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保護司が足りません

  • 2023年08月01日

    犯罪や非行をした人たちの立ち直りを支援する保護司と呼ばれる人たちがいます。
    今、その担い手不足が深刻になっていて、再犯の防止などの活動に影響が出かねない事態となっています。
    その現状をお伝えします。(北九州放送局 記者 伊藤直哉)

    保護司とは

    保護司の役割は主に3つです。

    ①犯罪や非行をした人たちの少年院や刑務所から出たあとの住む場所や働く場所の確保を行う。
    ②月2~3回の面談を実施し、困りごとの相談に乗ったり生活や仕事を続けていくためのアドバイスを行ったりする。
    ③立ち直り支援に対する地域社会の理解を得る活動を行う。

    これらの立ち直りの支援を保護観察と言い、より専門的な知識を持った保護観察官とともに対象者の自立を支援し、再犯を防ぎます。

    法律上、保護司は法務大臣の委嘱を受けた非常勤の国家公務員ですが、交通費などを除いて報酬はなく、実質的には民間のボランティアです。

    立ち直った姿を見るのがやりがい

    今回、北九州市小倉北区で現役の保護司として活動する後藤昭二さん(75歳)を取材しました。

    後藤昭二さん

    後藤さんは勤めていた会社を退職した後に保護司になり、これまで12年間にわたって、およそ20人の立ち直りを支援してきました。

    後藤さんは窃盗事件で保護観察処分を受けたある少年との最後の面談記録(要旨)を見せてくれました。

    面談記録(要旨)

    「『よく頑張ったね』と激励すると、本人はうれしそうにうなずく」

    少年に仕事先を紹介するなどして、2年間にわたり地域の中での自立をサポートしたといいます。

    後藤さん

    更生の道を歩んで、新たな人生をスタートしてもらえると本当にうれしいです。

    深刻化する担い手不足

    しかし今、保護司制度は存続の危機に直面しています。

    保護司の定数は全国で5万2500人と定められていますが、実際の数は減少傾向が続いていて、ことし1月時点で約4万5000人しか確保できていないのです。

    さらに、このうち8割が60歳以上。
    任期は2年で、再任できる上限年齢は原則76歳未満と定められていて、10年後には半数が退任を迎えるといわれています。

    勧誘活動は限界

    後藤さんは、保護司が欠員となっている地域の担い手確保に取り組んでいます。
    取材中、勧誘のため町内会活動で知り合った介護福祉士の男性のもとを訪れました。

    後藤さんは保護司の役割やその意義を伝えました。

    左:保護司の後藤さん 右:勧誘を受ける男性
    後藤さん

    保護司としてサポートした人はその後、再び犯罪に手を染める確率は低いんです。ぜひ保護司になることを検討してもらえないでしょうか。

    男性

    話を聞いて、非常に社会貢献できる尊いボランティアだと感じました。ただ、対象者の方と信頼関係が作れずに関係性がこじれたときのことを考えると不安です。

    後藤さん

    各地の保護司の活動状況もいろいろ聞きますが、そういったことはまずありません。トラブルとかはないと考えてもらって大丈夫だと思います。

    男性

    挑戦してみたいと思いますが、家族にも相談してみます。

    この男性は、最終的に保護司になることを決心してくれました。しかし、後藤さんによると、今回のようにうまくいくケースは最近ではまれだといいます。

    地域の中での立ち直りを支援していく以上、保護司はその地域に精通した人であるのが望ましいとされています。
    そうした人材を確保するため、これまでは現役の保護司の人脈に頼ってきたのが実情です。
    しかし、都市化などにより地域のつながりが希薄になっていく中で、新しいなり手を見つけるのは困難になっているのです。

    後藤さん

    地域で信頼をおける人を探さないといけないという面もあって非常に難しいです。将来を考えると保護司が大幅に減っていくというのは、もう目に見えています。

    広がる影響

    保護司不足は、ともに立ち直り支援にあたる保護観察官の仕事にも影響を及ぼし始めています。

    保護観察官が対応している事件一覧

    本来、更生保護に関する専門知識を持った保護観察官は、より支援が困難なケースの対応にあたることになっています。

    しかし、保護司不足により、その分の支援業務も担わなければならず、保護観察官の業務がひっ迫しているのです。

    再犯を防ぐ活動にも支障が出てきかねないといいます。

    福岡保護観察所北九州支部 髙野信幸 統括保護観察官
    髙野統括保護観察官

    保護観察官の負担は増えています。保護司が不足するなか、対象者への面談が実施できないなど保護観察が十分行えず、地域社会全体の犯罪予防活動がしぼんでしまう懸念もあります。

    保護司の担い手確保へ

    どうすれば保護司不足に歯止めをかけることができるのか。

    国は制度の見直しに向けた検討会を設置。
    ことし5月、各地で活動する保護司や研究者などが参加して初会合を開きました。

    国の検討会

    今は推薦で選ぶことになっている保護司制度に公募制を導入するかどうかや、年齢の上限の見直し、それにボランティアではなく報酬を支払うようにするかなどを今後議論し、来年秋をめどに報告書の案をまとめるとしています。

    このうち公募制の導入を検討する背景には、これまで担い手の確保を現役保護司の人脈に頼ってきたなか、一般の人たちの制度への理解や認知が進んで来なかったという指摘があります。そこで、保護司制度を広く知ってもらった上で、公募する形にすれば、今よりも人材が集まるのではないかという訳です。

    ただ、公募で地域の事情に精通した保護司の資質を備えた人を十分確保できるかは不透明です。

    更生保護に詳しい専門家は、そもそも民間に頼ることに限界があると指摘しています。

    京都大学大学院教育学研究科 岡邊健 教授
    岡邊教授

    犯罪も、少年の非行も多様化しています。そのような中では保護司にも専門性が求められると思います。スキルを持たない保護司が対応するには難しいというケースも現実に出てきています。専門的な知見を持つ社会福祉士や公務員に保護司になってもらうということも考えられると思います。

    さまざまな課題がある中で、どう持続可能な制度にしていくか、今後の活発な議論が期待されます。

    もし、保護司に興味があるとか、どのような制度なのか詳しく知りたいという方は、ぜひ最寄りの保護司会や保護観察所に問い合わせてみて下さい。

    (取材後記)

    私(記者)は大学時代に少年の立ち直りを支援するボランティア団体「BBS」で活動し、そのなかで保護司制度を知りました。活動の一環で保護司と非行経験のある少年と一緒に食事をする機会がありましたが、そのとき少年があふれんばかりの笑顔を見せていたのが印象的で、保護観察の意義を強く感じました。そして、記者として取材・発信する立場となり、立ち直り支援の大切さとともに、制度を支える保護司不足の現状や問題を伝えたいと思い、今回記事にしました。
    取材を通して関係者から伝わってきたのは保護司不足により、十分な立ち直り支援が行えなくなるのではないかという危機感でした。国の検討会が立ち上がり、これから解決策に関する議論が進んでいきます。その推移を見守りながら、私もこの問題の取材を続けていきたいと思います。
    この特集は6月2日に放送しましたが、その後、放送を見た複数人から保護観察所北九州支部に保護司になりたいと問い合わせがあったということです。これを読まれた方も検討してみてはいかがでしょうか。

    (動画はこちらから)https://www3.nhk.or.jp/lnews/kitakyushu/20230602/5020013486.html

      • 伊藤直哉

        北九州局 記者

        伊藤直哉

        2017年入局。山口局を経て2022年8月から北九州放送局。生きづらさを減らすための報道を心がけています。

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