
“理容師発”の校則改革 髪型の校則で悩んだら“プロ”に相談を!
先日、取材班のもとに届いた1通のメッセージ。
「理容師です。近所の小中高生がよく来店されますが、たまに校則違反だから直してこいと言われてくる子たちがいます。どこを直せばいいのか要領を得なく先生に電話して伺うのですが、それでも要領を得ないことが多々あります」
髪型を整えるプロである理容師も戸惑うという髪型の校則。
いま、“全国の学生に髪型改革を起こす”と動き始めています。
(報道局 社会番組部ディレクター 藤田盛資/制作局「あさイチ」ディレクター 桑原翔一)
校則違反せずに“希望かなえる”理容師

メッセージを送ってくれた、理容師の齋藤真也さん(44)。北関東のとある街で理容店を営む、その道20年のベテランです。客層は男性を中心に、小学生から社会人まで。近隣には10校ほど学校があり、中高生もよく訪れるそう。モットーは“校則違反せずに希望をかなえてあげること”だといいます。
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理容師 齋藤真也さん:
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「近隣の学校の校則は把握していて、違反したオーダーは受け付けないようにしています。なんなら帰らせるときもありますよ(笑)。『あのお店なら校則違反の髪型もやってくれる』と、うわさが立つのは困りますし、校則はルールである以上、守るべきと考えていますから。でも、人って髪型ひとつでコンプレックスを克服できたり、自分に自信を持てたりするものだと思うし、“個性を大事にする時代”と言われる中で、少しでもその子の良さを出してあげたいとは思っています」
齋藤さんは訪れる生徒や教員から、各校の校則を聞き取っています。
把握している髪型の校則について、代表的なものをあげてもらいました。
・ツーブロック禁止
・前髪は眉毛まで
・襟足や耳にかかってはいけない
・パーマ禁止
・カラー禁止

“ツーブロック禁止”は、把握するほぼすべての学校で該当。中には“ストレートパーマ禁止”という学校もあり、「くせ毛は個性だと思うけどコンプレックスに感じる子もいる。それを直せない校則はいかがなものか」と思うときもあるといいます。
理容師がみてもツーブロックじゃないのに・・・“校則違反”?

ところが今年6月、齋藤さんにとって不可解な出来事が起きました。
毎月カットしている中学3年生の男子生徒が「校則違反だから切り直してこいと先生に言われた」とやってきたのです。
ふだんは頭頂部も短めなスポーツ刈りの男子生徒。
つむじ周りの毛が立ち上がり、爆発したような髪形になることが気になっていたため、頭頂部を長く残して抑えたいと要望がありました。
トップの長さを少し残しつつサイドや襟足は短く仕上げた齋藤さん。ツーブロックにならないよう“グラデーションカット”という長さの差をぼかす切り方も心がけていました。
それでも告げられた“ツーブロックで切り直し”。
納得いかない齋藤さんは思い切って学校に電話し、直接切り直しの理由を問いました。
すると教員からの答えは・・・・・。
「ツーブロックに“見える”」
散髪のプロである自分がツーブロックではないと言っているのに、なぜ…
ここからのやりとりは平行線をたどったといいます。
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齋藤さん:
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先生が思うツーブロックの定義とは?
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教員:
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横の髪が上からかぶっている感じですよね?私にはそう見えました。
ツーブロックとは何かを説明した齋藤さん。教員もツーブロックではないと納得しました。
すると・・・
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教員:
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極端な刈り上げも禁止しているんです。
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齋藤さん:
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どれくらいの長さから極端なんですか?
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教員:
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そこまでは決まっていません
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齋藤さん:
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・・・・・。
定義や基準があいまいなまま運用されていた髪型の校則。
ルールを守った髪型を心がけてきた齋藤さんにとっては衝撃的でした。
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齋藤真也さん:
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「らちが明かないですよね。この感じだと先生によっても校則違反の線引きが違うでしょうし。ある校則を守ろうとしたら別の聞いたこともない校則が出てくるのでは、これじゃあ理容師はお手上げです。切り直しには無料で応じていますし、ほかのお客さんがいない時間帯に対応するので、営業的に困る部分もあります」
“市長への投書は無視できない” 地元ネットワークを駆使してアプローチ

生徒も、教員も、理容師も、髪型の校則で戸惑う状況を放っておくことはできない。
齋藤さんは地域密着型の理容師としてのネットワークを存分に生かして動き始めました。
地域を動かすには、まず役所から。
役所に勤める知人から“とっておきの方法”を聞いていました。
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齋藤真也さん:
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「市役所に市長への“ご意見ボックス”があるんですが、聞くところによるとこれは絶対市長が読んでいて、役所として必ず対処しないといけないそうなんです。だからここに『学校の校則についてこんな困ったことがあり、話し合いの場を作ってほしい』と投書したんです。“ご意見ボックス”が置いてある課の人たちは仕事が増えることになるので“この人は何を投書したんだろう”とすごく僕のことを見ていましたよ(笑)」
知人の話は本当でした。
数か月後、地元の教育委員会から「話し合いに参加しないか」と連絡が来たのです。

理容師組合のトップとともに、地元の中学校の生徒指導部長たちが集う教育委員会の会合を訪れた齋藤さん。理容師として日ごろ抱いてきた疑問を率直にぶつけました。
「ちょっと短いとか、1mm長いとかは、すぐ伸びるから大目に見てくれないか」
「ヘアゴムの色やヘアピンの数まで指定するほど細かい校則はなくてもいいのでは」
「なんなら、髪型の校則は全部撤廃してもいいのでは。それで生徒が失敗したら、そこから学ぶこともできる。学校が先回りしすぎて、生徒が失敗するチャンスを奪ってしまっていないか」
すると、教員からもぽつぽつと本音が漏れ聞こえてきました。
「正直、教師によって基準が違うことはある・・・」
「生徒指導部長の役目を任されているが、判断に困ることが多い・・・」
“先生たちもきっと髪型の校則で困っているはずだ”と踏んでいた齋藤さん。
おもむろに、事前に用意していたある紙を教員たちに手渡しました。
理容師たちのLINEのQRコードを印刷した紙でした。
生徒の髪型で悩んだときは、プロである自分たちが相談に乗ってあげたい。学校と理容師が直接つながって、一緒に校則を考えていこうという意思表示でした。
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理容師 齋藤真也さん:
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「髪型の流行はどんどん変わっていくし、先生たちがそれを確認するのは大変だし本来の仕事じゃないと思うんですよね。先生たちにはもっと授業のことに集中してもらいたい。生徒の髪型のことで忙しい先生たちの時間がとられるのはもったいないと思うんですよ。だから髪型のことはプロである僕たちを頼ってほしい。地域の学校と理容師が組んで、生徒の髪型改革をしていけたらなと思っています」
理容師たちのLINEに教員からの相談は、まだありません。
ただ、これからも粘り強く教育現場に働きかけていきたいと意気込んでいます。
どうする?“外見”の校則

今回の話を伺って改めて感じたのは、髪型など“外見”の校則は、基準を決めたり指導したりすることがとても難しいということ。生徒と教員にそれぞれの価値観があり、その違いがぶつかり合い、ときに両者に溝が生まれる原因にもなってしまいます。
そんなとき、地域の理容師など第三者の意見があれば、冷静に建設的に話し合う助けになるかもしれないと感じました。
関連番組
あさイチ「どう思いますか?学校のルール」
2021年11月22日放送(総合)
「下着は白のみ」「髪ゴムは黒だけ」など従来の校則が見直され始めています。ツーブロックはどうしてダメなの?スカートが短いとなぜダメなの?女子がスラックス制服を選びやすくした、目からウロコの工夫とは?出演の皆さんの中高生時代の写真も公開!
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