しろくまピース24歳 健康診断に密着
- 2024年03月13日
ぬいぐるみのように愛くるしいその姿から、一躍全国の人気者になった愛媛県「とべ動物園」のしろくま“ピース”。ホッキョクグマの寿命が25~30歳といわれるなか、ピースも高齢期にさしかかり少しずつ体調に変化が現れています。それに伴い、幼少期から“てんかん”の症状に悩まされてきたピースの健康維持は難しさを増しています。今回私たちはピースの健康を守るために欠かせない“採血”に密着。そこには飼育員や獣医師らによる知られざる苦労と支えがありました。
(NHK松山放送局 藤田怜子)
特集の内容はNHKプラスで配信中の3月13日(水)放送の「ひめポン!」(NHKGTV午後6時10分~)でご覧いただけます。詳しくはNHKプラスでご覧ください。配信後はページ下部の動画をご覧下さい。
てんかんの薬を受けつけない日々とその後見えた光明
ここ最近、てんかんの発作を抑える薬を飲んでくれないピースに飼育員の髙市敦広さんは頭を悩ませていました。なんとか薬を飲んでもらおうと、思いついたのがピースの大好物となった「アザラシオイル」です。
これまでミンチの上にカプセル状の薬を乗せて与えてきましたが、上からオイルをかけたり、飲みやすさを重視して粉末状にして溶かしたりするなど試行錯誤を繰り返しました。その結果、ピースは再び薬を飲んでくれるようになり、みんな一安心。
ところがこの方法に髙市さんたちは一抹の不安を覚えていました。粉末にすると薬を確実に飲みきれるか確証がないだけでなく、もしかするとオイルに溶かすことで薬の効きめに変化が生じてしまう可能性もあると考えていたためです。カプセルによる投薬を続けるため、食事の改善に取り組みました。そこで投薬の際これまで与えていた鶏肉のミンチに、あるものを加えることにしました。牛のレバーです。レバーを混ぜたミンチは離乳食のときに使っていたもので、ピースにとっては懐かしの味。
髙市さんたちの読み通り、薬の入ったカプセルをミンチの上に乗せても、無事にピースは完食!
ほっと胸をなで下ろしました。
ご機嫌なしぐさ“チュッチュ”にまつわる秘話
2月中旬。暖かな陽気に包まれて、ピースは気持ちよさそうにお昼寝をしていました。お気に入りのいわゆる“三角コーン”を抱き枕に、足を広げて「へそ天」ポーズを見せることも。
髙市さん
「ちょっとね、女の子にしては見せられない寝相です」
髙市さんによれば、ピースの機嫌がいいときに見せるしぐさがあるそうです。それが口元で行う“チュッチュ”。人工哺育で育てられたピースは、生まれて間もないころから髙市さんの腕をおしゃぶりのように“チュッチュ”となめることがよくありました。
24歳になった今でも、チュッチュするときは機嫌のいい合図。お昼寝をするときもチュッチュしながら夢の中へ。目が覚めるとまたチュッチュしながら立ち上がり、撮影スタッフに近づいてきてくれました。
持病のてんかん 支え続ける獣医師
どれほど元気に見えても、 “てんかん”の発作は前ぶれもなく起こります。NHKには当時6歳だったピースが発作に襲われた貴重な映像が残されていました。
プールで無邪気に遊んでいたピース。突然、水に顔をつけたまま動かなくなりました。さらに、けいれんも。その様子を偶然見ていた髙市さんがピースの元に駆けつけ、ピースは一命をとりとめることができました。
発作を抑える薬を用意するのは、獣医師の二宮友里絵さんです。薬の分量は、朝は0.55g、夜は0.56gと100分の1g単位で量を決めています。
細心の注意をはらう必要があるため、エアコンや換気扇を止めて薬の調合を行うそうです。ピースの場合は朝方に発作が起きることが多いため、夜の投薬量を少し増やしているといいます。
二宮さん
「肝臓のほうに副作用が出るような薬なので、血液検査で肝臓の数値を見ながら、発作が起きないギリギリのところで維持できるようにしているので」
しかし最近、体の幅が小さくなるなど老いと同時に体に変化がでてきたピース。
二宮さんは、今の薬の量がピースにとって適量かどうかを見極めるため血液検査を行い、肝機能や薬の血中濃度を調べることにしました。
二宮さん
「体重が減ったら、そのぶん(薬の)血中濃度が高くなる可能性はあるので、そこは採血をなんとかして(調べたい)」
月に1度の採血 飼育員たちの奮闘
今回私たちは月に1度行われる採血の様子に立ち会い、撮影を行いました。
髙市さんが用意するのはソーセージ。
採血のときだけ与える、ピースにとって大好物のおやつです。
髙市さん
「球なんですよ。球数が多いと(採血の)時間を長くできるでしょ。なので、できるだけ薄く切っているんです。」
棒を使ってピースに手を出すよう合図を送る髙市さん。すると素直に柵から手を出すピース。「ピー!」笛の音は“そのまま”の合図です。
ソーセージを使ってピースの気をそらしている隙に、二宮さんが採血に取りかかります。しかし毛で覆われているため手探りで血管の位置を探るほかありません。
開始から20分。何度もピースは手を出し続けますが、どうしてもうまくいきません。冬場は血管が収縮するため、特に採血が難しいと言います。
髙市さん
「ちょっと待ってね」
その場を離れた髙市さんが連れてきたのは後輩飼育員です。ピースの手を押さえてもらい、血管の位置を見つけやすくしようと考えたのです。
すると・・・
採血開始から30分。血管が見つかり、無事採血できました。
ピースは体調や気分が変わりやすいため、日によっては採血ができないときもあるなか、今回髙市さんが“粘れる”と判断したのはピースの細かいしぐさに気づいていたからでした。
髙市さん
「きょうはじーっと座ってくれてましたし、目も落ち着いている。チュッチュもしていましたから。うまく採血できました」
採取した血液を機械にかけ、薬の影響を調べます。
二宮さん
「ひとまずは、特に問題はないので」
髙市さん
「とりあえず、よかった」
肝機能を示す数値や薬の血中濃度も正常の範囲内。しばらくは今のままの分量で投薬することになりました。ピースの健康を守るために、奮闘の日々は続きます。
取材を終えて
「ピースを見るときは、いつも何かあるのではないかという気構えをもって観察している」という、飼育員の髙市さん。体重およそ300キロのピースに対して0.01gにまでこだわって薬を作る獣医師の二宮さん。ピースの健康は、お2人や多くのスタッフのみなさんのきめ細やかな気配りと日々の観察あってこそだと感じました。採血から開放されると“チュッチュ”しながらお昼寝するピースの愛らしい姿に「ピースもお疲れさまー!」と思わずつぶやきました。皆さんのチームワークによってこの穏やかな光景がずっと続いてほしいと願うばかりです。
特集は動画でもご覧いただけます。