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竹が海をきれいにする!?

穏やかな瀬戸内の海。大小多数の島々を横目にサイクリングや海水浴を楽しんだり、広島の人にとって海は身近な存在です。

一方、海岸を歩くと見慣れないプラスチック製のパイプのようなごみがたくさん打ち上げられています。地元の人に聞いても、「うーん、分からない」という反応で、謎は深まるばかり・・・。

取材してみると、実は広島のある名産品と関係していることが分かりました。
(「Ethical Every Day」NHKエンタープライズ ディレクター小藤理絵)

瀬戸内の海岸に流れつく謎のごみの正体とは?

今年4月に広島市の元宇品の海岸で清掃イベントが開催されていました。参加者はごみ袋とトングを手に手際よくごみを拾っていきます。

「どんなごみが多いですか?」と聞いてみると、長さ20センチほどのプラスチック製のパイプのようなごみを見せてくれました。いったい何のごみかを尋ねると、「船の何か?」「想像もつかない」と言います。

はたして、浜辺に流れ着くごみの正体とは・・・。
その答えがあると聞いて、日本一の生産量を誇る“かき養殖”の現場に伺いました。

養殖されているかき

海の中にカメラを入れると、かきは長いワイヤーに一定の間隔でつるされていました。間隔を保つために使用されていたのが、海岸に落ちていたあのプラスチック製のパイプでした。広島の海では約2億3000万本が使われているといいます。

日本一のかき生産量を誇る広島

広島の冬の味覚と言えば、かきを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。身がプリっとしていて、濃厚な味わいが特徴の広島産のかきは海外でも人気があります。その生産量は年間およそ2万トンで日本全国の約6割を占めているそうです。

広島でかきの水揚げを行うのは秋から春にかけてです。沖合にある筏(いかだ)につるされたかきをワイヤーごとクレーンで引き上げてハサミでその下を切ると、ぶら下がったかきとパイプが一気に落ちていきます。

プラスチック製のパイプは安価で耐久性も高いため、1960年ごろから使われてきました。使用後も洗浄して何度も再利用できるため経済的だといいます。

しかし、養殖の過程で誤って海に流れ出てしまうと、自然分解ができないため、ごみになってしまいます。かき養殖業者もさまざまな対策を講じていますが、毎年200万本ものパイプが海のごみになってしまうといいます。

細かく破損するとマイクロプラスチックごみになるリスクもあり、海の生態系に影響を及ぼす可能性もあります。

海のパイプごみ問題を山の資源で解決

この問題の解決に取り組んでいる人がいました。向かったのは海から車で1時間半ほどの山あい。竹林の保全活動をする谷川裕之さんです。

一見すると無関係な「海のごみ問題」と「竹林の保全」。実はこの2つが密接につながっていたことが分かりました。

谷川さんは手入れが行き届かずに増えすぎた竹を伐採し、かき養殖に使われているプラスチックのパイプの代わりに竹を活用して、海のプラスチックごみの問題を解決したいと考えていました。

竹林の保全活動をする谷川裕之さん

日本にある竹は600種類ほどと言われています。谷川さんがこの問題解決のために使うのは川や沼の周辺に生息し、風を防ぐなどの目的で植えられている「篠竹」という細い竹です。

谷川さんが見せてくれた「篠竹」の太さは、かきの養殖に使われていたプラスチック製のパイプとほぼ同じです。作業場に持ち帰り、20センチほどの長さに切断していくと、ほぼ同じサイズになりました。

上・竹製のパイプ 下・プラスチック製のパイプ

この瀬戸内地方では昔から竹は人々の暮らしとともにあるといいます。温暖な気候で竹がよく育ち、たけのことして食べたり、竹炭にして畑の肥料として活用されてきました。

また、かきの養殖にも竹は欠かせないものだといいます。かきを海中につるすために使う筏(いかだ)も竹を組んでできています。

そして、実は60年ほど前までは、もともとあのパイプも竹で作られていたというのです。しかし、最近は林業に携わる人も減って竹林の手入れが行き届かなくなる中、外国から安価な竹材が輸入されるようになったり、プラスチック素材が普及したこともあって、国産の竹の需要が減ったと言います。

竹林を整備せずに放置したままだと、防災の面でも大きな問題があるといいます。竹は深く根を張らないため、山の保水力が弱まり、大雨の時などに土砂崩れの危険性が高まるのです。

谷川さん

「竹は伐採しても実際に売れる先がないんです。もともとはかきの養殖に使うパイプやいかだは広島の竹で全部まかなえていたはずなんです。しかし、高齢化や過疎化もあり、だんだんまかなえなくなっていきました。そういう悪循環になってしまっています。

どこかで少し方向を変えて、小さくてもいいから新しい循環が始まる仕掛けができないかと考えています。循環を取り戻すために一番広島らしいものが竹とかきなんです。山にとってもいいし、海にとってもいいというので、これかなと思っています」

竹製のパイプ復活なるか!? 続く谷川さんの挑戦

竹製のパイプを復活させ、瀬戸内の海を守りたいと考えている谷川さん。試作品を手に積極的にかき養殖業者にも働きかけています。

谷川さんの思いに賛同する業者も出てきました。呉でかき養殖をする栗原単さんは、谷川さんの竹製パイプで実証実験をすることを決めました。

栗原単さん

「プラスチック製のパイプが海のごみとなるのは、なるべくなくしたいと思っていました。先代から竹製のパイプはよかったと聞いています。それでちょっとやってみたいと思いました。谷川さんのような人にやっと出会えたと思っています」

谷川さんは地元のシルバーセンターの人たちに竹製パイプの製作を依頼。今年6月には2万本の竹製パイプを納品したそうです。谷川さんは、竹が新しい雇用も生み出し、地域の活性化につながることも期待しています。

竹は自然由来の素材のため、誤って海に流れ出ても環境への影響はありません。放置されている竹林の問題を解決することにもつながります。

一方で、竹はプラスチックのように繰り返し使うことが難しいため、耐久性の向上が課題になっています。また、大量生産のシステムも確立されていないことから、値段はプラスチック製に比べて約3倍と割高になるといいます。

〈取材を終えて〉
今回、取材をして感じたのは、地元の皆さんが山についても海についてもその環境の変化を実感しているということでした。そして、1人1人がその変化に気づくことが問題解決への一歩につながっていくと感じました。

海のプラスチックごみの取り組みを進めることで、荒れている竹林の整備が進めば山の豊かさにもつながります。自然の好循環を取り戻したいという谷川さんたちの思いが広がっていくといいなと思いました。

竹のように昔は当たり前に使われていて、いまは使われなくなったものが実は環境問題を解決するヒントになる、あなたの周りにそんなものはありますか?

ぜひコメントで教えて下さい。

担当 地球のミライの
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