ページの本文へ

WEBニュース特集 愛媛インサイト

  1. NHK松山
  2. WEBニュース特集 愛媛インサイト
  3. 西予市出身 風賢央が新十両に!待望の関取誕生に沸く相撲のまち

西予市出身 風賢央が新十両に!待望の関取誕生に沸く相撲のまち

  • 2024年04月02日

相撲のまち、愛媛県西予市野村町において地元出身の関取の誕生は長年の待望だった。ことし3月、大相撲春場所が終盤を迎えた頃、町の人たちはそわそわし始めていた。そう、幕下13枚目の風賢央が6連勝し、勝ち星あと1つで全勝優勝というところまで来ていたからだ。そしてー。地元の人たちは沸いた。こんなにもご当地力士を熱望していたとは。

(NHK松山放送局 宇和島支局 山下文子)

特集の内容はNHKプラスで配信中の3月27日(水)放送の「ひめポン!」(NHKGTV午後6時10分~)でご覧いただけます。

画像をクリックすると見逃し配信が見られます!見逃し配信は4/3(水) 午後6:59 まで

約170年受け継がれる乙亥大相撲

愛媛県南部の西予市野村町、江戸時代の伊予国野村では1852年(嘉永5年)6月25日、大火事が起こって100戸の民家が焼失し、鎮火祈願のために神社に相撲を奉納したとされている。以来、実に170年余りもの間、毎年秋に「乙亥大相撲」を開催している相撲のまちだ。乙亥大相撲には、地元の人だけでなく全国のアマチュア選手や大相撲の力士も招待され、老いも若きも相撲を取って大いに盛り上がる。

豊昇龍に勝ち王鵬と決勝戦

左:風賢央

野村町出身で24歳の風賢央は、恵まれた体格を生かして中学と高校で相撲に打ち込んだ。高校3年のときには、地元で行われた愛媛国体に出場し現在の大関・豊昇龍を破って準優勝した。決勝戦で対戦したのは大鵬の孫、王鵬だ。さらに風賢央は、ことしの春場所で新入幕ながら初優勝した尊富士とも同年代で、相撲界の華々しい力士たちと学生時代から競いあってきたのだ。その後、中央大学に進学して押尾川部屋に入門。角界入りして初土俵を踏んだのは2年前の3月で、その年の5月には序ノ口優勝した。勝ち星を積み重ねて勝ち越しを続け、一気に番付を上げると期待されたが、ここで3場所連続で負け越して足踏みをした。風賢央自身、悔しさでいっぱいだったという。

風賢央
「自分は大学を出て、同期より遅く角界入りしているので急ぐ気持ちや焦りもあった。ライバルたちがどんどん上に上がっていき悔しい思いをしていた。マイナスな気持ちになることもあった」

全勝優勝でつかんだ昇進

しかし、今場所は違った。持ち味とする突き押し相撲の最後の一押しが、どれも力強かった。これまでになく、どこか自信にあふれているようだった。地元の人に聞くと、風賢央は「これまで最高で6勝しかしていない。必ず1敗している。全勝優勝を果たしたい」と話していたという。

風賢央
「何も考えずに師匠の言うことだけ聞いておけば勝てる。自分の相撲にだけ集中しようと思った」

右:押尾川親方

風賢央の師匠である元関脇・豪風の押尾川親方もまた、現役時代は突き押しを得意とする力士だった。新十両昇進が決まったことを受けて開いた会見での親方の視線は温かく、愛弟子と固く握手する姿には、熱くこみ上げるものがあった。2年前に新設された押尾川部屋の1期生でもある風賢央の出世は、親方にとってもうれしさがひとしおだったのではないだろうか。

押尾川親方
「大阪場所で丸2年。22歳での入門でしたから、1秒1秒無駄にできないという責任を感じていた。全勝優勝を決めたあの一番では、なりふりかまわず前に出ていた。それは、しっかり稽古してきたからだ。瞬発力もあるし、馬力も器用なところもある。技術を磨いて上の番付に居座り続ける力士になってほしい」

歓声と万歳三唱が会場を包む

全勝優勝をかけた一番、地元から風賢央にエールを送ろうと乙亥大相撲の会場となる「乙亥会館」には、後援会長や観光協会の相撲部長のほか、高校の相撲部の監督や後輩、それに小学生から主婦まで50人ほどが集まっていた。テレビの前で、風賢央の顔写真を貼り付けた手作りのうちわを持ち、押尾川部屋の名前が書かれたタオルを掲げて、その時を待っていた。そして始まった取組。風賢央は、立ち合いで相手に左を差されたものの、かまわずに前に出て寄り切りで勝った。その瞬間、館内に割れんばかりの歓声が上がり、気がつくと全員で万歳三唱をしていた。
「自分の子どもみたいに応援していた」
「非常にうれしい。この日をどんなに待っていたか」
中には、目頭を押さえて喜ぶ人の姿もあった。風賢央は、こんなにも地元の人たちに愛されているのだと改めて実感した。

風賢央はチャーミング

十両昇進が発表されるやいなや、西予市役所には「おめでとう風賢央関」と書かれた長さ5メートルの横断幕が掲げられた。

西予市役所の職員で、野村高校相撲部で風賢央の1年先輩だった宇都宮愛樹さんは、高校時代の風賢央は圧倒的な強さだったと話し、今後に大きな期待を寄せた。

宇都宮愛樹さん

「優勝を決めた一番のあとに“おめでとう”と送ると、風賢央からすぐに“ありがとうございます”とラインで返事が来ました。実力は昔からあって運動神経も良かったので、昇進はするだろうと思っていました。十両に上がったら今までよりも強い相手がいると思いますが、押し相撲を磨いてどんどん上に上がれるようにがんばってほしいです」

同じく市の職員で、中学と高校の同級生の芝田美羽さんは、風賢央は優しくて時折ぼそっと面白いことを言うチャーミングさで人気者だったと懐かしそうに当時を振り返り、同級生の活躍を喜んでいた。

同級生の芝田美羽さん

「ことし1月に久しぶりに会ったんですけど、去年の乙亥大相撲を見たときから勢いがあるな、強くなっているなと思っていました。一緒に過ごした同級生が活躍している姿を見るのはすごくうれしいです」

好物のタンポポライス

風賢央
「地元に帰ったら、応援してくれている人たちに昇進することができましたと報告したい。応援してもらってるから今の自分がある。自分の相撲の原点である野村町の人たちには感謝してもしきれない」

優勝のあとのインタビューや昇進会見の場で、風賢央は地元への感謝の気持ちを欠かさず述べている。そして、地元に戻ったら何が食べたいかとの記者の質問には「タンポポライスが食べたい」と答えた。これは、野村高校の相撲部が週末になると通っていた地元で16年間続く洋食店のメニューで、昇進の知らせを聞いた店主の植木正孝さん(63歳)も喜んでいた。

タンポポライス

タンポポライスは、ケチャップライスにバターをたっぷり使って仕上げたタンポポのように鮮やかな黄色のオムレツと濃厚なビーフシチューがかかった1品。風賢央は、通常の1.5倍のサイズを注文して一緒にマカロニグラタンや小エビのライスグラタンも食べていたというから、さすがだ。この洋食店の料理は、どれもどこか懐かしくほっとする家庭的なものだ。

店主の植木正孝さん

「週末になると練習の後よく相撲部の子たちが来ては、みんなおいしそうにきれいにペロリと平らげてくれた。それが本当にうれしくて元気をもらった。ここで無邪気にご飯を食べていた子が関取になったことを誇りに思う。うちのご飯を食べて強くなったのかな」

風賢央は、昇進の会見のときにはすでに来場所に向けて気持ちを切り替えていた。真面目で優しく、自分に厳しいという風賢央。これからも相撲道をまい進していくはずだ。

風賢央
「通過点というか新たなスタートというか、ここからが本当の勝負。昇進に満足することなく稽古をやり直していく。もっと突き押しの精度を上げて、はじいてから中に入るといった基本的な相撲を本場所で取れるよう稽古していく」

取材後記

元関脇・玉春日以来29年ぶりとなる愛媛県出身の関取の誕生である。現在の玉春日は、片男波親方として部屋を持ち、モンゴル出身のベテラン力士、玉鷲などを育てている。親方の現役時代、地元のスーパーでは【玉春日が勝つと割引セールをする】など、地域全体で玉春日の活躍を楽しみにしていた。かくいう私も「きょう玉春日勝った?」と慌てて帰宅しては、夕方になると祖父とともにテレビにかじりつき大相撲観戦をしていた。きっとまた来場所から私はばたばたと帰宅しては、「きょう風賢央勝った??」と家族に聞くことになるのだ。楽しみでたまらない。

 

特集の内容はNHKプラス配信後、下記の動画でご覧いただけます。

  • 山下文子

    山下文子

    2012年から宇和島支局を拠点として地域取材に奔走する日々。 鉄道のみならず、車やバイク、昭和生まれの乗り物に夢中。 実は覆面レスラーをこよなく愛す。

ページトップに戻る