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マダイ・みかん・紙が運べない?どうなる愛媛の特産品 対策も

  • 2024年04月09日

今月から始まったトラックドライバーなどの時間外労働の上限規制。長時間労働の是正を図る目的の一方で、荷物の配送が遅れるなど、物流に支障が広がる懸念があります。

特に愛媛など四国は全国で最も影響を受ける地域の1つと見られます。消費地である大都市圏から距離が離れていて、農産物や工業製品の輸送はトラックに依存しているからです。

養殖マダイ、みかんといった特産品が運べなくなったり輸送が遅くなったりしてライバル産地にシェアを奪われる懸念も強まっています。

こうした中、ドライバーの働き方改革と製品の安定輸送を両立させようとデメリットを受け入れてでも対策に乗り出している会社があります。

特集の内容はNHKプラスで配信中の4月3日(水)放送の「ひめポン!」(NHKGTV午後6時10分~)でご覧いただけます。

画像をクリックすると見逃し配信が見られます!見逃し配信は4/10(水) 午後6:59 まで

紙の町にも迫る「2024年問題」

日本一の紙の町として知られる四国中央市。業界大手の製紙会社の工場では、トイレットペーパーやティッシュペーパーなど1日およそ500トンの製品を生産しています。全国各地に製品を出荷するために子会社の物流会社のトラック70台ほどが毎日工場から出発しています。

そのトラックのドライバーたちの労働時間を削減しようと着目したのは運転時間ではありませんでした。

それが荷物の積み降ろし作業です。もともとはトラックドライバーが手で製品を積み込んでいたからです。

紙製品は1つあたりの単価が低いことや、比較的軽いことからドライバーによる「手積み」が、業界の長年の慣習となってきました。手で積むことで隙間なくびっしりと積めるので荷台のスペースを効率的に使い運べる量が増えるからです。

ドライバーたちは出発前、およそ500箱分のドライバーを荷台にみずから積み込みます。

「作業は長い時だと2~3時間かかることもあります。夏場は特にしんどいですね。トラックには30年乗っていますが、積み込み作業はパズルです」

業務の細部こそ見直しを

時間外労働の規制の適用を見据えて、労働時間を短縮するためにはこうした積み降ろしの時間など、業務の細部を見直す必要があると考えたのです。

ドライバーに勤務時間を聞いてみると、この日の勤務は、四国中央市の工場で2時間ほどかけて製品を積み込み出発。休憩をとりながら8時間ほどで当日中に石川県へ。

到着後数時間の仮眠をとったあとの翌朝、製品を降ろして原材料などを愛媛に持って帰るため積み込み作業を行うのにそれぞれ2時間。その後四国中央市に戻ってきて再び2時間かけて荷物を降ろす、という内容でした。荷物の積み降ろしの作業にはあわせて8時間ほどがかかっていました。

そこでこの会社が輸送の効率化や働き方改革を図るために導入を始めたのが「パレット」と呼ばれる荷台です。このパレットを使うことで、段ボールをまとめて積み上げることができ、リフトで簡単にトラックに乗せられるようになりました。

1回あたり2時間ほどかかっていた荷物の積み降ろし作業は30分ほどに短縮。先ほどのドライバーの例では、この作業による労働時間を4分の1にすることができます。

損して得を取る?

一方、パレットを使うことでデメリットもあります。

それがこちらの隙間です。パレットの幅や厚みによってトラック内に隙間ができてしまうのです。会社によりますと、トラックや箱のサイズによって異なるものの、荷台に隙間ができることで、多いときで25%から30%程度、積み込める箱が減ることもあります。
さらに専用のパレットの開発や工場内のパレタイザーと呼ばれる機械の導入など、設備投資のコストもかかります。

1回の輸送で運べる量が減れば、会社にとっては損失につながります。損失を覚悟してでも業務の見直しに踏み切ったのは、ドライバーの働き方改善によってこそ安定して製品を運び続けることができる、つまり長期的にはメリットがあるという判断と、それだけ危機感が強かったからだと言います。

大王製紙 PSI計画部 添田裕丈部長

「(今後は)ドライバーに荷役(積み降ろし)をさせるわけにはいかなくなりますので、2024年問題を見据えて、パレット化、機械荷役化を進めています。積載効率を落としてでもやらなければ、運べなくなる」

4年ほど前からパレット導入の検証や設備投資を進めてきたこの会社では、来年後半までに、すべての製品での導入を検討しています。

導入が進まない事情も…

今後、この会社のようにパレットを活用する会社が増えると見込んで、岐阜県のパレットメーカーが四国中央市に工場を新設するなどピンチにビジネスチャンスを見いだす動きも出ています。

ただ課題もあります。たとえばパレットがたびたび荷物の輸送先でなくなってしまうことです。

基本的にパレットは荷主が用意しますが、実際に使って運ぶのは別の会社である物流業者です。農林水産物などを運送した先の市場などで荷物を降ろした後、パレットの取り違えが起きたり勝手に持って帰る業者がいたりして、なくなるケースが発生しているのです。

国もチラシをつくって呼びかけるなどしていますが、現状、有効な解決策はなく関係者からは今後、パレットを導入する業者が増えればますます問題が深刻になるのではないかという声も聞かれました。

また取材してみると、特に中小企業で、コスト面を理由にパレット化など、設備投資を伴う対策に踏み切れず、そのまま2024年を迎えてしまった企業も少なくないようです。業界全体での課題解決に向けた機運はまだつくられていないとも感じました。

先ほどの製紙会社がパレットの導入に踏み切った背景には、率先して動き出すことで業界全体に対策を進めるきっかけの1つになればとも考えたそうです。会社では、ライバル社とも共同でより薄いパレットの開発を行うなど経営では「競合」しても、輸送では「共同」という考え方に立っていると言います。
また、増加したコストは製品価格へ転嫁する可能性もあるとしています。

(大王製紙 添田部長)
「生産した製品をお客さんに確実に、安定して、お届けすることを維持するためには従来の荷役(積み降ろし)の方法ではもう成り立たないと強く危機感をもっています。消費者にも理解してもらいながら価格の見直しはこれから必要になってくる」

値上げとなると私たち消費者の財布にとっては痛い動きですが、製品やサービスの裏にはそれを支える「働き手」がいます。

労働者のための働き方「改革」が2024年「問題」になってしまっているというのは、翻って言えばそれだけ日本の経済や社会が長時間労働に依存してきたということの裏返しでもあります。そのような現状から脱却して効率を上げていけるのか、大きな転換点を迎えています。


「2024年問題」については、こちらの番組でも働き方改革を図りつつ影響を最小限に抑えようという模索する現場からヒントを探っています。詳しくはこちらのリンクから。

四国らしんばん スペシャル
「働き方シフトチェンジ’24 私たちはこう変わる」

画像をクリックすると見逃し配信が見られます!見逃し配信は4/19(金) 午後8:13 まで

物流についての特集の内容はNHKプラス配信終了後、下記の動画でご覧いただけます。

  •  木村京

     木村京

    2020年入局、2022年夏から今治支局で海事産業を中心に取材。船について勉強する毎日です。 

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