気象予報士 VS AI? ~AI時代の気象予報士~
- 2023年06月01日

チャットGPTの登場で一気に身近になってきたAIの存在。 現役の気象予報士はAIとの付き合い方をどう考えているのか。


やぁ。ひめ太郎君。きょうはAIと気象予報士の未来について話そう。

AI、人工知能のことだね。そもそもAIと気象予報士のお仕事って関係あるの?

おおありさ。今だって天気予報の仕事の大部分を支えているのはAIなんだから

え、野口さんが、天気を予想しているんじゃないの…?

もちろん僕が責任をもって予想して伝えているけれど、その根拠となる情報はAI・コンピューターの計算結果なのさ。そもそも天気予報がどうやって生まれるのか説明しよう。
天気予報は、物理法則に基づいた計算によって生まれている。 ある場所・ある時点の大気の状態(気温や風、水蒸気の量などだよ)が5分後、10分後、1時間後、半日後、1日後…どうなっていくか方程式に当てはめて計算するんだ。 それを地球上全ての場所に当てはめて計算する。これを数値予報モデルと呼んでいるよ。

ち、地球上のすべて場所を?


そう。これは地球全体を細かい格子で区切ったイメージだよ。この1億以上ある格子の全てにおいて、それぞれ未来の状態を計算して導き出すんだ。

なんだかすごく大変そう。

そう。複雑なうえに計算量が膨大で、とても人間にはできない。 だからこの計算は全てスーパーコンピューターが担っているんだ。 もちろん、物理法則だけで表せない効果が天気に与える影響によって、計算の数値には必ず誤差が含まれる。 だから天気予報は100%当たるわけじゃないし、先の未来になるほど誤差は大きくなる。 それでも、コンピューター自身がどんどん学習して、誤差をも取り込んで修正できるようになっているし、計算能力も年々向上しているから、天気予報の精度はどんどんよくなっているんだ。

計算しながら、学習。まさにAIだね。 複雑な計算をAIがやってくれていることは分かったけど、そこから先が野口さんの出番ってこと?

いや。まだだ。 数値の羅列でしかない計算結果をAIが人間にも分かる情報に置き換えてくれている。 これをガイダンスって呼ぶんだ。イメージとしてはこんな感じ。


え、これまさに天気予報そのままじゃない?

そう。このまま読み上げても天気予報としては形になるよ。

じゃあ、野口さんは何をしているのさ。

主に2つ。 1つ目は仕上げのちょっとした修正。 コンピューターの計算結果には癖があってね。 「この場所でこういう時は、実際より気温を高く予想しがち…」みたいな部分があるんだよ。 それを天気予報に携わる人間が経験と勘に基づいて少し修正するのさ。 それから、計算結果の誤差を考慮して伝えることも大切。 雨は降らない予想になっているけど、計算の前提条件(前線の位置など)が変われば雨になる。 しかもこの雨は結構強くて影響が大きい。そんな時は念のため、雨の可能性を強調しておく。とかね。

なるほど。最後の仕上げだね。

そう。全体から見れば1%にも満たない部分だと思うけど、この最後の修正が意外と大切。 それからもう一つ大切なのは、こうした情報を伝わる言葉にのせること。 ただただ「天気=”雨”、最高気温=25℃」みたいに機械的に伝えても本当の意味では伝わらない。 伝える相手は人間で、そこにはそれぞれの生活があって文化がある。 伝える先の生活に思いをはせながら、機微に触れるような本当に伝わる情報を発信できるのは人間だけだって思うんだ。災害時には人の命を左右する情報でもあるからね。

うわー。感動しちゃう。そんな風に考えていたんだね。 気象予報士さんってAIと協力し合いながらうまく仕事しているんだね。

うん。今のところはね。

ど、どういうこと?今後は違うの?

協力関係は変わらないけど、天気予報に対する僕たち気象予報士の関わり方は変わっていくと思うよ。 まず、1つ目の「仕上げの修正」だけど、これはたぶん近い将来いらなくなる。 さっき「コンピューター自身が学習していて、精度もどんどん高くなっている」って言ったけど、 そのうち予想をほとんど外さなくなると思う。 加えて、今はまだコンピューターが考えていること(計算の過程)が何となくわかるから、結果に対して修正を加えられるけど、計算が複雑になりすぎると人間にはコンピューターの考えが理解できなくなってくる。分からないけど当たるっていう状態。こうなったら人間はヘタな修正を加えられない。修正しないほうが当たるんだから。
そして2つ目。 伝わる言葉に載せること。 僕はこれだけは人間にしかできないってずっと思っていたけれど、その考えがガラリと変わったのがチャットGPTの登場さ。チャットGPTの会話能力にはとても驚いたよ。まだ学習中だから間違ったことも言うけど、会話の能力だけ見れば、現時点でも人間との会話にかなり近づいてきている。今後さらに発展していくことを考えると、将来的にはその時々・その人その人に合わせた、伝わる言葉でAIが天気を解説してくれるようになるんじゃないかな。

じゃあ…野口さんの仕事はなくなっちゃうの?

気象予報士は昔から「AIに仕事を奪われる」って言われていたよ。 僕は少なくとも今の働き方ではいられない可能性が高いと思っている。 でも僕はそれならそれでいいと思うんだ。

い、いいの?

うん。天気を完璧に予想してくれるなら、そこはもうAIに任せちゃえばいいのさ。 あとはどうそれを活用するか僕たち人間が考える。 例えば食料品の需要予測とかね。 天気って、食品などの売り上げと密接に関わりがあるから、今でも天気予報は需要予測や在庫管理に使われているけど、それがより精度よくできるようになれば、仕入れの無駄がなくなってエコだよね。 こんな風にAIをどう活用するか考えるところに人間が活躍する余地があるんじゃないかなって思っているよ。気象予報士に限らず、チャットGPTの登場で、自分の仕事がどう変わっていくか考えた人も多いんじゃないかな。

「ひめポン!」で野口さんを見られなくなるのは寂しいな~😢
野口さん今までありがとう。

いや、そんなにすぐじゃないから!これからもよろしくね。