
地球温暖化対策に取り組む若者の本音は
環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんの訴えが広がり、いまや世界で気候変動対策を訴える若者の姿は当たり前となりました。しかし、日本で気候変動に取り組む若者たちは、大きな悩みを抱えています。
若者たちは大人たちから期待される一方、自分たちは「都合のいい存在」として扱われていると感じています。
活動している若者たちはいま何を思うのか。
いま抱えているモヤモヤを率直に語りました。
「1.5℃の約束ーいますぐ動こう、気温上昇を止めるために。」取材班
【総合】9月24日(日)午前10:05~11:00 放送
若者は都合のいい存在?

この日、都内に5人の若者が集まりました。
5人は、気候変動や生物多様性の保全などに取り組むグループに所属し、COP*に参加したり、若者の声を社会に反映させようと政策提言を行ったりする活動などを行っています。
*国連の「気候変動枠組条約」や「生物多様性条約」に参加する国と地域の会議
山本 大貴さん(大学生)
気候危機の市民運動を起点に危機感を共有するメディア「record 1.5」共同代表。
遠山 未来さん(大学生)
持続可能な社会に向けたジャパンユースプラットフォーム (JYPS) の事務局で環境分野を担当。
豊島 亮さん(大学生)
若者が生物多様性保全のために政策提言などを行う「Change Our Next Decade」で活動。
環境省の環境教育等推進専門家委員会の委員。
芹ヶ野 瑠奈さん(大学生)
日本若者協議会で気候変動とジェンダー平等と関する政策提言などの活動行う。
室橋 祐貴さん
若者の団体や個人が政党や政府へ声を届ける仕組み作りを行う「日本若者協議会」代表、
約100人の若者で気候変動対策を協議する市民会議「日本版気候若者会議」事務局。
近年、環境問題で若者たちへの期待が高まっています。
温室効果ガスの新たな削減目標についての国の議論に参考人として大学生などの若者が呼ばれたり、100人近い若者が集まり、国政や経済界に政策提言を行うため、国会議員や環境大臣に提言書を提出したりしてきました。

注目が集まる若者たちの活動。
しかし、今回集まった若者から聞かれたのは、わたしたちメディアもドキッとさせられることばでした。
「大人の都合のよいように使われている」。
例として、若者たちがあげたのは、COP27に行ったものの、環境についての政策を取りしきる要職についている人たちが自分たちには見向きもしなかったことでした。

「若者の活躍を期待していると言いますが、いったい何なんだと。何か都合のいい時だけ、若者っていう要素が欲しい時だけ吸い上げられるというか、若者の搾取みたいな、いわゆる“ユースウオッシュ”だと思います。
それはメディアに限らず、大人と話すときに起きやすいと感じています。
『君たちは頑張ってくれているから、うれしい』というようなことを言われたこともあります。でも、この人は気候変動が社会問題だということを本当にわかっているのか、興味本位でしかないのではと感じたこともあります」

「なめられているのは感じます」

「気候変動に関する会議にも参加したり、今度何か発表してと言われたり、そういう形式的に参加するところは増えてきています。
社会的に求められているところもあるのだろうなと思います。ただそれ以上、参画というところまでにはいかないのかなと」。

「重要な場面に若者はいないですよね、例えばGX実行会議*とか、エネルギー基本計画を決めているような分科会とかでは見ないじゃないですか。
本当の意味で意思決定に参画させようという意識があったら、絶対に入れると思います」
*「GX=グリーントランスフォーメーション実行会議」(2022年7月から開かれている政府の脱炭素に向けた政策を決める会議)

「ユースウオッシュみたいなものは少し感じますよね。
生物多様性のCOP(生物多様性条約締約国会議)があったのですが、メキシコとかオランダは国の代表者に若者の席が用意されています。
国の代表を選ぶシステムでユースを選抜し、国が発言したときは、議論する中でもちろんユース、若者の声が入っている。
日本だけじゃなく、ほかの国もまだユースの枠がないところは多いのですが意見交換会っていう形で止まっているのは、本当の参画ではないと思います」
気候変動の知識が伝わっていないことへの危機感

若者たちが活動するうえで、もどかしさを感じているのが気候変動への正しい知識が伝わっていないという現実です。
そのことで科学的に根拠がない情報が広まったり、気候変動対策が進まなかったりしていると感じています。

「気候変動への正しい知識が全く国民に伝わっていません。IPCC*の報告書では、この気候変動の原因は人為的だということは明らかに科学的に正しいと言われていると思いますが、『これは人為的なことではなくて自然現象だよね』というような言説が横行して、非科学的な言説が広まっています」
*「気候変動に関する政府間パネル」。気候変動について科学者たちが最新の研究成果を評価し、各国政府の政策の基礎となる情報を与える国連の組織。

「気候変動だけじゃなくて生物多様性の分野でも、生物多様性が損なわれると、人によってはその人の生活が脅かされるという認識は特に日本とかでは薄いというのは感じています。
特に日本などは消費が多い国なので、そういう意味で自分の生活がどうやってほかの国の人の生活を脅かしているかという認識は欠けていると感じますし、だからこそ、全然行動変容につながっていかない。そういう発信がもう少し必要なのかなと思います」

「今の日本社会は、例えばマイバッグとかエコ活動とかみんな自分の生活の範囲内でやろうとするじゃないですか。
日本人はとても勤勉だから、そういう面では頑張ろうとする人もいますが、ここに集まっている人たちは政策提言をするとか、政治家とか企業の人に話しに行くとか署名を集めるなど社会に対する働きかけを行っています。
日本にはどうやってやればいいのか分からない人が多いと思います」

「私も全く同じ問題意識を持っていて、マイバッグとかデコ活*という言葉もありますがすごく表面化してしまっているなと問題意識として感じていて、メディアを見ていても、結局は個人の行動とかにだけたどり着いて、大きな行動にならないという無気力感があります」
* 環境問題の解決に役立つ製品やサービスなどを提供するビジネスのこと。デコ活は、脱炭素(Decarbonization)と、環境に良いエコ(Eco)を含む"デコ"と活動・生活を意味する"活"を組み合わせた新しい言葉。脱炭素の国民運動のキャッチフレーズに選ばれた。
メディアは気候変動に向き合う覚悟はあるか
メディアに向けての疑問の声があがるなか、気候変動や脱炭素をテーマにした日本の報道のしかたや番組について厳しい意見も聞かれました。

「一貫性という意味では、COPが開催されるときは気候変動のトピックが盛り上がりますがその期間が終わったら全く触れられません。
それこそ、強い台風が来たり、熱中症で人々が倒れたりするときは気候変動と報道が結び付いていないので、報道の仕方を変える必要があると感じます。
そもそも日常生活がどう気候変動とつながっているのかも分からないし、気候変動と生物多様性がどうつながっているのか、まだまだ周知されていないレベルだと考えると、そこをどううまくつなげていくのかやはりメディアの役割なのかなと思います」

「個人的にはテレビっ子なので僕はニュースも見ますし、いろいろな番組も見ますが物量も質も足りないと感じています。
表面的な部分だけを取り上げることを増やせば増やすほどある種、有害になっていきかねない部分になっていくと思います。それをやり続けてきたから、むしろみんなが無関心になった部分もあると思います。
一つは異常気象みたいなもの。何か災害があったときに、それと気候危機が結びつかないのも問題です。
そもそも気候危機を中心にした発信自体が少なかったり、被害がこういう状況で未来の予測はこうなっていて、これだけ対策が必要だけれども実際にはこうなっていたりというようなマップというか、そういうものをきちんと発信していく言論空間が必要ですが、ずっと断面的で全てが紹介レベルでとどまっています。
現場で頑張っている方々もいると感じているので、何もかもが悪いとは言えませんがマスメディアが変われない現状はずっと再生産されているような気がします」

「まさに断片的だと思っています。
どんどんいろんな番組がつながって、それをまさにパッケージとして議論していく、網羅的に議論していくという形にならないと、国民の理解も追いつきません。
気候変動はとても複雑で難しいトピックだと思います。この夏はとても暑く、日中にスポーツを外でやるのは本当にどうかと思っていて、台風7号の接近による天候不良が予想されるため中止となった甲子園の問題をもっと議論するべきだったと思っています」

「SDGsとか環境問題の認知ということではなくて、次のフェーズに移っていると思っているので、認知の先にどういう行動を起こしていくか、もっと人々が具体的にわかるような報道がされたらいいなと思います」
大事なのは解決事例をみんなで共有すること

若者たちはこの問題を伝える上で大事なのは前向きなことを取り上げることだと感じています。
気候変動対策として、うまくいった事例を共有することでその取り組みが進んでいくと強調していました。

「具体的にどうやって解決するのかというほうが圧倒的に難しくて、やはりそこが見えないから本当に暗い感じになってしまって、みんなで我慢しなくてはみたいな感じになっています。
逆に、気候変動によって、むしろ生活がよくなっているケースもあります。(気候変動によって、断熱が快適性や省エネ、健康の面でよいと注目されるようになりましたが)断熱なんて典型的だと思います。
解決策も含めて議論していくと、解決策も必然的に社会に広がっていくだろうし、国民としてもこうやったら解決できるみたいな形で少し希望が見えてくると思います」

「ポジティブに捉えることは大事です。政治に関わって、自分が何か行動を起こせるような感覚がないので、ほかの人の体験でもいいのでその成功体験を知ることが動くきっかけになると思います」

「気候変動対策として、マイバッグとかエコ活ではなくて、自分の地域の近くの議員さんに話しかけるとか、問題に取り組んでいる団体の紹介とかそういう特集もしてほしいなと思いました。
日本人が楽しいと思う要素、気候変動とか私たちが大事だと思っている要素を切り離してしまうとみんなが興味を持たないので、番組でもタレントとか音楽とかアートとか、みんなが楽しい、もっと見たいと思うものと気候変動をうまくつなぐことができるとテレビを消さずにもっと見ようと思うだろうなと思います」
議論を終えて
若者からはわれわれメディアにも厳しい声があがりましたが、
それは逆に期待への表れだとも感じました。
気候変動は遠い未来の話でもなく、いまあなたや企業や自治体、政府がアクションを起こせば気温上昇を少しでも低く抑えることができ、そのことが危機を乗り越えることにつながります。
私たちが、そしてこれから何十年も先の未来を現役で支えるいまの若者たちが安心して暮らせるためにメディアができることはなんなのでしょうか?
まさに"ユースウオッシュ"にならないように、彼らの声に真剣に耳を傾けながら、この問題を一緒に考えていきたいと思いました。
メディアは何を伝えれば、みなさんが気候変動について自分事に感じてもらえると思いますか?一緒に考えていきたいので、ぜひアイデアをコメントで教えてください。