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マイクロアグレッション 知ってますか?

  • 2023年08月04日

サムネイルの画像は私、エイブルみちるです。
自分は日本人なのに、なぜか外国人扱いされ続ける…。
NHKの番組ディレクターである私は、毎日そうした体験を繰り返し、「自分は一体何者なのか」と悩んできました。

そんな私の体験を通じて、皆さんに考えてもらいたいことがあります。

(NHK高松放送局 エイブルみちる)

もしかして私は宇宙人?

27年前、私はアメリカ人の父と日本人の母の間にミックスとして生まれ、岡山県で育ちました。
日本の学校に通って、日本語で授業を受けて、家の中での会話はほとんど日本語で、食卓に並ぶのも日本食、日本のテレビを観て、日本語の本を読む…。
当たり前のように「自分は日本人」だと認識していました。

でも幼いころから外に出るとジロジロと視線を感じます。 
「あの子、ガイジンだ」と小さな声で言われているのが聞こえてきたり、幼稚園の友だちと外に遊びに行くと「ハロー!ウェアユーフロム?」と自分だけ知らないおばさんに話しかけられたり…。
新しい習い事の教室に行くと周りの子に「え~!日本語上手!すごい!」と拍手されたり、コンビニのおばちゃんに「どこの国の子なの?」とニコニコ聞かれたり…。
思い出すとキリがないほど、このような経験をしてきました。

「私もみんなと同じ“日本人”なのに、どうして“外国人”扱いされるの?」 
周囲からの何気ない言葉や行動が実感させる“自分と周りとのギャップ”。 
それが幼いころの私にとってとてもしんどく、もはや自分は宇宙人なんじゃないかと本気で思っていたほどです。
幼稚園児ながら「どうして私は○○ちゃんみたいな日本人の顔で生まれてこなかったんだろう?」と思っていたのを今でもはっきり覚えています。

“勝手に”傷ついた自分は弱いのか―

家では“日本人”なのに一歩外に出ると“外国人”になる不思議な毎日。
元々天真爛漫なタイプの子どもだったそうですが、そんな反応が毎回毎回続いていくと、次第に「目立ちたくない」という感情が大きくなり、外出すると存在感を消すようになりました。

初対面の人に会う時は何よりも先に「この人も私のこと“ガイジン”って思うのかな」という不安が芽生えて極度に緊張するようになり、他人に「ありがとうございます」すら言えないほど内気な子どもになっていました。

でも、当時の私は相手を責めたりしませんでした。 
「悪意はなさそうだから、“勝手に”傷ついている自分が弱いのかも…」と思っていたのです。 傷ついているのがバレたら「こんな小さなことを気にするんだ」と思われないだろうか。
気まずい雰囲気になってしまわないだろうか。 外国人扱いするようなことをされても、傷ついていることを周りに悟られないように笑ってその場をやり過ごす術を身につけていきました。

正体はマイクロアグレッション

そんな私にとって転機となったのが、アメリカへの留学や大学入学を機に上京したことでした。
多様な人が集まるコミュニティに身を置き、様々な経験をしたことで、徐々にミックスであることをむしろ自分の魅力だと感じられるようになっていったのです。

NHKに入局して社会のために何ができるのか、考えた時にまず浮かんだのが「幼いころの私のようなしんどさを毎日抱えるミックスの子どもたちを助けたい」ということでした。 当事者や専門家に取材を進めるうちに、やっと自分が幼いころ感じていた“違和感”の正体が分かりました。

「マイクロアグレッション」
小さな攻撃性という意味で、日々の言葉や行動で相手を傷つける行為として今、注目され始めている概念です。
マイクロアグレッションをしてしまう側は、社会的マイノリティの人に対して無意識に抱いている、「外国風な顔だちをした人は○○に違いない」などという、偏見や固定観念などが根底にあると言われています。
そのため、発言した本人も傷つける意図がないことがほとんどで、この問題に気付かないことが多いそうです。
された側も、悪意がないことを分かっているだけに、自分が傷ついていることを指摘できないのがこの問題の難しさなんだそうです。

一緒に考えてみませんか?

「私が“弱い”から傷ついているわけじゃなかった…」 
マイクロアグレッションのことを知って、自分が感じていた違和感は自分の弱さではなく、社会全体で考えなければいけない問題であるということに私は気付かされました。

そこで、これを多くの人と考えられる番組にしようと、ディレクターとして20名以上の社会的マイノリティ(ミックス、LGBTQ+、ひとり親家庭の方、障害のある子どもがいる方など)に会いにいきました。
彼らに「マイクロアグレッションを感じたことはありますか?」と聞くと、ほとんど全員が「もはや感じない日がない」と答えてくれました。

ある外国にもルーツがある小学生は、マイクロアグレッションが原因の一つとなり、学校に行けなくなったそうです。
幼いころの私と重なりました。
それほど“マイクロアグレッション”を受けることは、ダメージが大きいことなのです。

私に「あの子、ガイジンだ」と言ってきた高校生も、「ハロー!ウェアユーフロム?」と話しかけてきたおばさんも、「え~!日本語上手!すごい!」と拍手した女の子も、「どこの国の子なの?」と聞いてきたコンビニのおばちゃんも、全員「傷つけてやろう」という悪意はなかったと思います。
取材に協力してくださったみなさんも、相手に悪意があるとは思っていませんでした。 でも、私が皆さんに考えてほしいのは、「いくら悪意がなくても相手を傷つける言葉になってしまう時がある」ということです。 

「気にしすぎじゃない?」
「そんなこと言われたら何も話せないじゃん」
「もう関わるのをやめよう…」
そう思う人もいるかもしれません。

でも、もしかしたら過去すでに大切な誰かをいつの間にか傷つけていたかもしれない。 これから出会う、仲良くなりたいと思う人のことも、いつの間にか傷つけてしまうかもしれない。
そんな悲しいことが起こらないようにするためにも、一度立ち止まって“マイクロアグレッション”について考えてみてほしいです。
今回、私は「マイクロアグレッション」について取材を重ねてきたことを番組にしました。 ご覧になって一緒に考えていただけたら幸いです。

四国らしんばん
放送:8月4日㈮ 午後7時30分~ (四国域向け)
放送後NHKプラスで8月18日㈮まで全国配信されます。
https://www.nhk.jp/p/s-rashinban/ts/211VG8ZQ7K/episode/te/L6L7P4R38M/

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  • エイブルみちる

    エイブルみちる

    2019年入局のディレクター。父はアメリカ人、母は日本人。岡山県出身。
    現在は高松放送局で現代アートに関する番組を制作したり、マイノリティの人に関する取材したりしている。 趣味は、うどんだけに留まらない香川のおいしいもの巡りをすること。

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