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今治市 タオルの端っこがそんなに大事なの!?

  • 2023年08月16日

日本一のタオルの産地、愛媛県今治市。
「今治タオル」という高い品質のブランドで知られ、贈答品としてもらったことがあるという人もいると思います。
しかし、産地ではいまタオルの端の部分を縫うことができる技術者が不足しています。
「え!タオルの端っこがそんなに大事なの!?」
私も戸惑いながら取材を始めました。何が起きているのか。背景に迫ります。

(NHK松山放送局 佐藤巴南)

今治タオルって?

「タオルと言えば今治」
みなさんも一度は「今治タオル」のブランドのタグがついたタオルを手に取ったことがあるのではないでしょうか?
今治市で作っているタオルは国内産タオルのおよそ6割を占め、高いシェアを誇っています。

新型コロナウイルスの感染拡大でスポーツ観戦やイベントが減り、2020年の生産量は最も多かった2016年の5割ほどにまで落ち込みましたが、経済活動の再開で需要が戻り、去年は感染拡大前の2019年のおよそ8割まで回復しました。

「ヘム縫い」の技術者が足りない

しかし、産地ではいま、タオルの端の部分を縫うことができる技術者が不足しています。

端の部分は「ヘム」と呼びます。

「ヘム」はデザインや織り方が多様で、ブランドのロゴマークも一緒に手作業で縫い込む必要があります。このため、熟練の技術を要すると言います。
また、大きさや幅もタオルメーカーごとに異なるため、すべてを機械に頼ることもできないそうです。

「ヘム縫い」は家の中でミシンを使い内職として働く人たちに支えられてきました。

しかし、家にミシンを持つ人が少なくなったうえ、安価な海外製のタオルに押され、今治市のタオルメーカーが減少するに従って若いなり手もいなくなり、技術者の高齢化がどんどん進んでいったのです。

機械化も一時しのぎ

今治市で1959年に創業したタオルメーカーです。

小田茂貴さん

社長の小田茂貴さんは、10年ほど前からタオルを縫う技術者がいなくなると危機感を抱いていたと言います。

(小田さん)
「高齢化が進んでいるなかで、ミシンを縫っている人が10年後、20年後にどうなるかっていったら90歳とかですよ。
技術を誰かに教えないといけないのに、それを教わる人が入るかどうかもわからない状態で、私はおそらく無理だろうと思った」

小田さんは技術者を募集しましたが、来る人は60代から80代の高齢者ばかり。
このため、「ヘム縫い」の機械化を試みました。

刺しゅうの機械を作っている会社と試行錯誤を繰り返して、1日で1000枚を縫うことができる「ヘム縫い」専用の機械を去年完成させました。

しかし、機械は1台あたりおよそ1000万円かかるということで、簡単に導入できるものではありません。
また、小田さんの会社で作っているタオルは縫えても、他のメーカーのタオルへの対応は難しいと言います。

(小田さん)
「機械を開発したけれども、正直この機械に慣れてしまったらおそらくヘムを縫える人がいなくなってしまうと思うんです。技術者の高齢化に対する『一時しのぎ』でしかありません。
産地を守り、発展させていくためにいちばん大事なのは若い世代への技術継承です」

新たな養成所

こうした中、産地全体で技術者を育てようと今治タオル工業組合はことし7月、新たに養成所を設けました。

今治市の協力もあり、養成所は旧城東小学校の理科室に設置。
開所式には徳永繁樹市長も出席しました。

今治市 徳永繁樹市長

(徳永市長)
「『今治タオル』を多くの人に届けるために、しっかり技術を学んで生産量を上げていくことが必要だ。いままで以上に今治の経済をけん引してもらいたい」

養成所では、ミシンの使い方や、「ヘム縫い」の方法などを学ぶ講習を1か月ほどかけて行います。
一般の人も受講可能で、毎回、10人ほどの希望者を募るということです。

開所式では、地元のタオルメーカーで働く人など、およそ10人を対象にトライアル講習も行われました。

講師を務めたのは地元のタオルメーカーで30年あまり技術者として働いた経験がある村上雪美さんです。

講師 村上雪美さん

(村上さん)
「両親がタオルメーカーを営んでいたので、タオルの技術者不足がどのくらい深刻なのかよくわかっていた。役に立ちたいと思い講師を務めることにしました。
堅苦しい講習会ではなく、みんなで仲良く楽しくできたらいいなと思っています。そして、1人でも多く『ヘム縫い』の技術を伝えていきたいです」

講習では、まず、基本となるミシンの練習が行われました。
足下のペダルを踏む強さによって縫うスピードが変わるミシン。
自分の感覚どおりに動かせるようになって初めて、「ヘム縫い」の入り口に立てると言います。

私もミシンを使って、「ヘム縫い」に挑戦しました。

「ヘム縫い」は、まずタオルの端を3つ折りにします。

3つ折りの幅は、縫う人の感覚がすべてです。
折ってもすぐに元に戻ってしまうため、なかなかうまくできず、時間がかかってしまいました。

3つ折りにしたら、ミシンでまっすぐに縫っていきます。
しかし、これが難しいのです。
少しでもずれれば、売り物にできないからです。

村上さんと私が縫ったタオルを比較すると、違いがよくわかると思います。

たかが端っこ、されど端っこ。
ヘムをきれいにかつ、すばやく縫うことができるようになるには、少なくとも2年はかかるそうです。

講習の参加者も難しさを感じたようでした。

「まっすぐ縫うことも難しかったです。
ミシンの使い方から教えてもらえるということで、参加したいと思いました。
ゼロからのスタートですが、売り物になるタオルを作れるよう頑張りたいです」

「思ったより難しくて、ガタガタになってしまいました。
こんなので務まるのかなって不安でいっぱいですが、この講習を受けて1人でも縫製に携わる人が増えればいいなと思います」

今治タオル工業組合の正岡裕志理事長は、人手不足は喫緊の課題だとして、
養成所の開設をきっかけに、産地全体で技術の底上げを図りたいと意気込みを語ります。

今治タオル工業組合 正岡裕志理事長

(正岡理事長)
「タオルは機械が自動で縫ってくれるものと思われているかも知れません。しかし、産地として複雑な縫製をできる技術があってこそ、品質の高さを維持できます。
人手不足は喫緊の課題ですが、業界を支える人材を1人でも多く養成し、全国のファンに『今治タオル』を届けたいです」

取材後記

私は5月に神奈川から愛媛に引っ越してきたばかりの新人記者です。
神奈川でも、『今治タオル』は身近にある存在でした。
はじめ、「ヘム縫い」と聞いたときに、「ヘム?」とはてなが頭に何個も浮かびました。
タオルの端っこを縫う人が足りないと聞いたときも、「端っこがそんなに大事なの?少し大げさでは?」と思ったのが正直な感想です。
しかし、取材を進めていくなかで「ヘム」を縫わなければタオルができあがらないこと、「ヘム」でメーカーそれぞれが個性を表現していることを学びました。
最終的に人の手が必要不可欠であることも分かり、タオルの見方が変わりました。
ぜひ、この記事を読んでくださった方にも、家にあるタオルの端の部分を見ていただき、職人の技や思いを感じ取って欲しいです。

  • 佐藤巴南

    松山放送局 記者

    佐藤巴南

    2023年入局。神奈川県藤沢市出身。
    小学2年生からボーイスカウト、中学から弓道を続けています。
    初めての四国、初めての独り暮らし。最近は自炊を頑張っています。 

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