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二酸化炭素を運ぶ船とは? 今治支局の木村記者が解説

  • 2024年02月21日

先日、横浜市で報道陣にある船が公開されました。液化二酸化炭素を運ぶための世界で初めての実証船ということなのですが、どういうことなのでしょうか。
今治支局の木村記者、教えて下さい!

特集の内容はNHKプラスで配信中の2月20日(火)放送「ひめポン!」(NHKGTV午後6時10分~)でご覧いただけます。

画像をクリックすると見逃し配信が見られます!見逃し配信は2/27(火) 午後6:59まで

CO2を埋める

二酸化炭素を運ぶということですが炭酸水を運ぶということではないですよね?

冷却して液化することで、大量の二酸化炭素を輸送できるということで、最大の目的は「脱炭素」です。キーワードは国が進める「CCS」という事業です。

つまり「二酸化炭素の回収、貯留」という意味です。
政府は温室効果ガスの排出量を2050年に実質ゼロにする目標を掲げていますが、発電などで排出される二酸化炭素の排出を完全にゼロにするのは容易ではありません。
そこで二酸化炭素を回収して地下にためることで環境への影響を減らし、排出量の「実質ゼロ」を目指そうというのです。今、実証実験が各地で行われていて、今月13日には、CCSの実用化に向けて事業環境を整備するための法案も閣議決定されました。

実際にどういう仕組みなんでしょうか?

CCSについては、さまざまな方法の開発が進んでいますが、例えば三菱重工が開発した技術では、工場や発電所などから二酸化炭素が排出される際に、大型の設備でまず液体に溶かした上で化学物質を使ってほかの気体と分離して回収します。そして冷却して気体を液化し、深さ1キロより下の地中、もしくは海底深くにためるというものです。

 

現在、実験の中心となっているのは北海道の苫小牧で、実際にすでに3キロの深さの海底に貯留して状況をモニタリングする段階まで進んでいます。

なぜ船で運ぶ?

ではなぜ船が必要なのでしょうか?

二酸化炭素を回収しても、スペース上の問題などからどこでも貯留できるわけではなく、発電所などから離れていることが想定されます。
そこで船が必要だというわけで、輸送船の実用化で二酸化炭素を大量に低コストで運べるようにするのが実証実験の狙いです。

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実証船は全長は72メートルと小型で、液化二酸化炭素850トンを輸送できます。
実は世界にはすでに液化二酸化炭素の輸送船は数隻ありますが、いずれも小型で炭酸飲料などの運搬用ということです。
このためCCSのための船としては世界で初だということです。
ちなみに船名の「えくすくぅる」は「EX」と「COOL」をつなげているということで非常に冷たいということです。
この船でことし10月から京都の舞鶴から苫小牧まで輸送する実証実験を始める予定で、2026年度までに輸送技術を確立させることが目標です。

どうやって開発?

LCO2輸送船イメージ

県内の企業はどう関わっているのでしょうか?

船の大型化のために造船国内最大手の今治造船が関わっているんです。
というのも今回の実証船では気候変動対策として活用するのはまだまだ小さく、将来的には5万トンから7万トンと、この実証船の数十倍以上の二酸化炭素を運ぶ大型船の建造が目標となっているからです。
また、国土の狭い日本では貯留できる場所も限られるため、東南アジアなど海外に運ぶ計画も進められていて大型化は不可欠なのです。
そこで去年12月、今治造船が出資する会社「日本シップヤード」は、三菱造船や商社などと覚え書きを交わしました。早ければ2028年の運航を目指します。
開発を進める企業の1つ三菱造船の担当者は次のように話します。

三菱造船 環境技術部 プロジェクトリーダー 寺田 伸主席技師

「液化CO2輸送船はCCSの1つのピースなのですが、今回のような液化CO2輸送船の新しい技術とか新しい製品で日本が世界をリードすることでいま一度、日本の造船業界を盛り上げたいという思いがありました」

タンカーやコンテナ船といった巨大船建造のノウハウを持つ今治造船などに加え、二酸化炭素を運ぶタンクを開発した三菱造船などが連携し、各社の技術を結集しようというのです。

これまで世界で造られたことのない船ですから、そもそもどのような仕様にするのか一から開発を進めているのです。

たとえば、二酸化炭素を入れるタンク1つとっても、中の圧力や温度をどうするか、検証が進められています。

課題は?今後は?

実現すれば脱炭素化に向けて大きく貢献するのでしょうか。

経済産業省のHPより

経済産業省はCO2の回収事業は2030年代後半には世界で10兆円規模の市場に拡大すると試算しています。
ただ実用化に向けては、課題が山積しています。
そもそもCCSの「貯留」や「輸送」の技術についてはまだ実用化されていません。
また回収装置のコストが高いほか、場所によっては、地下で貯留する安全性も検証する必要もあります。
さらに、このCCSがいつごろどこまで普及するかはまだ未知数です。
そうなると、輸送船の需要も予想しづらく、企業にとってどこまで投資するのかリスクを負うことになるのです。

世界的には開発が進んでいるのでしょうか?

現在、CCSの開発は欧米を中心に進んでいます。また船の建造は造船世界第1位、2位の中韓も乗り出すなど、競争は熾烈になりそうです。
こうした中、三菱造船の担当者は愛媛県の海事産業が果たす役割にも期待を込めます。

三菱造船 寺田 伸主席技師
「造船や舶用機器産業という意味では、瀬戸内地区というのは1つ大きな拠点になりうると思っている。今後、我々の考え方、思いに賛同してもらえるより多くの企業に造船所に参加してもらうことが重要だと思っている」

このように、今後の開発にはさまざまな企業の力が必要だということで、海事都市今治を中心とした瀬戸内は、必然的に重要な拠点になるといえそうです。
まだ未知数の技術ではありますが、国際的な競争に打ち勝つためにも日本企業がリスクをとって開発を進めていくのか、注目したいと思います。

特集の内容はNHKプラス配信終了後、下の動画でご覧いただけます。

  •  木村京

     木村京

    2020年入局、2022年夏から今治支局で海事産業を中心に取材。船について勉強する毎日です。 

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