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廃校にできたフリースクール

過疎化が深刻な地域が不登校の子どもの居場所に!
  • 2023年12月25日

 

不登校の子ども30万人近くに増加 そして、廃校も ・・・

2023年の発表では不登校の小学生・中学生は確認されているだけで全国で29万9048人。
35人に1人が、不登校の子どもがいる計算です。
熊本県では5353人。割合では全国の平均値より高く、25人に1人。
不登校となる理由は様々ですが、学びの場の確保が大きな課題となっています。

一方で、通う子供が少なくなり、廃校となる学校は2020年度までの10年ほどは、
毎年300~500ほどあり、統計を取り始めてから8580となりました。

 

少子化が進む中、学びの場である学校自体が次々と廃校となり、
地方では、子どもがいない地域も増えています。

廃校を活用したフリースクール開校

そうした中、2023年8月末に珍しいフリースクールができました。
フリースクールとは・・・民間団体が運営する不登校の子どもの学習や支援をする施設のこと。
何が珍しいかというと、廃校を活用したことです。
 

なぜ廃校なのか?
 

施設があるのは、熊本県天草市の西部の天草町下田南。
人口は140人ほど、地域の子どもは10人以下、高齢化率は6割を超えています。
この地域にあるのが、旧下田南小学校。2012年度に閉校しました。

 

今回、この学校を改装して県内で初めて宿泊もできるフリースクールとしました。
子どもたちは、1週間から長くて1か月ほどこの施設に滞在し、
元教師などから学習支援を受けます。
また、この施設を運営する団体は、多くの県内の市町村と連携していて、
小中学生はほとんどの場合で、この施設に通った期間は学校の出席扱いになります。

施設を作ったのが、不登校の子どもの支援を10年以上続ける仙波達哉さん。

仙波さんは、熊本市内を中心に、複数のフリースクールを運営しています。
なぜ廃校を活用したフリースクールを作ったのか伺いました。

保護者の方から子どもの環境を変えてほしいという依頼が多くありました。
また、これまでの経験から、都市部から離れて自然に囲まれることで、
子どもたちの生活リズムや考え方が整うこととも考えました。

また、この場所に目を付けたのはもう1つ理由があると言います。

地域に子どもが少なく、例えば祭りの継承など地域の文化が消滅しかけていて
そうした課題の解決への一助になるのではないかとも考えました。

開校までは2年の歳月が・・・

しかし、天草町下田南にフリースクールを作る計画を地域住民に発表したところ、思わぬ反応が・・・

住民のみなさんは不登校の子どもたちに対して不安を抱えていました。
変わった子どもではないか?何か犯罪が起こるのではないか?という
声もあり、最初の住民説明会は大荒れでした。

そうした中、仙波さんは、子どもたちを下田南に連れていき、交流を重ねてきました。
次第に地域の人たちは、「うちの孫と変わらない普通の子どもたちなんだ」と
理解が進んでいきました。

下田南に一番最初に滞在した高校生

8月末に開校したこのフリースクールに最初に滞在したのが、熊本市内に住む高校2年生の美桜さん。

中学3年生から不登校となり、仙波さんが運営する熊本市内のフリースクールに通っていましたが、
下田南の自然環境に惹かれ、車で2時間半かけて、この地にやってきました。

この施設では、座学の勉強だけでなく、
地域の人たちとともに行う農業体験や釣りなど体験型学習を重視しています。
 

さらに、放課後は自炊にも挑戦してもらい、一人立ちするためのスキルを身に着けてもらいます。
美桜さんにとっては、初めての自炊。最初のうちは地域の人が彼女をサポートしました

1週間滞在した美桜さん。初めて親元を離れて過ごした感想は?

まずは一人暮らしってこんなに解放感があるんだ。(笑)
地元の人が“ごはんを一緒に作ろうか”とか声をかけてくれたから
安心して過ごせました。

美桜さん再びの訪問 地域の変化は?

10月、下田南の祭りがコロナ禍を経て4年ぶりに開催。
熊本市内の自宅に戻っていた美桜さんも、祭りが見たいと再び下田南を訪れました

ただ、ここに来る直前まで美桜さんは、心が沈む日が続き、体調を崩していたといいます。
祭り当日、美桜さんは、次々と地域の人から声をかけられ、
表情も前日までとは違い、とてもにこやかでした。

地域の人は、美桜さんをすっかり自分の孫のように大切に思っているようです。

地域に子どもたちがいない中で、美桜さんが来てくれて本当に良かった
気さくにいろんな話もしてくれるし、
うちは学校の前だから遊びにおいでって声をかけました。

こうやって美桜が下田南に帰ってきてくれたっていうことがうれしい。

美桜さんも下田南がより自分にとって大切な場所になってきています。

家以外に帰れる場所が見つかったような気がしています。
祭りに参加して地域の人とさらに仲良くなれたと思っています。

それから1か月後、美桜さんはもっと地域の人と交流を深めたいと文化祭を企画
仙波さんのフリースクールに通う子どもたち10人ほどと、お化け屋敷を作ったり、
地域の人も参加しながらビンゴ大会をしたりしました。
当日は、50人ほどの地域の人が来場。美桜さんの想像より多くの人が来場しました。
 


 

今後は熊本初「不登校特例校」へ

仙波さんは、今後も下田南の人とともに作る学習施設を模索していきながら、
これを皮切りに熊本県内のほかの場所にも同様のフリースクールを設置していこうと考えています。
それに加え、この下田南の施設を2年後を目途に「不登校特例校」にしようと計画してます。
「不登校特例校」は、文部科学省が認定する不登校の児童・生徒に特化した学校のこと。
つまり、
民間団体から私学化していくとともに、
寮を整備し、下田南に短期ではなく、長期で滞在できるようにしていきます。
現在、不登校特例校は熊本県には、1つもありません。
 

子どもたちの選択肢として、不登校特例校は必要だと考えています。
それにここで雇用も生まれます。また、長くここで生活すれば、
下田南が子どもたちにとっても第二のふるさとになっていき、
定住にもつながるかもしれないと思っています。

廃校を活用した不登校支援は、岡山でも

廃校を活用し、地域も活性化しながら、不登校の子どもにも成長してもらう取り組みは、
熊本以外でも始まっています。
岡山県笠岡市の離島、飛島でも、廃校を活用したフリースクールがあります。
ここでは、「将来は学校に行きたい」と考えている子どもたちのために
島に一番近い小規模の効率の小中学校と連携し、そこに籍を置いて通うこともできます
活動が本格的に始めた2022年度は、8人の子どもが半年から1年滞在。
施設を離れた後、中学校に復学したり、高校に進学したりし、学校に通っている生徒もいます。

取材後記

新たに生まれたフリースクールが、子どもにとっても、地域の人にとっても良い影響を与えています。
一方で、熊本県天草市下田南、岡山県笠岡市の飛島、
どちらも地域の存続もが危惧されるほど、過疎化が深刻です。
また、どちらのフリースクールも民間団体で、現在資金面では「日本財団」が支援していますが、
それにも期限があります。
今後、5年先、10年先、施設と地域がどう変化していくか、引き続き取材していきます。
 

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