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北九州平和資料室 市民がつなぐ平和への思い

  • 2023年08月17日

ことし6月、北九州市若松区に小さな平和資料館がオープンしました。農業用の倉庫を改装してつくられたスペースに並ぶのは、直接さわることができる戦時中の資料の数々。展示には、市民がつなぐ“平和への思い”が込められています。

“さわって”学べる小さな資料館

北九州平和資料室

のどかな田園風景が広がる北九州市若松区蜑住につくられた「北九州平和資料室」。40平方メートルの小さなスペースに、300点の資料と手作りのパネルが並びます。 展示の特徴は、ほぼすべての資料に“さわれる”こと。戦時中の衣服や軍隊手帳、焼夷弾や防毒マスクまで、直接手に取ってその重さや質感を感じることができます。

この資料館を1年近くかけてつくりあげたのが、元小学校教諭の小松芳子さん(55)です。

小松芳子さん

「展示されているものにさわることができるのが、大きな特徴です。その時代に生きた人が、その時代を必死で生きてきたということを想像しながら知ってほしいです」

“戦争体験世代と若い世代をつなぐ懸け橋に”

小学校教諭の頃の小松さん

小松さんの活動の原点は、今からおよそ30年前まで遡ります。教師になって2年目の秋、戦争をテーマに研究授業を担当することになり、初めて地元の体験者に話を聞いて、自分がいかに戦争を知らなかったかを痛感したといいます。

児童たちと開催した戦争展

その年の冬に児童たちと一緒に校内で戦争展を開催。主体的に戦争を学ぼうとする子どもたちの姿を見て「自分は戦争を体験した世代と、若い世代をつなぐ役割がある」と強く感じたといいます。 

展示は平易なことばで解説

 今回、小松さんがつくった資料館にも、若い世代を意識した工夫が施されています。手作りのパネルには、小学生でもわかる平易なことばで解説を付けています。展示スペースの隣にある図書コーナーには戦争に関する絵本も置いています。「平和な未来をつくるのは今の若い世代」。小松さんがいつも口にしていることばです。

引き継がれてきた民間の資料館

前身となった資料館(1996年 小倉北区)

資料館に展示されているほとんどの資料は、市民の間で長年受け継がれてきたものです。実は、北九州ではおよそ30年前から、市に公的な平和資料館の開設を求める市民団体が中心となって、資料館が運営されてきました。

小野逸郎さん

市民団体のメンバーとして、2013年から去年まで資料館を管理してきたのが、小野逸郎さん(88)です。小野さんは軍属の父とともに4歳から12歳まで中国東北部の旧満州で過ごしました。小野さんは、自身の体験などから、戦争を被害の側面だけでなく加害の側面からも伝えることを大切にしてきたといいます。 

小野逸郎さん

今、戦争が起こらないような世の中にしていこうとするなら、過去の戦争はどうして起こったのか、戦争が起こるという過程の中で国民の生活はどうなっていったのか、そのあたりをやっぱり知っておかないといけないと思います。

小野さんと小松さん(2022年8月)

去年8月、小野さんが管理してきた資料館は閉館しました。北九州市が公的な資料館として「平和のまちミュージアム」を開設したことや、市民団体のメンバーの高齢化で運営が難しくなったことなどが理由でした。その際、「市民が戦争を伝える場所をなくしてはいけない」と再建を申し出たのが、スタッフとして資料館に通っていた小松さんでした。小野さんは小松さんに資料館のほぼすべての資料を託しました。

小野逸郎さん

あれだけの資料をどうしようかと思いましたが、小松さんがよりよい資料館をつくってくれそうですから、本当にうれしいです。

オープンまでの奮闘

改装前の農業用倉庫

それから1年。オープンまでの道のりは決して平たんではありませんでした。 新たな資料館をつくるため、クラウドファンディングなどで資金を集め、農業用の倉庫を購入。吹きさらしの状態だった倉庫に壁をつくり、床や資料を置く棚などの内装もすべて、ボランティアの支援を受けながら、こつこつと手作業で行いました。

苦労を重ねながらも、準備を続けた小松さん。当時を生きた人の姿を伝える貴重な資料を大切にしたいという強い思いがそこにはありました。

「折れそうなときが何度もありましたが、本当にたくさんの人たちに支援していただいて、考えたことを実現させることができました。資料を見て、こんなふうにしか生きられなかった、こうやって命を落とした人たちがいて、今の日本の平和があるっていうことをもう一回思い出してほしいです」

小さな資料館に込めた平和への思い

来場者には小松さんが資料を説明

ことし6月のオープン以降、小松さんは事前に予約して訪れた来場者1人1人に、資料に触れてもらいながら、展示に込めた思いを説明しています。

来場者

手に取ってさわることで、その時代が感じられるものがいっぱいあると思います。決して軽いものではなく、本当に重いものだという。

手作りの年表には戦争を被害の側面だけでなく、多角的に伝えてほしいという小野さんの思いが受け継がれています。 

“戦争を伝え続けることで、いつか戦争のない世の中にしたい” 
小さな資料館に込められた平和への思いです。

小松芳子さん

「過去の戦争を知って、今の時代と重ねて考えてほしいです。触れて感じながら、戦争当時のことを知り、被害と加害の両面から戦争のことを知る。そして戦争というものを憎む。戦争のない平和な社会をつくっていこうという気持ちにさせる資料館を引き継いでいきたいと思っています」

取材後記

取材を始めた頃、資料館はまだ改装中で室内はがらんとしていて、完成後の姿を想像できませんでした。その後できあがった資料館は、手作りの解説パネルや資料で壁一面が隙間なく埋め尽くされていて、その空間にいるだけで小松さんの平和への強い思いが感じられました。 

終戦からことしで78年。 新たにできた小さな資料館が、戦争を改めて考えるきっかけになることを願っています。

  • 背戸柚花

    北九州放送局 記者

    背戸柚花

    2022年入局。
    祖父は広島の被爆者。
    北九州の戦争遺跡を巡りたい。

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