
「なんで女子はスカートって決まっているの?」スラックスを標準制服にした学校が教えてくれたこと
ひと昔前、“スラックスの制服”を着た女子生徒がいたら、どう感じましたか?
近年、ジェンダーレスの思考が高まり、女子生徒の制服として、スカートだけでなくスラックスの選択肢を設けている学校は、全国の都道府県立の高校の約4割にのぼるといわれています(「学校総選挙プロジェクト」調べ)。
しかし、“周囲の目が気になる”などの理由で、実際に着用するのにはハードルがあると感じる生徒も少なくありません。
ルール上は着用できても、実際にはくのは難しい・・・。
この壁を、“発想の転換”で乗り越え、女子生徒の4割がスラックスの制服で過ごす学校があります。
取材を通して、ちょっとした工夫で、この世界での生きやすさが大きく変わる可能性を感じました。
(制作局「あさイチ」ディレクター 桑原翔一・植木翔吾)
女子生徒のスラックス着用率約4割 いったいなぜ?

兵庫県姫路市にある、市立山陽中学校。この学校では、開校以来70年以上、男子は詰め襟、女子はセーラー服という制服でした。
今年の3月、その制服をブレザータイプに一新しました。実際に校舎を訪ねてみると、女子生徒がスラックス制服で学校生活を送る風景が当たり前にあります。
なぜ、みんなこぞってスラックスを選択し、はいているのでしょうか。
そのワケは・・・スラックス“も”選べるのではなく、スカート“も”選べるとしたことにあります。
多くの学校では、「男子はスラックス、女子はスカートを標準として、女子はスラックスも選べる」というルールにしています。この学校では、男女ともに「スラックスを標準」として、希望する生徒には、男女問わずオプションとしてスカートも選べるルールにしたのです。
中学1年生を対象にこの新制服を導入したところ、女子生徒の約4割がスラックスで過ごしているそうです。

スラックスの制服で過ごす女子生徒は、機能面でスラックスを気に入っていました。
「スカートもかわいいけど、スラックスをはいている自分が好きだからスラックスにしています。掃除のときに雑巾がけをしやすかったり、スカートだったらひらってなっちゃうからスラックスのほうが動きやすいです」
一方、スカートを選んだ生徒は・・・
「体型が強調されるから、それが嫌でスカートにしました。好きな方を選べるってすごくいいと思いました」
この学校では、自分の好きなスタイルで学校生活を送ることができていました。
男子生徒に聞いてみると・・・
「スカートで男女の区別を決めつけていないから、異性に話しかけやすくなりました」
という声や、
「僕は今ははくつもりはないですけど、いつかスカートをはきたくなることがあれば、気軽に変更できると思います」
という感想もあり、選ぶハードルが低くなっていることを感じました。
校長先生を動かしたのは、生徒の素朴な疑問だった

スラックスを標準とした制服の導入を決めたのは、山陽中学校校長の長谷川貴久さんです。導入のきっかけをこう語ってくれました。
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山陽中学校校長 長谷川貴久さん:
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「2018年、時代が令和に突入するタイミングに、制服のデザインを変えるという議論が始まりました。議論の最中で、1人の女子生徒に『私たちは、なぜズボンじゃなくて、スカートと決まっているのですか?』と問いかけられたのです。はっとしました。 そもそも、学校は動きが激しい場所です。機能面や安全面でもズボンで過ごすほうがいいのではないかと学校生活を見ていて感じていました。学校外のファッションでも生徒たちはパンツスタイルに慣れ親しんでいるようでしたから、それを学校に取り入れようと考えました」
こうしてたどり着いたのが、“スラックスも選べる”ではなく、“スラックスを基本としてスカートも選べる”というルールでした。長谷川校長は、制服改革を目指し、将来この学校で過ごすことになる小学生や保護者の声を聞きました。
すると、スラックスを基本とすることに、肯定的な声が多くあったといいます。その声をもとに、学校の卒業生や地域の人たちにも導入への理解を求め、議論を尽くしました。
反対の声もあったといいますが、今の時代に求められているものは何か、そして何より生徒たちへの思いを軸とした制服の変更は、3年がかりで実現することができたといいます。
学生たちの本音に寄り添った“制服選択制”の運用のヒント

ここ数年、ジェンダーレスな制服を採用する学校が増えています。
「学校総選挙プロジェクト」が高校生約700人に調査したところ、約9割が「制服選択制度の導入」に賛成しました。「あなたは制服選択制度を利用したいですか?」という問いにも、学生の7割が「利用したい」という回答でした。

しかし、制度だけではカバーしきれない、ある壁がありました。“周りの目”です。
同調査によると、約7割の生徒が制服を選択する際にハードルを感じていることがわかりました。
その理由としては、「周囲に利用している人がいない、少なそう」「近所の人など、周囲の目が気になる」「異性からの目が気になる」などという回答でした。
子どもたちは、特に周囲からの視線を気にして、自分が本当に着たい服装で過ごせていない実態があります。スラックスをはくこと=「性的指向・性自認のカミングアウトにつながる」という声もあります。
全国の学校と山陽中学校の違いは、「スラックスも選べる」「スカートも選べる」という違いだけです。たったそれだけで、着用率が大きく変わりました。
実際にこの学校にLGBTQの当事者が訪れ、「私が学生のときにもこんな制服があったらよかったのに」という声もあったそうです。
ちょっとの工夫で世界は変わる

「もし9割の女子がスカートを希望したとき、本当にスラックスを選べるのか?」「スカートをはきたい男子は浮いてしまう?」など、壁はまだありそうです。
しかし、ルール設定ひとつで、これまで表面化されてこなかった子どもたちの思いが実現します。無理なカミングアウトや目立ち方をせずに、違いや個性を発揮することもできます。
大人から見たら学校は小さな社会ですが、子どもたちからすれば世界のすべてです。だからこそ、大人のちょっとした工夫で社会は大きく変わるのだと、この学校は教えてくれました。
関連番組
あさイチ「どう思いますか?学校のルール」
2021年11月22日(月)放送(総合)
「下着は白のみ」「髪ゴムは黒だけ」など従来の校則が見直され始めています。ツーブロックはどうしてダメなの?スカートが短いとなぜダメなの?女子がスラックス制服を選びやすくした、目からウロコの工夫とは?出演の皆さんの中高生時代の写真も公開!
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