子どもの近視 ~患者の治療体験談~

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子どもの病気・トラブル近視視力や見え方の異常

近視のしくみ

人は遠くのものや近くのものを見るとき、水晶体の厚みを変化させて、網膜上にピントが合うように調節しています。しかし、見るものが近すぎると、水晶体の調節機能が限界を超え、ピントが網膜の後ろに合うようになってしまいます。それを補うために伸びるのが、眼球の前後の長さ(がんじくちょう)です。眼球が伸びることで近くのものにもピントが合うようになる一方、遠くのものを見た時は、網膜より手前でピントが合って、ぼやけて見えてしまう、これが近視です。

一度伸びてしまった眼球は、原則としては戻らず、子どもの時に進行しやすいため、眼球の伸びを抑える進行抑制治療の重要性が指摘されています。

正常な眼球
近視

近視の程度

近視の程度は、焦点の合う場所が網膜からどれくらいずれているかを数値で表した「屈折度数」の検査でわかります。単位はD(ジオプトリー)で、屈折度数の小さい―0.5Dから―3.0Dは弱度の近視、―3.0Dから―6.0Dは中等度の近視、屈折度数が―6.0Dより大きい場合は強度近視と分類されます。

治療体験談 ―実際にあったケースー

①弱~中程度の近視 志さん(10歳):低濃度アトロピン点眼薬+屋外活動

小学校4年生の志(のぞみ)さんは、小学校に入学する前に行う検査で、視力は両目とも0.3と近視が発覚しました。両親が振り返ると日頃から、物書きをするときに目が近いなど、目の悪さに気づく予兆もあったといいます。
その後も近視は進み、1年生のころには、眼球の前後の長さを表す眼軸長は24.6mmと、同年代の平均23mmを超えていました。

物書きをするときに目が近い

近視がこれ以上進行しないように医師から提案されたのが、低濃度アトロピン点眼薬による治療です。毎日、1回点眼することで、眼球が伸びることを抑えます。視力の矯正はできないため、眼鏡などとの併用が必要になります。

低濃度アトロピン点眼薬

毎日自分で点眼することを続けた結果、志さんの眼軸長は徐々に平均値に近づき、眼球の伸びが抑えられています。

治療開始前と現在の眼軸長の値をあらわすグラフ

「近視はよくなることはほとんどないので、悪くなるのをいかに遅らせるかが治療だと(医師から)言われていたので、(治療して)その通りになっているので、やってよかったなと思っています」(志さんの母 由紀枝さん)

※近視進行抑制治療は、基本的に自由診療です。
低濃度アトロピン点眼薬は1本 2,500~4,000円/月
現在、国内未承認ですが、国内で承認されたものが2025年に出る予定です。

さらに、志さんが実践していることがもう一つあります。それは、外で1日2時間以上屋外活動をすること。海外のさまざまな研究から、屋外活動は治療の効果を上げるのに有効との報告がされています。志さんは日常的に、学校や公園など外で活動することを心がけており、週末は家族でスポーツをするなど、外で過ごす時間を増やしています。

サッカーをする志さん

屋外活動で得られる太陽光は、近視の進行を抑制すると言われています。1000ルクス以上の日光に近視抑制効果があると言われ、日陰でも十分に効果が期待されます。特に夏は直射日光ではなく、日陰を活用することが勧められます。

この「光」を利用した最新治療が、「レッドライト」というものです。
機器に目を当て、赤色の光を1日2回、3分間目に照射するだけで、網膜を包む脈絡膜という血管が拡張し、網膜を前方に押すことで眼球の伸びを抑えます。さらに、一定の確率で眼軸長を縮める効果もあるとされる画期的な治療法です。近視が強い人ほど効果があることが分かっており、子どもだけでなく、大人にも効果があるか、現在臨床試験が行われています。

レッドライト

※日本では未承認ですが、自由診療で治療を受けられる医療機関も広がっています。(2024年2月時点で全国50施設ほど)

②弱~中程度の近視 周朔くん(10歳):オルソケラトロジー

小学5年生の周朔(しゅうさく)さん。視力の悪化に気づいたのは、4年生で受けた学校の視力検査の時でした。今まで近視を指摘されたことはなく、たった1年の間に視力が0.2まで悪くなっていたといます。

視力検査をしている様子

周朔さん親子が眼科を受診すると、医師からは、眼鏡をかけるか、治療を受けるか、という2つの選択肢を提案されました。眼鏡をかけていても、成長期には眼球がさらに伸びて近視が悪化する場合があります。一方、治療は眼球の伸びを抑えることで、近視の進行を未然に防ごうというもので、周朔さん親子はこの治療を選ぶことにしました。

角膜矯正用コンタクトレンズ オルソケラトロジー

オルソケラトロジーと呼ばれる角膜を矯正するハードコンタクトレンズを夜間に装着します。就寝中にレンズの断面形状にそって角膜の表面が平たんに変形することで、眼球に入る光の屈折が変わり、網膜の上でピントが合うようになります。角膜の変形は日中も維持されるため、裸眼で日常生活を送ることができるようになるのです。

オルソケラトロジーを装着したときの角膜の状態

治療を始めて1年、周朔さんのレンズの取り扱いはお母さんがサポートしています。定期的に受ける視力検査では、両目合わせて1.0ほど見えているという結果が出ていて、近視の悪化をとめていると、効果を感じています。

オルソケラトロジーは長期的に見て近視の進行が少ない

※オルソケラトロジーは、毎日継続することで、角膜を矯正するだけでなく、長期的に見て近視の進行が少ないことが新たに分かり、注目されています。治療可能な屈折度数はー4.0Dまでが目安です。自由診療で、レンズ代と診療費を含めて初年度は15~30万円程度、2年目は検査料などで年間3~6万円程度。

③強度の近視 日和さん(現在14歳):多焦点ソフトコンタクトレンズ

日和(ひより)さん、中学2年生。母の歩美さんが日和さんの目が悪いことに気づいたのは、日和さんが3歳のころでした。目を細めたり、テレビもとても近くに行って見たりすることが多かったと言います。さらに段差などでよく転ぶことに違和感を覚え、検査を受けると、強度近視になっていることが分かったのです。

強度近視

しかし、当時は治療法がなく、眼鏡が処方されるだけで、視力は悪化していきました。近視が発覚してから4年後、大学病院で眼軸長を測ると26mmで、同年代の平均23mmを大きく超えていました。

オルソケラトロジーによる治療は、日和さんの近視が強すぎて使用できず、低濃度アトロピン点眼薬は、強度近視への効果が確認されておらず、使用しませんでした。そのため、近視が進まないよう、テレビやスマホを長時間見ないなど、生活に気を付けるしかなかったといいます。

そんな中、12歳のとき、転機が訪れます。大学病院から多焦点ソフトコンタクトレンズによる治療が提案されたのです。このレンズはもともとは老眼用で、一枚のレンズの中に、遠く、中間、近くを見る度数が配置されています。さまざまな点にピントが合うのでボケが少なくなり、近視の進行抑制効果があるとされています。また、オルソケラトロジーと異なり強度の近視でも装着可能なことが特徴です。

多焦点ソフトコンタクトレンズ

治療を開始すると、以前は2年で1.2mm伸びていた眼軸長が、2年経っても0.3mmに抑えられていて、今では制限していたスマホやタブレット、本なども楽しめています。

「今まではどうすることもできなくて、ただただ近視が進んでいく娘を見ているしかできなかったので、やっと(よい治療法に)出会えた感じでとてもうれしかったです」
(日和さんの母 歩美さん)

多焦点ソフトコンタクトレンズ装着前と後の眼軸長の比較をあわらしたグラフ

※日中に8時間以上装着すると効果が期待できます。治療対象はコンタクトレンズを自分で扱うことができる中学生以上が目安です。通常のコンタクトレンズと同様、診察は保険診療可
レンズの費用は6,000~9,000円/月

この記事は以下の番組から作成しています

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