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全国から注目の病院 医療がデジタル化で変わる?成功の鍵は?キーマンの言葉

  • 2024年04月17日

四国中央市の病院に今、全国から視察に訪れる人が相次いでいます。デジタル技術を使った「働き方改革」に注目が集まっているためです。今月からは勤務医の休日・時間外労働に上限の適用が始まった中で注目度は高まっています。デジタル化を進める鍵は何か、旗振り役となっている医師に、改革の秘けつを聞きました。

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“忙しい現場ほどデジタルの力を”

四国中央市の総合病院、HITO病院の医師の篠原直樹さんはデジタル技術による病院の改革を進めてきました。29年前に医師になり、脳外科医としてキャリアを積んできましたが、かつては夜も休日もなく、睡眠不足のまま働くことが少なくありませんでした。そうした状況から転換するため、業務を効率化できないかと、着目したのがデジタル技術の活用でした。

HITO病院DX推進室 篠原直樹さん

「以前は夜通しで仕事をして次の日外来して、また緊急手術が立て込んだりすると、脳外科の医者が少ない病院では本当に寝ずに2日間とかいうこともありました。多分5年10年の先を見たときに、地域で少ない人数の医師で負担感なく支えていくってのは難しいんじゃないかなと。忙しい現場であればあるほど、デジタルの力を活用する方が効率は良くなります。しかし、新しいものを受け入れるっていう組織風土がなかなか進んでないのが今の病院の現状ではないかと思います」

チャットで情報共有

病院では7年前に専門部署を設置。篠原さんを筆頭に、民間企業でWEB制作の経験がある職員などが改革に取り組んできました。
取り入れたのはスマートフォンを情報共有に活用することです。業務用としてあわせて540台を医師や看護師などに貸与しています。

例えば患者のリハビリの様子を動画で撮影してチャットで送信。複数のスタッフが患者の様子を簡単に把握できます。

これまで看護師は診察室の医師に電話をしてもなかなかつながらず、病棟との間を何度も往復することもありましたが、その手間が必要なくなりました。医師も診察の合間に指示を出すことができます。

看護師
「とても効率的かなと思います」

医師
「自分が空いたときに返事ができるというメリットがあります」

“テクノロジーだけでは組織風土は変わらない”

さらに去年から試験的に導入しているのが「スマートグラス」です。めがねに装着されている小型のモニターに離れた病室にいる患者の様子がリアルタイムで映し出され、看護師は別の作業をしながら患者を見守ることができます。少ない人手で多くの患者のケアをすることが可能になりました。

(篠原さん)
「テクノロジーを入れることによって、今までできなかったことができるようになる。ただ、それだけではたぶん組織風土は変わりません。チャットの文章も最初はメールのように、丁寧な言葉で書く人もいましたけれど、途中でもう用件だけを簡単に伝え合おうということになりました。『これでいいよ』というふうに。技術の導入と、ルール作りをセットでやることによって組織は変わるのかなと。変えるというか、変わるように持っていくというのが大事だと思います」

働きやすさが人材確保にも

昨年度、休日や時間外の労働時間は月間の平均で医師が7.4時間、看護師は3.7時間に抑えられました。こうした働きやすさが「人材確保」にもつながっています。就職を希望する若い医師が増えているのです。ことし入った3人の研修医も全員が県外の出身者でした。

研修医・埼玉出身松田そらさん

「HITO病院ほどDXを活用して、働き方改革とかスタッフ同士のコミュニケーションとかに新しい挑戦をしている病院はなかなかない。オフの時はしっかりオフの時間を楽しもうっていう空気を上の先生方がきちんと作ってくださっているのを感じます」

デジタルで人材の能力を発揮

外国人スタッフの採用も増やす

さらに人材確保のため増やしているのが外国人スタッフです。ただ、細かな指示が伝わらない時もあり課題となっていました。そこで開発したのが「自動翻訳システム」です。生成AIの翻訳機能をチャットで利用できるようにしたのです。

日本語の指示(左)をミャンマー語に自動翻訳(右)

複雑な指示でもベトナム語やミャンマー語など、100か国語以上に瞬時に翻訳。業務の幅が大きく広がったと言います。

ミャンマー人のスタッフ
「とても働きやすいです」

ベトナム人のスタッフ
「仕事とか患者さんの注意事項とか、私たちが、時々日本語がわからない時にとても便利です」

“持続可能な働きやすい環境を”

篠原さんは今後、医療現場が持続可能な形であるためには労働時間を削減するだけでなくどれだけ働きやすい環境を作っていくかが鍵になると考えています。

「若い人とか海外からの人とか、そういった方により良い環境を作っていくことが大事なのかなと。過重労働は確かに改めなければいけないんですけども、まずはやりがいを持って、人間関係もいい状態でやれる環境というのが基本なのかなと思います。これからデジタル化がどんどん進んでいく中で人と人の関係の方がさらに注目されるようになるので、そういった環境を作れるようにむしろデジタルを活用するというのが、たぶん必要なことだと思います」

経営にもメリット

この病院ではチャットの導入で医師と医療スタッフの間で気軽にやりとりができるようになるなどコミュニケーションが円滑になり、医師から医療スタッフに業務を移して負担を分散する「タスクシフト」も進んでいるということです。新技術の導入には多額の初期投資が必要ではありますが、時間外労働が減った分、それ以上にコストの削減もできていて、経営的にもメリットがあるということです。

特集の内容はNHKプラス配信終了後、下記の動画でご覧いただけます。

  • 清水瑶平

    清水瑶平

    2008年入局、初任地は熊本。その後社会部で災害報道、スポーツニュースで相撲・格闘技を中心に取材。2021年10月から松山局。学生時代はボクサーでした。

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