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高知の心を震わせた 天皇杯 高知ユナイテッドのJ1川崎戦

観客7243人を魅了した試合を現地取材した佐藤好キャスターが徹底リポート
  • 2023年08月07日

サッカー日本一を争う天皇杯の4回戦が2日、高知市で行われ、JFLの高知ユナイテッドがJ1の強豪・川崎フロンターレをあと一歩のところまで追い詰めた。
ガンバ大阪、横浜FCと、2戦続けてJ1のチームに勝ち、「2度あることは…」と期待を背負って果敢に挑んだこの試合は、敗れたものの多くの人の心を震わせた。
(高知放送局 スポーツキャスター 佐藤好)

3度目のJ1撃破へ 高知県民の期待と気合い

決戦の舞台は今回も高知市の県立春野総合運動公園陸上競技場。
到着してすぐに感じたのは、前回の横浜FC戦以上の人口密度。
会場には高知ユナイテッドの3度目のJ1撃破に期待をかけ、私の想像をはるかに超える人が集まっていた。
時刻は午後4時。話を聞くと、多くの人が仕事を休んだり半休を取ったりして集まっていた。
「すばらしい戦いが続いていたから、上司も背中を押してくれた」と笑顔で語る人の姿が印象的だった。

前回とは運営方法も大きく変わっていた。
多くの来場者数が予想されたこの日、初めて高知駅から会場まで無料のシャトルバスが運行された。また、グッズ販売や飲食店などの出店の数は、前回の2倍以上。アウェーチームのグッズ販売ブースも設けられ、オープン前から長打の列ができていた。

県外からも多くの高知サポーター

高知ユナイテッドのサポーターに話を聞くと、意外にも県外から来ている人も多いことがわかった。
選手の親類や幼なじみ、前所属チームのファン、「話題になっていたから来てみた」というサッカー好き。天皇杯での快進撃を知って、今回初めて訪れたという人ばかりだった。
歩いていると、よく目立つおそろいのTシャツを着た少年たちに出会った。尋ねたところ、香川県のサッカーチーム「FC DIAMO(ディアモ)」とのこと。
前回J1横浜FCとの戦いで劇的な決勝点を決めた、高野裕維選手が所属していたチームだ。
その際は観戦してなかったが、先輩の活躍に胸を打たれ、この日はみんなでバスに乗って来たと言う。
「きょうも決めてほしいです!」と語る目は、キラキラと輝いていた。

先輩・高野裕維選手の姿は彼らの目にどう映っただろうか

J1川崎相手に互角 会場は大興奮

会場内では今回からゴール裏の芝生席が開放されていて、多くの人が以前よりも近い場所からチームに熱い視線を送った。
名物になりつつある、地元・明徳義塾高校サッカー部で結成された応援団もこの日は芝生に陣取り、高校スポーツの応援でよく使われる「盛り上がりが足りない」を試合開始早々に繰り出した。
盛り上がるにはまだ早い時間では…という考えは無用。周囲に気合いを見せつけた。

メガホンを持参し応援する明徳義塾高校サッカー部
明徳義塾高校出身の佐々木敦河選手もスタメンで活躍

試合は川崎フロンターレにボールを持たれる展開が続きながらも、キーパー・上田樹選手や、最終ラインの堅い守りで、得点は許さなかった。

声を出して守備をけん引するキーパー・上田樹選手

高知ユナイテッドも持ち味のカウンターから決定機を作り、何度も相手を脅かした。
チームがボールを奪うたびに会場は大歓声に包まれ、シュートが外れるとたくさんの人が頭を抱えてひざから崩れ落ちた。それでも落胆の表情は見られず、みんな笑顔だった。いいときも悪いときも含めて、みんなが心から目の前の熱戦を楽しんでいた。

得意のドリブルで再三チャンスをつくる樋口叶選手
ゴールに迫る東家聡樹選手と小林心選手

敗戦も7000人の心揺さぶる

走り続け、守り続けた高知ユナイテッドは、強豪相手に0対0で試合を進めた。
試合は残り10分ほどになり、「延長に入ったら体力持つかな」「PKだったら勝てるかも」。観客席からはそんな声も聞こえ始めた。
しかし、後半35分、均衡は破られた。
川崎フロンターレに、コーナーキックからこぼれ球を押し込まれた。

会場内は悲しみに包まれた…わけではなかった。「あぁ、ついに来たか」といった感じ。
そもそも川崎をここまで無失点に抑えていたのがとんでもないことなのだ。
それにまだ誰も諦めていない。あと10分ある。
「大丈夫」「まだ行けるよ」。そんな声が飛び交い、応援がやむことはなかった。

チームを鼓舞するキャプテン・横竹翔選手

その後も高知ユナイテッドは走り続けた。
80分以上全力で堅守速攻を続けてきた選手たちの体力は、限界に近かっただろう。
それでも一筋の光を目指して、前に前に進み続けた。

しかし、無情にも試合終了の笛。

意地と魂でぶつかった勇敢な志士たちの夏の陣は、ここで終わった。

会場には拍手が鳴り響いた。
負けたことを非難する人は誰もいない。
「感動をありがとう」「よく頑張った」と、選手をねぎらう声があちこちから聞こえた。
JFLのチームが、カテゴリーが3つ上のJ1のチームを2回破って、全国ベスト16。誇らしいことだった。

川崎のサポーターも「すばらしい試合だった」と高知ユナイテッドをたたえた。「Jリーグで待ってる」。そんな声も聞こえた。
この日訪れた観客は、7243人。
高知ユナイテッドの戦いは、敵も味方も関係なく、訪れた全員の心をつかんだ。

川崎フロンターレのサポーターから声をかけられる横竹選手

たくさんの希望を乗せて突き進んだ高知ユナイテッドの天皇杯は、ここで終わりを告げた。
しかし、JFLのリーグ戦はまだまだ続く。
この夏、格上相手に果敢に挑む勇ましさに、強豪を立て続けに破るたくましさに、多くの人が魅了された。
目標のJリーグ昇格に向け、今後のリーグ戦ではどんな戦いを見せてくれるのだろうか。

  • 佐藤 好

    高知放送局スポーツキャスター

    佐藤 好

    岩手と高知で天皇杯を取材してきましたが、「ラウンド16(4回戦)」と書かれた取材パスを受け取ったのは初めてでうれしかったです!

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