夜間中学校の春~卒業~
- 2024年04月09日
教育を十分に受けられなかった人などが学ぶ県立の夜間中学が開設してから3年がたち、3月14日に初めての卒業式が行われました。卒業式に臨んだのは50代から70代の男女4人。学ぶ喜びに包まれた夜間中学の春を取材しました。
学び直しの場へ
高知市にある「県立高知国際中学校夜間学級」は、さまざまな理由で義務教育を十分に受けられなかった人や外国人などの学びの場として、3年前に開設された県立の夜間中学です。
1期生となる南国市の西本恵美さん(52)は学び直しをしたいと夜間中学に通いました。
西本さんは小学生から中学生にかけて勉強と集団生活が苦手で、教室でひとりになることも多くありました。そして、母親に勧められるまま進学した高校も2年で中退し、ほとんど家に帰らなくなりました。
当時について西本さんは「集団生活が嫌いで、勉強がわからない。先生の顔色をうかがいながら勉強し、いつも分からないのに分かったふりをずっとしていて、もう学校が大嫌いでした」と振り返っています。
転機は、夜間中学の開校をテレビのニュースで知ったことでした。3人の息子の子育てが一段落し、学び直したいという気持ちが強くなりました。
夜間中学に行くことを決めた理由について西本さんは「小学校、中学校が嫌いっていうのをもう1回、上から塗り固めたいっていう思いがずっと片隅にありました。わからないことがわかるっていうのも
楽しいですし、前向きな友達も周りにすごく増えたので、もう今は本当に楽しいです」と話しています。
西本さんは周りからの刺激も受け、漢検や英検の勉強も始めました。
夜間中学の意義
夜間中学では、中学校の教科書を使いますが、一人ひとりの学習理解に合わせて小学校の内容も教えています。この春、3年生5人のうち学びを終えて卒業したのは4人ですが、もう1人は夜間中学に残り、新年度も納得いくまで勉強を続けるということです。
夜間中学の意義について大川将司教頭は「学び直したい、勉強したいという気持ちになるタイミングや時期というものは人それぞれで、色々な環境、条件があると思うんですけど、学び直したいと思ったタイミングで学べる場所が高知県にあるというのはすごく大事なことだと思います」と話しています。
卒業式、人生を豊かなものへ
夜間中学の開設から3年。初めての卒業式が行われました。
卒業式で片岡真希校長は「学びは一生続くものです。これからも困難が待ち受けているかもしれませんが、そんなことには負けず、学ぶことを楽しみ、自分らしく生き抜いてください」と激励しました。
これに対し、卒業生の代表で60歳の刈谷恵次さんは「この学びやで培った経験をもとにこれから先の人生を豊かなものにし、なりたい自分になるために前へ進んで行きたい」と決意を述べました。
3年間の学び、得たものは?
式のあと、卒業生たちは慣れ親しんだ教室に戻り、担任に花束を贈るなどして別れを惜しみました。
西本さんは卒業にあたり「いままではネガティブ思考で、どうせ私なんか、やってもないのにもう無理無理っていう全否定的な考えだったんですけども、ここへ来て180度変わりました。本当にここに来てよかった」と振り返りました。
価値観が大きく変わり、学ぶ喜びを感じた夜間中学。西本さんは4月から通信制の高校で学ぶことにしていて、将来は大学に行くことも視野に入れています。
西本さんは「いちばん言いたいのは、やっぱりやればできるということ。やってもいないのに諦めるっていうのは実にもったいないということをここの学校で学ばせてもらいました。学びたい人は1歩踏み出せないと誰も背中を押してくれないので、まず自分で1歩踏み出すことです。勇気を出してください」と笑顔で話していました。
西本さんは、学校が嫌いだった子どものころは母親に「うるさい」と思ったこともあったそうですが、自分も母親になって学び直す中で、母親への「感謝でいっぱい」になったそうです。
学び直しへ、国も「夜間中学」の設置呼びかけ
国も、様々な事情で十分な教育を受けられなかった人の学びの機会を保障するため、全国の教育委員会に「夜間中学」の設置を呼びかけています。学びの支援は全国的な課題となっています。