラスチック素材の需要の高まりなどから国産の竹の需要が減り、荒れた山が増え続けていることが指摘されています。

竹林面積は、鹿児島県や大分県など九州が上位を占め、西日本に多く分布していますが、この数年は、温暖化の影響で宮城県など東北にも広がっているといいます。

舗装材、洗剤、観光資源…竹活用の最新事例

   福岡大学工学部教授 佐藤研一さん

一方、環境問題への関心の高まりの中、放置竹林問題に目を向け、さまざまな竹の活用に取り組む事例も全国各地で増えています。

今回、竹活用の最前線についてお話をうかがったのは「竹イノベーション学会」の代表を務める福岡大学工学部教授の佐藤研一さんです。「竹イノベーション学会」は、2012年に放置竹林問題の解決を目指し、竹の活用技術を持っている大学、行政、企業などが、“竹”をキーワードにした全国的なネットワーク作りを目的として設立されました。

参加している団体は現在、全国各地で130を超え、その技術は、新素材開発、文化活動、里山保全、竹廃材利用、観光資源、食材、土木、家具など多岐の分野に渡っています。

その中で、活用が進んでいるひとつが土系の舗装材です。
材料となる土に固化材と竹チップを入れると、竹のしなやかさが加わって、ひび割れの防止や衝撃吸収性の増加につながり、耐久性や歩き心地が向上することが福岡大学などの研究によって明らかになっています。公園やグラウンド、動物園、教育施設などで活用が進んでいるといいます。

さらに今、注目されているのが、山口県の企業が開発した竹から作る洗濯用洗剤です。原材料は竹炭、竹炭灰、湧水のみ。洗剤に含まれるアルカリ成分が皮脂汚れなどの脂肪酸と結合して石鹸になることで汚れが分解されるといいます。

原材料のもとになる竹は、主に山口県内にある放置竹林を整備するために計画的に伐採されたものです。この企業は今年8月、山口県、宇部市、美祢市などと協力し、山口県産の竹製品のブランディングを目指す団体「YAMAGUCHI Bamboo Mission」を立ち上げました。今後、竹の供給や活用に関する情報提供、マッチング支援、企業間連携などを進めていく予定です。

また、竹林は、観光資源としても活用できるといいます。栃木県宇都宮市にある農場では、毎年、品質の良いたけのこを生産するため、20ヘクタールを超える竹林を間伐するなど、徹底管理しています。

放置竹林が増加している今、手入れが行き届いた竹林が少なくなってしまっているため、数年前から映画やドラマ、CMなどのロケ地として重宝されるようになったといいます。そして今では、その整備された竹林が観光資源として有料で一般公開されています。

竹の活用 カギは、地域での需要と供給のマッチング

佐藤さんは、放置竹林の解決策として竹の活用を進めるためには「需要と供給のバランスをとり、収益性を高めることが大切」と話します。鎌田さんのように放置竹林で悩む人がいる一方で、竹を入手することに苦労している企業や人もいます。

地域で竹の需要が減ったことで、そもそも竹を伐採する人が減ってしまいました。竹の需要が高まっていても、竹自体を安定的に手に入れることが難しく、竹活用の壁になっている状況もあるといいます。中には、国産の竹を使いたくても、入手するのにコストがかかってしまうため、量はあっても安価な海外産に頼らざるを得なかったり、志半ばで事業を中止してしまったりするケースも少なくないといいます。

また、全国各地で今、放置竹林を活用した国産のメンマづくりが進んでいますが、原材料を確保しようと、無断で私有地の竹林に入ってしまい、トラブルになるケースも起きています。

“放置竹林”といっても、所有者がいれば“私有財産”で、無断で入ってしまえば不法侵入になります。佐藤さんは今後、竹の需要が伸びれば、どこでとった竹なのか、いわゆる「トレーサビリティ」のような考え方も必要になってくるのではないかと考えています。 

放置竹林に悩む人がいる一方で、竹をほしがっている人もいる・・・。佐藤さんは「このミスマッチを解消できれば、竹によって新しい産業を生み出せることもできる。そのためには、竹に関する情報や技術を共有するネットワークを広げていくことが重要」と指摘します。鎌田さんに今回の取材内容を伝えると「1人で悩むのではなく、地域の人たちと一緒に活用の方法を探っていければ」と話しました。同じ地域で竹の需要と供給をマッチングさせる事例を積み重ねていくことがこの問題を解決していく方法のひとつだと感じました。

NHKでは、放置竹林だけではなく、地域のお悩みごとに関する情報を募集しています。以下のサイトまで、お悩みや対策などぜひお寄せください。

【関連番組】

この記事の執筆者

第2制作センター ディレクター(「1ミリ革命」プロジェクト・クローズアップ現代)
阿部 公信

福島県いわき市出身。福井局や大分局での勤務経験などをいかし、地域課題の解決を目指すコンテンツを制作。みなさんからの情報提供をいかした“エンゲージドジャーナリズム”に力を入れている。

みんなのコメント(0件)