松山市出身38歳ブラックホール研究から酒づくりに転身したワケ
- 2024年03月12日
ふるさと愛媛のかんきつ類でお酒をつくる松岡健太さん。かつては天文学者として目に見えないブラックホールを研究、今はかんきつ類の皮を厚さ1ミリ単位でこだわり調整していると言います。その先にはさらなる夢が・・・
(NHK松山放送局 熊井 幹)
特集の内容はNHKプラスで配信中の3月11日(月)放送の「ひめポン!」(NHKGTV午後6時10分~)でご覧いただけます。詳しくはNHKプラスでご覧ください。
松岡さんが手がける果実酒とは?
左から、いよかん・しらぬい(でこぽん)・じゃばら・ゆず・れもん。
松岡さんがつくる果実酒は、全部で5種類あって、どれも愛媛特産のかんきつ類を使っています。
鮮やかな色合いは「かんきつ類の皮」から生み出されます。
アルコール度数は30度と高めですが、よく冷やして、ストレートで飲むのがおすすめです。
この果実酒をつくるのは、38歳、松山市出身の松岡健太(まつおか・けんた)さんです。
ふるさと・愛媛のかんきつ類にこだわって、お酒づくりを始めました。
「まずは香りですかね。それぞれレモンならレモンのフレッシュな香りがあったり、いよかんだったら芳じゅんな香りがあったりと、それぞれに個性があってしかもすっきりと爽やかな香りが特徴的かなと思います」
天文学の研究から酒づくりに転身
地元・愛媛大学で天文学を研究していた松岡さんは、ブラックホールなどの研究に打ち込み、世界各地を巡っていました。
そのひとつ、イタリアを訪れた時、無縁だった果実酒作りに飛び込むきっかけが生まれました。
「“イタリアのフィレンツェに行けばこのワインを飲んでおけ”という、その街に根づいたお酒があって、それを街の人たちが自信を持って勧めているみたいな。生活に根づいてると言った方がいいかもしれないです」
その時、頭に浮かんだのは、地中海のイタリアと似た瀬戸内海・愛媛の気候でした。
「瀬戸内はどうかなって考えたときに、瀬戸内のポテンシャルを引き出したお酒ってまだあんまりないんじゃないかなというところがスタートで。かんきつ王国というブランドを届けていくひとつの形になればいいなと考えて、誰もやらないなら自分がやろうという、ワクワクが大きい気がします」
お酒づくりの世界に踏み込めたのは、天文学者としての経験も大きかったといいます。
「手探りのところはいっぱいあるんですけど、天文学も実際は見たことがないところを見て、銀河やブラックホールを自分が最初に観測して、その謎を解き明かす。ある意味、いま思うと途方もないことをやっていたと考えると、地上で起こっていることは比較的、何でもやり方さえ見つければできるんじゃないかなと思いますね。天文学者のおごりかもしれないですけど」
帰国した松岡さんは、酒づくりの勉強をゼロからスタートします。
同時に、古民家を改修して、酒づくりの拠点を構えました。
起業家が集まる勉強会に参加したり、ビジネスプランを発表する県のイベントで賞を獲得したり、資金調達にも奔走しました。
さまざまな人の協力を受けて完成したお酒は、評判も上々。
その香りや味の良さが口コミで広がり、今では、県内外30店舗で扱われるようになりました。
新作を開発中!使うのは“かんきつ類の皮”だけ!
いま取り組んでいるのは、新作の開発です。
使うのは、旬を迎える、西予市産のブラッドオレンジ。
果肉の甘さが特徴ですが、お酒に使うのは「皮」だけです。
さらに、皮の厚さにもこだわりがあります。厚さの調整は、1ミリ単位です。
「苦みの部分ですね。基本的に甘いお酒なんですけど、甘さだけだとおいしくないというか。白い部分をどれぐらいの割合入れるかで、甘さの中にも苦味がある、ちょっとビター感がある、大人のドルチェみたいな、そういったところで重要になってくる」
漬け込みには、度数90度を超えるアルコールを使います。ポーランド産です。
小ぶりな容器に入れて、色の出方や香りの立ち方を、2か月ほど見極めます。
「それぞれのかんきつにあったレシピを微調整しながら、本格的なお酒としてつくっています。やっぱり、かんきつの香り、そのかんきつそのものの良さというのがしっかり出ているものが本物になると思うので、そのあたりは大事にしてつくっています」
次に選んだのは河内晩柑(かわちばんかん)。
松山市から車でおよそ3時間かけて訪れたのは、愛媛県最南端・愛南町(あいなんちょう)です。
収穫前に落ちてしまう河内晩柑(かわちばんかん)を、自分の目で確かめます。
新たな“みかんのお酒”の発想が広がりました。
「まず大前提に僕ひとりだけの力だとできることは、ほぼないと思っているので、いろんな人を巻き込んで、みんなと一緒にワクワクしながら、おもしろいことをやっていきたいなっていうところが、大事にしているところかもしれないです。 “瀬戸内ってこういう場所なんだ”とか“こんなおいしいお酒ができるのは、この瀬戸内の気候のおかげなんだ”みたいなことを知ってもらえるといいなと思います」
松岡さんのもうひとつの夢
松岡さんには「愛媛のブドウを使ったワインづくり」という、もうひとつの夢があります。
ワイン用のブドウ栽培にも取り組んでいます。未来予想図も描いていました。
瀬戸内の海に面したところでワイン用のブドウを栽培。畑の横にはワインが楽しめる場所があって、そのそばにある小さな天文台でも星空に思いをはせながらワインを楽しむことができる・・・そんな場所を夢見ています。
ブドウ栽培は、実がなるまで少なくとも5年はかかるとされ、とても難しいと言われます。ことし(2024)の秋がちょうどその5年目。初めてブドウが収穫できるのではないかと期待が高まっていて、なんとかワインづくりも始めたいと意気込んでいます。
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