高知出身の作家が描いた『らんまん』モデル 牧野夫妻
- 2023年09月11日
『らんまん』のモデルとなった牧野富太郎博士に関する物語はさまざまな作家によって描かれています。中でも、牧野博士と同じ高知出身の作家、大原富枝が描いた小説を深掘りしました。
（高知放送局 リポーター 五十嵐優衣）
『らんまん』での夫婦の姿
『らんまん』もいよいよ終盤。ここまで、万太郎と寿恵子は借金や愛する子どもの死など、数々の困難と向き合ってきました。
特に寿恵子は妊娠、出産に加え、家計のやりくりや、借金取りの対応まで行い、たくましく成長する姿が印象的です。
牧野富太郎博士と壽衛さんが実際に交わした手紙を元に書かれた小説が高知県出身の作家によって描かれています。
「戦後最大の女流作家」大原富枝
「戦後最大の女流作家」と呼ばれた、高知県本山町出身の大原富枝（1912―2000）です。
戦中、創作活動に専念するため上京し、東京を拠点にさまざまな作品を生み出してきました。 1957年に「ストマイつんぼ」で女流文学者賞を、1960年に「婉という女」で毎日出版文化賞 などを受賞しています。 大原が亡くなる直前まで執筆していたのが、牧野博士と壽衛さんの物語『草を褥に 小説 牧野富太郎』です。
大原の絶筆『草を褥に 小説 牧野富太郎』
大原富枝の出身地・本山町にある本山町立大原富枝文学館です。大原の生涯や作品を紹介しています。
職員の川村智保さんに話を聞きました。
川村智保さん
「大原富枝の父が牧野博士から教えを受けたことがあるという接点があり、大原は幼少の頃から牧野博士に興味を持っていたそうです。そして博士について取材を進めるうちに、妻の壽衛さんの存在を世に伝えたいという強い気持ちが芽生えたようです」
大原が描いた夫婦の姿
著書は牧野博士と壽衛さんの手紙を元に描かれています。壽衛さんの手紙の引用も多くあり、当時の2人の関係や、壽衛さんの気持ちを想像することができます。
大原は牧野夫妻を次のように語っています。
「牧野富太郎は、自分の結婚については、すべてをきれいごとに書いたり、語ったりしている。しかし真実を語ってこそ、彼とそしてその妻のほんとうの人間らしさとその地味な偉さというものが判明する」 大原富枝著『草を褥に 小説 牧野富太郎』（小学館）より引用
大原の著書からは、夫婦のリアルな姿がかいま見えます。 以下は牧野博士が「大日本植物志」の制作に奔走していたころに壽衛さんが牧野博士に宛てて描いた手紙の抜粋です。
「今度は二、三日の内に御帰り遊され候や 一度御帰り遊ばされ度、又々かさねて御出になる共いっぺん御帰宅の様御なし遊され候 子供も毎日待ち兼ねおり、（つるよの申すにはかあちゃんが父ちゃんをイジメルカラ帰らぬなど申し居り候）」 大原富枝著『草を褥に 小説 牧野富太郎』（小学館）より引用
牧野博士が精力的に研究に取り組んでいる様子や、冗談を書く壽衛さんのほほえましい姿がうかがえます。一方で、1人で子育てをする心細さをにじませる手紙もありました。
「おかよこともからだ中に出来もの出来夜がな夜日に泣き通し、おそのは泣き、じつに困りおり候 あなた様にも御用すみ次第一日も早く御上京遊され度待ち申し候」 大原富枝著『草を褥に 小説 牧野富太郎』（小学館）より引用
ドラマでも描かれたお金の問題も
著書には、家計の収支や負債の額などが記載されていて、どのような生活ぶりだったのかが見えてきます。ドラマでも借金取りの対応や家計のやりくりに苦労する寿恵子の姿がありましたが、現実でも相当な苦労をしていたことがうかがえます。
川村智保さん
「明るく朗らかなドラマとの違いに衝撃を受けたと言う人もいました。ドラマとは違う部分も見てみたいという人にぜひ読んでもらいたいです」
本山町立大原富枝文学館では、9月30日まで『草を褥に 小説 牧野富太郎～大原富枝の描いた富太郎と壽衛の物語～』と題した企画展を行っています。終盤を迎える『らんまん』と合わせて見てみると新しい発見があるかもしれません。
川村智保さん
「小説は読む人によって解釈も違ってきます。それぞれの解釈やドラマとの違いを楽しんでほしいです。そして、高知県出身の大原富枝にも興味を持ってもらえるとうれしいです」
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高知放送局 リポーター
五十嵐優衣
牧野富太郎博士ゆかりの地域を巡っています。
