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愛媛の夫婦 娘の“ストーマ(人工肛門)”生活を配信

  • 2023年07月14日

愛媛県松山市に、ちょっと珍しい内容を動画で配信している家族がいます。

幼い娘の病気について、明るく語る動画で、総再生回数は、なんと2200万回以上(2023年7月現在)にものぼります。

なぜ、発信しようと思ったのか。そしてどうしてこれだけ再生されるのか。
配信する一家を訪ねました。

(NHK松山放送局 河村柚花)

配信するのは娘の“日常”

みーのすけさん(28)と こきをさん(29)夫婦は、娘のなのちゃん(2)と3人で暮らしています。

2人は、なのちゃんとの日常を1年半ほど前から月に2~3本のペースで動画を制作しています。

どんな内容かというと…こちら。

ユーチューブ「なのは日和」より

なのちゃんがお腹につけている(描写)のは、“ストーマ”と呼ばれるものです。
そのケアの仕方を説明した動画です。

ストーマ(人工肛門)とは

実は、なのちゃんは「総排泄腔遺残」という5万人に1人の難病で、生まれた時から肛門がありません。
便を自力で排出できないため、生後3日目に手術をし、お腹に“ストーマ”と呼ばれる人工肛門をつくりました。

ストーマには便の排出を調整する筋肉がないため、無意識に排泄されてしまいます。
そのため、排泄物をためる袋、“パウチ”を付けて生活しています。

情報が少ない“幼い子のケア”

実はストーマを付けて生活をしている人は、子どもから大人まで全国で約21万人いるといわれています。
大腸がんや事故、なのちゃんのような先天性の病気など、理由はさまざまです。

しかし、いざ なのちゃんのケアを自宅で始めると、便が漏れたり、パウチをはがされたり、思うようにいきません。
実は、みーのすけさん夫婦は現役の看護師。
医療従事者として“ストーマケア”を行った経験はありましたが、初めて子育てする中で起きる想定外のトラブルに、とまどうことばかりでした。

インターネットを見ても、細かなコツや似たような悩みなどを共有している人は、ほとんど見当たりませんでした。

みーのすけさん
「排泄に関わる話になるので、伏せておきたい親御さんとかも多いんです。ただ、そのせいで発信している人が少なく、得られる情報も少ない。自分たちも困ることが多く、同じ境遇の人の力になりたいと思って配信を始めました」

こきをさん
「ストーマって、“服を着たら隠せる病気”ともいわれていて、オープンにしている人が少ないんです。僕たちが配信することで、ストーマをネガティブにおもってほしくなくて、ちょっとでもオープンな気持ちになったらいいかなという思いがありました」

共感の声が次々と…

動画を公開するとみるみる再生回数が伸びていきました。
初めて投稿した動画は、現時点で90万回を超えています。
配信を始めて1年半。
アップした動画の数は140本以上にのぼります。

再生回数が伸びるのと同時に、動画には多くのコメントも書き込まれました。
なのちゃんがかわいいとか、活動を応援するようなメッセージの中に、同じような境遇にいると思われる書き込みも見られました。

動画のフォロワーに感想を聞くと…

「パウチの情報がほとんどない中で、パウチを替えている動画や、皮膚保護材をどう使っているのかなどがあり、細かい作業が見られてよかったです」

「同じように“ストーマ”をつけた生活を送るなのちゃんとご家族が、毎日すごく楽しそうに暮らしているのを見て、勇気づけられました」

話を聞いた方は2人とも0歳児の母親です。
赤ちゃんとのストーマ生活をオープンにし、ケアや日常の様子を明るく、分かりやすく配信していることが共感を呼んでいました。

悩みに応えられる配信のために

動画の反響が大きくなるにつれ、みーのすけさん夫婦に1つの悩みが出てきました。
質問に答えられないケースが増えてきたんです。

みーのすけさん
「私たちはこういうケア用品を使ってたよ、という自分たちの体験談しか言えなくて、違う状況の場合これが合う、といった知識がないことで、せっかく質問してきてくれた人たちの悩みが解決できなかったり、全く経験のないことは返信に困ったりすることが多々ありました」

できるだけ多くの悩みに答えたい。
みーのすけさん夫婦は、新たな企画を始めることにしました。

ストーマケアの専門知識が豊富な看護師の政田美喜さんと杉本はるみさんをゲストに招き、教える側ではなく、教わる側として出演するものです。
政田さんはケア歴29年、杉本さんはケア歴19年。経験も豊富です。

右:ゲスト出演した看護師たち(手前が政田美喜さん・奥が杉本はるみさん)

まず聞いたのが、「子どもがパウチを触ったりはがしてしまう」という多くの方から寄せられた悩みです。
なのちゃんが生まれてからずっと苦労してきたことで、幼い子どもならしかたが無いのかと思いつつ、ぶつけてみました。

みーのすけさん
「子どもがストーマパウチを触らない、はがされない工夫はありますか?という質問なんですが、実は私たちも幾度となくはがされてきて、便が漏れてしまったこともあったんですが…」

看護師 政田美喜さん(日本創傷・オストミー・失禁管理学会理事)
「洋服で調整するのがいいと思います。サロペットのような、いわゆるジーンズ生地は、意外と厚みがあって、袋と衣服の中でこすれず固定されると思います」

厚手の服だとパウチが気にならず、はがされにくくなるというアドバイスです。

さらに肌荒れのケアやパウチの選び方など、手軽に取り入れられる工夫や専門的な知識まで幅広く教えてもらいました。

みーのすけさん夫婦は、今後も機会があれば専門家も招いたりしたりして、自分たちも成長しながらストーマや病気のことを明るく配信していきたいと考えています。

みーのすけさん
「なのちゃんの配信を通して、“ストーマ”について知らなかった人が知るきっかけになっていたりもして、それは自分たちにとっても意味があります。知らないことで、無意識に人を傷つけたりすることもあるから、それで悲しい思いをする人を減らせたらいいなとも思っています。もっと上手にお返事することで、同じ境遇の方の悩みを少しでも軽減できたり、今までストーマを知らなかった人たちとも一緒に病気について考えていけたらと思います。」

取材を終えて

私と同年代の夫婦が子育てだけでも大変なのに、子どもの難病に向き合いながらSNSで発信し続けていることに感銘を受けました。
みーのすけさんは、よりストーマへの知識を増やそうと、看護師の仕事をしながらストーマに特化した勉強もしていきたいとおっしゃっていました。
親として、さらには医療者として向上心を持って取り組んでいくみーのすけさん家族に、今後も注目したいと思います。
 

  • 河村柚花

    河村柚花

    2016年入局のディレクター。
    愛媛生まれの愛媛育ち。
    視覚障害者を取り巻く課題など、福祉ジャンルを中心に取材。趣味は、ドライブしながら温泉を巡ること。

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