ページの本文へ

WEBニュース特集 愛媛インサイト

  1. NHK松山
  2. WEBニュース特集 愛媛インサイト
  3. 伊方町 ジビエの活用で町に新たな魅力を

伊方町 ジビエの活用で町に新たな魅力を

  • 2024年04月03日

鹿やイノシシによる農作物への被害は、愛媛県で3億6,000万円あまり(2022年度)。
さまざまな対策が施されていますが、その額は減っていません。
そんな中、2024年に入って、伊方町に初めての処理加工施設が稼働を開始しました。
海の幸とかんきつのイメージが強い伊方町で何が起きているのか、施設を運営する男性を訪ねました。

(NHK松山放送局 三上 峻)

特集の内容はNHKプラスで配信中の「ひめポン!」でご覧いただけます。

画像をクリックすると見逃し配信が見られます!見逃し配信は4/5(金) 午後6:59 まで

野生動物による農作物被害 捕獲後にも課題

施設を運営する伊勢典昭さん(36)の姿は、西予市のイベント会場にありました。
「ジビエ」と書かれたのぼりが立ったブースで、鹿やイノシシの肉を使った料理をふるまっていました。

北海道出身の伊勢さんは3年前の2021年に地域おこし協力隊で伊方町に移住。
役場の委託を受け、獣害に悩む農家のために防護柵を設置するなど、被害の防止を担当しました。

意外? 深刻な伊方町の獣害

そもそも、細長い半島にある伊方町で、どの程度獣害被害があるのでしょうか。
町に聞くと、野生動物による農作物への被害額は年間3,600万円ほど。
とくに多いのが、イノシシによるかんきつへの被害です。

かんきつ農家の矢野吉男さんによると、イノシシにおよそ100kg食べられる年もあったそうです。

イノシシに食べられたとみられるかんきつ

取材した日も、矢野さんが設置したわなに2頭のイノシシがかかっていました。
矢野さんの畑では年間20頭捕獲されるそうです。

ただ、これまでは伊方町に処理加工施設がありませんでした。
他の自治体の施設も、他の地域の分までは処理しきれないため、農家は自分で埋めるしかありませんでした。
農家の矢野さんの場合、臭いが出るのを気にして1m以上の深さの穴を掘って埋めていました。
「自分で食べればいい」と思うかもしれませんが、慣れていないと加工するのに4時間もかかるそうです。
年間20頭捕獲されるわけですから、大きな負担になっていました。

農家 矢野吉男さん

「イノシシが捕獲されるたび、埋める場所もだんだん限られてきます。処分に時間もかかるし、重労働なので大変です」

自ら処理加工施設の運営に

こうした農家の悩みを協力隊員の時から聞いてきた伊勢さん。
町が新たな処理加工施設を建設し、運営の委託先を探していることを知り、名乗り出ました。

伊勢典昭さん

「だんだん捕獲者も高齢化しているし農家は本業があるので、捕獲・対策に時間をかけるのがすごい大変というのを聞いていまして。そこをなんとかサポートできればなと思いました」

施設は1月から稼働を開始し、2月から伊方町のジビエも販売し始めました。

若者やファミリー向けに“マンガ肉”

伊勢さんはコロナ禍で増えたアウトドア需要を受けて、若者やファミリー層がキャンプなどで楽しめる商品を開発していこうと考えています。
これまで開発した商品は22種類。
中でも自慢はこちら。
マンガに出てくるような、長さは25cmもある大きな骨付き肉です。

伊勢典昭さん
「ジビエには“ワイルドさ”や“自然のもの”というイメージがあると思うので、それを生かして自然の中で食べることによってよりジビエの魅力が伝わるんじゃないかと思いました」

ジビエを新たな伊方町の魅力に

伊勢さんはジビエを伊方町の新たな魅力として売り出せないか、町の人たちに働きかけています。
試しに町内の宿泊施設でジビエを楽しむバーベキュープランを企画しました。

さっそく大学生のグループの予約が入り、反応を確かめるため伊勢さんもかけつけました。
そして自ら自慢の骨付き肉を紹介しました。
クーラーボックスから取り出すと、歓声が上がりました。

骨付き肉はあらかじめ火を通して加工してあるので、バーベキューでは焼き目をつけて温めるだけ。
生焼けになる不安がないよう工夫されています。
豪快にかぶりついた大学生たちの反応は上々。
伊勢さんは大きな手ごたえを感じました。

伊勢さんに協力した宿泊施設も可能性を感じています。

宿泊施設 所長 楠本博貴さん

「(伊方町では)漁業が確立されている中で、これまでなかったジビエを一つの要素として新しく作っていくのは、非常に良い取り組みだと考えています」

特集の内容はNHKプラス配信後、下記の動画でご覧いただけます。

取材を終えて

農家の矢野さんは処理加工施設ができて「処分の手間が省けた上、活用してもらうことで捕獲する意欲が増す」と話していました。伊勢さんが中心となって野生動物をジビエ料理に加工し、それを観光資源にして町を活性化させる。こうした流れが定着して、持続可能な対策につながってほしいと感じました。

  • 三上峻

    三上峻

    2023年10月に松山に赴任。温泉巡りが趣味で、毎週末、愛媛県内を散策している。今回の取材を機に、いろいろなジビエを楽しみたいと考えている。

ページトップに戻る