長濱ねるさんと考えるファッション問題
あなたがふだん着ている洋服。環境に大きな負荷をかけていると考えたことはありますか?
ファッション産業は大量生産、大量消費、大量廃棄が繰り返され、環境への負荷が問題になっています。
ファッション産業を持続可能にするために、いま私たちができることはあるのでしょうか?
ラジオ番組「ちきゅうラジオ」では、タレントの長濱ねるさん、大学生、ファッション業界に詳しい専門家たちを招いて、私たちの生活に身近なファッションとSDGsについて一緒に考えました。
(地球のミライ取材班)
身につけるものはサステイナブルで
世界のさまざまな文化や価値観を紹介する番組「ちきゅうラジオ」では、NHKのSDGsキャンペーンと「未来へ17acition」とコラボ。
ファッション問題について、「未来へ17acition」でSDGsを学んでいる長濱ねるさん、SDGs研究の第一人者で慶應義塾大学大学院教授の蟹江憲史さんとゼミの学生、ファッションの分野で積極的にSDGsの取り組みを行っている企業の人と一緒に考えました。
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長濱ねるさん(俳優・タレント)
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・NHKのSDGsキャンペーン「未来へ17action」で「長濱ねるのSDGs日記」を担当。
・SDGsに興味をもち、東京コレクションでリポーターとして、 ブランドのSDGsについての取り組みを伝える。
ファッションから持続可能な社会をつくるにはどうしたらよいか。
話しは、ファッションが大好きだというねるさんが着ている洋服の話題になりました。
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中村アナウンサー
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きょう着ている洋服、ブラウンのセットアップでとてもすてきですね。
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ねるさん
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このセットアップは材料から製作販売まで、すべての工程を国内で行っている「エシカルファッション」です。
ブーツは“靴と革の街”でもある浅草の企業で作られているリアルレザーのものです。SDGsの取り組みにとても力を入れているということで、2足購入しました。
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中村アナウンサー
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そうなんですか?
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ねるさん
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はい、ふだんから履いています。SDGsを勉強すると、「エコレザーやフェイクファーを推し進めましょう」という話しをよく耳にしますし、私自身、皮を使うのは動物に悪いと思っていました。
しかし、店の人に話を伺うと、革製品を作るために牛を育てている割合はとても少なく、「畜産業として利用された牛たちを余すことなく、皮まで再利用して製品にしている」と聞きました。
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中村アナウンサー
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洋服は毎日身につけるものですし、そこを意識するかどうかはとても大きいですよね。
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ねるさん
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そうなんです。持続可能な社会をつくるために、服が環境にどんな影響を与えているのかを知り、その上で私たちは実際に何ができるかということを考えることができたらいいと思います。
番組に参加した学生たちが着ている服にもサステイナブルを意識したこだわりがありました。
ふだんからお下がりの洋服を着ることが多いという上野萌々花さん。手にしていたコートも兄の友人から引き継いだものです。
約20年前のコートになりますが、革というのもあって味が出ていて、とてもお気に入りです。長く使っています。
松浪喜生さんが着ているのは古着のニット。また、ズボンは祖父から譲り受けたものです。
自分のおじいちゃんが車をいじる時にずっと使っていた味の出ているズボンです。30~40年ほど前から持っているそうで、これから(長く)着ていこうかなと思っています。
落合航一郎さんは、トップスやTシャツの素材にこだわっています。
トップスは、100%リサイクルポリエステルでできていますし、インナーのTシャツもリサイクルポリエステルとリサイクルコットンの半分半分です。
ふだんからサステイナビリティーについて考えているという学生たちとねるさんに、
ファッション産業の現状についてのクイズが出題されました。
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中村アナウンサー
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突然ですがクイズです。
日本では1日にどのくらいの量の衣服が、捨てられているでしょうか?
参加者のなかでも答えが分かれました。
「あまり服を捨てることがない」という長濱ねるさんは、少なくあってほしいとの希望を込めて➀番の12トンを選択。松浪さんも自分が家で捨てるごみや服を考え、12トンを選びました。
上野さんは、自分たちが出しているごみと企業が出すごみのことを考え、③番の1200トンに。
落合さんも自分たちが捨てる洋服の量より、ファストファッションなどで売れなくなってしまったものの廃棄量が多いと考え、③番を選びました。
正解はー
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↓
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↓
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③1200トン。
会場からは、「えーっ!?」と驚きの声があがりました。
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ねるさん
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多いですね・・・
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中村アナウンサー
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環境省の調べによりますと、2022年度の1年間で捨てられ、焼却埋め立て処分された衣服の量は、年間で約45万トン。これを着数にすると、17億7000万着以上になります。
この数値を1日あたりで換算しますと、1200トンですね。大型トラック約120台分を毎日焼却埋め立てしていることになります。
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上野さん
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正解しましたがうれしいような、うれしくないような感じはあります。
1日で120台のトラックが着られなくなった服を運んでいると思うと、想像できないと思いました。
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松浪さん
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きちんとしなくていけないなと。人並みな意見ですが古着などを活用してもいいかなと思いました。
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落合さん
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1200トンって多いですね。
捨てられる服だけで大型トラック120台で1日1200トンなら、購入される服も合わせていろいろな原材料の環境負荷まで考えて、17億着以上の環境負荷がかかっているのかと思うと、口がへの字になってしまいます。
「この数字は生活者が服を購入して、その後、家庭から出る服の量に限定しています」と話すのは、環境省の調査に携わっていたというifs未来研究所の山下徹也さん。
山下さんからは、ファッションにはまだまだ分からない部分があるとの話が出ました。
2度ほど環境省でも調査したのですが、実は日本の企業はそんなに製品を捨てていないというような状況です。
ただ、まだ分かっていない部分があって、例えば生活者が環境に配慮した行動として、どこかに引き取ってもらったものはその先のトレーサビリティー(産地や流通の履歴などを管理すること)ができていません。
どういう経路で処理されているのかなど、見えていない部分がたくさんあります。
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中村アナウンサー
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私たちが着ている服が環境に与える問題点について、具体的に教えてもらえますか?
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山下さん
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ファッション産業は国連貿易開発会議(UNCTAD)では石油産業に次ぐ世界で2番目に「環境を汚染する産業」と言われています。生産地の環境負荷が大きいにもかかわらず、大量にごみとして捨てられてしまっている点があると思います。
またサプライチェーン、洋服が作られる工程の中で出てくる環境負荷もあります。例えばコットンであれば、綿花を育てる時に使う農薬が農家の健康被害を引き起こしたり、服を作る際に大量の水を使ったりしています。
2019年の国際機関が調査したデータによると、例えばジーンズ1本を作るのに約7500リットルの水が必要で、これは平均的に1人が7年かけて飲む水の量に相当する量です。
それから、二酸化炭素も多く排出していて、航空業界と海運業界を足したものよりも多い量を排出しているということになります。
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ねるさん
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私は「長濱ねるのSDGs日記」をやってきました。ファッション業界は問題ばかりで本当に耳が痛いです。
ただ、現状を知ってふだんの生活が変わったこともありました。
インドでは手作業で刺しゅうをしている労働者の賃金が安く、伝統的で大切な技術が使われていることが問題視されていることを知りました。それを日本の企業の方が適正価格で売ろうという取り組みをしていたので、洋服を買ってみました。
現状を知れば、自分も何か参加できると思いました。
ファッション産業は、業界の中でもトップレベルで課題が山積しているというのをいろんな所で目にします。だからこそ変えようがあるし、そこが変わっていくと大きな前進になるのではないかなと思います。
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中村アナウンサー
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学生の皆さん、今の話を聞いていて、自分たちも何か力になれたらと思うところはありますか?
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上野さん
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サステイナブルファッションの取り組みを始めたのは*バングラデシュでの事故を題材にした映画を見たことがきっかけだったのですが、自分が着ている服が誰かを傷つけたり、何かを傷つけたりしているのが嫌で、衝撃でした。
サステイナブルファッションに取り組むようになって、現場を伝えていくのはとても大切だと思いました。
*「世界の縫製工場」とも呼ばれるバングラデシュで2013年4月、衣料品を生産する工場のビルが崩壊し、1100人以上が死亡した事故
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松浪さん
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自分はシーズンごとに大量に安い服を購入しています。シンプルな服で製作にあまりコストがかかっていないので、何となく環境にいいのではないかと思っていました。
ごみの量を増やしてしまっているのではないかと考えると、これからどうしていくかを考えて行動していかないといけないなと思います。
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ねるさん
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どうしてもファストファッションを買わないと生活できない世代もいるし、あとは利用している人たちはその背景を知りようがない状況にあると思ったので、今、松浪さんが疑問を持ったり、これからどうしようと考えたりした事自体が、とても意味があることなのかなと思いました。
短いサイクルで大量に生産し販売される衣服のこと。流行のものを安く買えるため、2007年ごろから世界じゅうで大人気となり、一大ブームに。
巨大産業ゆえに、自然環境と人々の労働環境に大きな影響を与えている。
ファッションにおける負荷は環境だけでない
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中村アナウンサー
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地球に優しいファッションについては、例えば俳優の柴咲コウさん、のんさん、モデルの水原希子さんなども取り組まれています。そういった取り組みがあること自体はご存じの方も多いかと思います。
植月さんはエシカルファッションのセレクトショップの代表をされていますが、そもそもエシカルファッションがどんなものなのか簡単に教えていただけますか。
エシカルは、英語で「倫理的な」という意味があります。平たく言うと、服を作る人、環境、あとは動物に配慮している、人と地球に優しいファッションを指すことが多いです。
私は、作る人と環境に配慮した洋服だけを世界中から集めているセレクトショップをやっています。選択肢をもっと増やそうということでバングラデシュの工場をパートナーにして、オリジナルブランドを作ったりもしています。
バングラデシュが被害者ではなく、サステイナブルなファッションを作る先進国になったらいいなということで、「10年前を塗り替える意味」と「これからの10年を作るという意味」、それから「10年着続けられる意味」を込めて新しいブランドを作りました。
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ねるさん
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山下さん、ファッション業界全体で環境に取り組んでいることを示す統一した基準や分かりやすい表示はあるのでしょうか。
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山下さん
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コットン栽培の農薬の話がありましたが、“オーガニックコットンは環境に優しい”と、代名詞のように言われていると思いますが、本物のオーガニックコットンの基準はとても厳しいことをご存じですか?
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中村アナウンサー
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オーガニックというくらいなので有機栽培で肌に優しいかなと思い、子どもの肌着とかはオーガニックコットンのものを選ぶようにしています。
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山下さん
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肌に優しい素材というイメージが皆さんに浸透していると思いますが、実際は洋服や繊維製品に残る農薬の量、残留農薬は普通のコットンと変わらない量なので、残念ながら肌に優しいわけではありません。
本来オーガニックコットンというのは、実は消費者ではなく、生産者に配慮されたというところがポイントになります。
例えば、農薬を使わないので生活エリアを汚染しないで済むこと。農薬を洗い流すために、例えばTシャツ1枚でふつうのコットン(レギュラーコットン)の農薬を流すのに約2500リットルぐらい使うといわれていますが、こうした水が節約できることです。
オーガニックコットンは生産者に配慮した基準をしっかりと持っていることになります。
環境や健康について触れましたが、いまは雇用倫理の点でも児童労働、あるいは強制労働などに対して、しっかり基準の中に織り込んでいる国際基準もあります。
オーガニックコットンの基準というのは、それほど厳格であり明確な部分があります。こういった考え方をもっと皆さんに知っていただきたいです。
15%にとどまるSDGsの達成率
ファッションの場合、特にアパレル業界とSDGsの関連性の高いものとして、
▼目標12「つくる責任 つかう責任」
▼目標13「気候変動に具体的な対策」
などがあります。
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蟹江さん
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SDGsができて、8年、9年たっています。折り返し点なので、当初半分ぐらいはできているのではないかと期待されていましたが、ふたを開けてみたら達成率は15%です。
まだこれから8割以上をやっていかないと2030年までの目標達成は厳しいという状況です。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)で経済的にも社会的にもダメージが大きかったこともありましたが、それに加えて、気候変動の影響が毎年のように激しくなってきています。
もう1つは戦争や紛争の影響です。SDGsを進めていくベースであるはずの「平和」がそもそもなくなってきていて、それどころか破壊行為が進んでいる非常に悪い状況です。そうした中でも報告書で希望の光はいくつか見られます。サステイナブルファッションにしても、いくつかいい取り組みというのが見えてきているので、今後大事になってくるのはそれをいかに広げていくのか、加速させていくかというところだとの話が出ていました。
知られていないファストファッションの取り組み
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ねるさん
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ファッション業界に大きなインパクトを与えているファストファッションですがサステイナブルへの取り組みは今どんな状況なのでしょうか?
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山下さん
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実はグローバル*SPA(製造小売) の中でもサステイナビリティーに取り組んでいるブランドは多いです。あまり知られていませんが、結構早い段階で取り組んでいます。
*衣料品を中心とした製造小売のこと。商品を仕入れて販売するのではなく、自社独自の商品を生産して販売まで手がける業態。作って頂くサプライヤーと協力しながら、トレーサビリティーの部分で透明性を上げていくことに取り組んだり、コットンを始めとしたリサイクル素材に取り組んだり、倫理だけでなく、労働環境、あるいは経営母体の人権全般についてもしっかりデューデリジェンス(人権に対する企業としての継続的な取り組み)をしていくことです。
それから、気候変動の大きな要因となっているグリーンハウスガス。CO2という言い方をしていると思いますが、まずこれを算定して、削減していくための戦略をつくって実行に移していくことをいち早くやりだしたのがファストファッションであったりします。
しかし、実はあまり生活者の皆さんに知られていないのではないかと思いますがいかがでしょうか。
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中村アナウンサー
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そうですね、どうしてですか?
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山下さん
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店頭に行ってもなかなか分かりづらいというのを感じます。
「製品回収しているこの製品は、回収したあとどこに行ってしまうのですか」と聞きますと、店の方がなかなか明確な答えを持っていなくて、本社の人だけが知っているような状況です。
これは逆に言うと、改善できる話なのではないかと思います。
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上野さん
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私がサステイナブルファッションやそうしたブランドを買いたいと思ったときにあまり商品の情報がなくて困ったことがあります。
もっとわかりやすく発信するためにどういったことがあるかを聞きたいです。
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山下さん
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企業は一定の配慮をとった行動を製品に込めてサプライチェーン(材料や部品の調達から販売までの一連の流れ)上で改善をしようとしているので、それをしっかり拾い上げるルールや基準が必要なのではないかと思っています。
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蟹江さん
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SDGsの取り組みでよく出てくる気候変動の問題でも開示が大事だというのは、まず見えないものを見えるようにしましょうと。どこでどれだけ排出されているかを見えるようにしましょうという話です。
見えるようにするのが第一歩で、あまりにも見えないものが多すぎて、製品になって目の前に出てくると、そこしか見ずに「いい服着ているね」で終わってしまう。
今後はいい服というのが多分ストーリーをみていく意味でのいい服になると思います。
楽しくなければサステイナビリティーでない
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ねるさん
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学生の皆さんにふだんファッションとSDGsについて、何か意識していることがあるのか聞きたいのですが、松波さんは何かありますか。
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松浪さん
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大学生になって1人暮らしを始めるようになってから長く使うことを意識して服を購入しようと考えるようになりました。
長く使えるものをそろえておくことで、服に困らないし、自分がずっと好きでいられそうなものに囲まれる状態を作ることができます。
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ねるさん
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自分が何をいいと思うか、かっこいいと思うかを変えるだけで消費行動が変わります。私だったら外に発信することも多いので、長く着た方がかっこよくない?とアピールしていきたいなと松波さんの話を聞いて思いました。
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上野さん
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私も松浪さんと一緒で、いいものを長く着るっていう事を自分の中でテーマにしていて、買うよりは祖父母や両親からのお下がりをよく着ています。
ファッションの流行は何年か周期で回っているという話がありますが、私の世代のトレンドとちょうどマッチするので意外とかわいくて愛用しています。
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落合さん
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洋服1着1着が持っているストーリーだとか、それを着ることによって背負う事になる責任みたいなものを知って、着るようにしています。
自分の内面を表現したり、TPOに合わせた服装をしたりする中で、楽しくなければサステイナビリティーはできないということをいつも頭の片隅に置いています。
持続可能な社会のためにできること
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植月さん
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常々思っているのですが、食べ物は「いただきます」って言うのに、なんで服を着るときは「着させていただきます」と言わないんだろうと。
そういう心遣いから作ってくれた人に感謝したりとか、太陽の恵みに感謝したりとか、日本古来のもともとある風習にあるものだから、着るときだけでも言ったりしたら、もう少し簡単にサステイナビリティーは達成するのではないかと。
ぜひ皆さん、実践してほしいと思います。
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山下さん
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やはり今の社会というのは、未来にどうやって引き継いでいくかという視点を持ちがちなのですが、一方でこれは未来からわれわれが預かっているというふうに考えてもいいのかなと思っています。
皆さんの話を聞いて、みんなが自然にファッションを楽しんで結果的にサステイナブルな産業になっていくということを私たちが責任を持ってやらなくてはいけないなと、強く感じたしだいです。
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蟹江さん
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SDGsはちょうど、大体半分ぐらいまで来ていて、よくハーフタイムと言われます。サッカーでもハーフタイムで選手が代わって、日本もワールドカップで後半からガンガン行ったじゃないですか。
そういうハーフタイムにするのが大事だということが国連総会でもいろいろなところで言っていました。ですので、気持ちを切り替えて、いろいろ進めていくチャンスじゃないかと思います。
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ねるさん
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私はそもそもファッションの持つ力を信じていて、大好きです。
新しい服を買ったら少し外に散歩をしに行きたくなったり、おしゃれをしたらふだんは話しかけられないような人に勇気を持って話しかけられたり、何かとても豊かで鮮やかな世界、業界だと思います。
好きだからこそ消費者としても、活動できる立場としても動いていきたいと思いました。