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“若手の力”で復興! 未来を見据える玉津のイマ

  • 2023年07月10日

西日本豪雨から5年。
県内有数のみかんの産地・宇和島市吉田町の玉津地区では、若手の力で復興、その先の未来へと歩みを進めています。その取り組みを取材しました。

(松山放送局アナウンサー 宮本真智)

豪雨災害から5年 現状は

かんきつの収穫量全国2位(令和2年・2020年)を誇る愛媛県では、5年前の豪雨により、みかん畑の多くで土砂崩れが発生。農地や農業設備の被害額は450億円にのぼりました。
みかん栽培に適した場所は、最大傾斜50度とも言われる、人が立っているのもやっとの急斜面。つまり、おいしいみかん栽培と大雨による土砂災害のリスクは、紙一重にあります。
このたび私は、被害の大きかった県南西部の宇和島市吉田町、かんきつ栽培が特にさかんな「玉津地区」を取材しました。

山と海に囲まれた、現在の玉津地区

この地区では1000か所以上で土砂崩れが発生し、みかん畑の2割ほどが流されました。
当時、崩れた土砂がむき出しになっていた山肌は草に覆われ、かんきつ園地としてもおよそ8割が復旧し、新しい苗木を植え始めた畑もあります。

新しい苗木を植えた園地

若手の知恵とアイデアが結集

そんな中、「玉津地区」には、豪雨をきっかけに、地域の若手かんきつ農家が力を結集して立ち上げた「玉津柑橘倶楽部」という会社があります。

社長の原田亮司(はらだ・りょうじ)さん、40歳です。
特産のみかんを絶やすまいと、被災した1週間後には、仲間とともに復旧活動を始めました。
まず、重機を持ち寄って農道の補修に取り掛かりました。若者だけでなく、原田さんの親世代、さらに上の世代も一緒になって復旧したことで、およそ1か月でみかん山へ行けるように。
さらには「クラウドファンディング」で資金を募り、その資金をもとにスプリンクラーなどの農機具の修理も自分たちで行いました。その年の暮れには、若手のみかん農家仲間とともに会社を設立。その当時の思いをこのように振り返ります。

原田亮司さん

「最初でこそ、復旧復興ってことで、なにかできることはと思っていたんですけど、復旧復興というよりは、玉津自体を元気に残していくっていうのが会社の大きな目標かなと思っています」

実は、この地域は200軒ほどある農家のうち、4分の1は40代以下の後継者がいます。
その若い力を一つにしようと原田さんたち若手農家が立ち上がったのです。 

ポイントは人材確保

原田さんの会社が取り組んでいるのは、繁忙期や高齢の農家の手伝いを行う「労働者の派遣」、高齢農家が手放した畑を若手に紹介する「耕作放棄地の活用」など、地域の農家が抱えるお困りごとをサポートする事業です。
中でも、地域の未来を見据えた「人材確保」に力を入れています。新たな人材の確保は、みかん産業を残していくため欠かせないことだと原田さんは言います。

原田さん
「若い人が多いとはいえ、高齢の方のほうが多い。こういう田舎で人口減少を止めるっていうのは、田舎の力だけでは難しいと感じていたので、やっぱり地域を維持する、みかん産業を維持するにはどうするかってなったら、他所から人を呼び込むってことになるのかなと思っています」

原田さんの会社では、就農希望者を“農家研修生”として受け入れ、雇用します。高齢農家が手放した畑などを会社で管理し、研修生が栽培できる園地を確保したり、かんきつ栽培にかかる経費を会社でサポートできる態勢を整えたりするなど、いつ希望者が来ても、安心してみかん栽培に臨んでもらえるように、環境整備を行っています。

移住者の一人、佐々木隆史(ささき・たかし)さん、41歳。4年前(2019年)、東京でのサラリーマン生活から移住を決意しました。
はじめは、西日本豪雨の災害ボランティアとして、玉津にやってきました。そこで、みかん農家の育成を進める原田さんらと出会い、玉津でみかん農家を目指すことになりました。

佐々木隆史さん

「1年目から自分ひとりである程度の管理を任せてもらえたんで、それで、その仕事の内容であったりとか、どのぐらいの時間がかかるとか、いうのもだいたい把握できたのはよかったのではないかなと思っています」

原田さんは会社で所有する畑を佐々木さんに移住当初から管理してもらい、みかん生産に必要な栽培技術や果実の取り扱い方などのノウハウを2年間にわたり仕込んできました。
そして去年の夏、佐々木さんは、みかん農家として独立しました。

原田さん
「研修期間の間、管理していた会社の畑を、独立する段階で好きなところを持っていっていいよっていう形にしたので。なかなか土地の貸し借りなんかは難しかったりするので、そういったところは会社でサポートできるところかなと思っています」

地域に定住し就農してもらうことはそう簡単ではないものの、地域の未来を担うかんきつ生産者の育成に向けて、手探りで取り組みを続けています。

100年先も元気なふるさとを残すために

ほかにも、いつ来るかわからない災害や、高齢化による耕作放棄地の増加など、農家が直面する課題に備える取り組みも始めています。

その一つが「大苗育業」です。
苗木の状態から市場に出荷できるみかんができるまでには5年から10年の年月を要します。そこで、会社で一括して苗木を少しでも大きく育てておいて、復旧・収益化までの時間を短縮しようと取り組んでいるのです。

会社で育てているみかんの苗木
2000本ほどを一括で管理している

豪雨をきっかけにミカンの産地の今後について仲間と模索と挑戦を続けてきた原田さん。
目指すのは、100年先まで元気なふるさとを残していくことです。

原田さん
「佐々木くんとか移住者が来てくれるのもありがたいですし、自分たちの子供世代が大人になったときに、一つの選択肢として家業のみかん農家を継ぐっていう選択がとれるような元気な地域でその時も残っていたらいいかなとは思っています」

取材実感

豪雨から5年。あの日、みかん山に刻まれた爪痕は見えなくなりつつあります。しかし、もとの園地の状態や収穫量に戻すまでにはまだまだ時間がかかるということを改めて感じました。そんな中、原田さんをはじめ、豪雨をきっかけに地域への思いを強くし、未来を見据える若者たちの存在は、地域を明るく、盛り上げていく力になっているのだと思います。

  • 宮本真智

    宮本真智

    2019年入局。鹿児島局を経て、2022年4月から松山局。現在は「ひめDON!」を担当。
    とにかく朝に強く、朝日を浴びる瞬間が至福のひととき。好きな食べ物は果物全般。かんきつの季節が楽しみでなりません。

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