病気の起こり方も薬の副作用も男女で違う 見逃されてきた性差医療

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男性基準でつくられてきた医療

長年、男女の病気には違いはさほどないというのが医学界の認識でした。
そのため、生理がなく、体の状態が安定している男性が主な研究対象となり、診断や治療が作られてきました。
さらに、1960年代以降、男性基準の医療を加速させるできごとがアメリカで起きました。睡眠導入剤として開発された薬・サリドマイドの臨床試験に参加した女性の赤ちゃんの体に異常が発生するという薬害事件です。1977年、アメリカ政府は、臨床試験には女性の参加を禁止するという勧告を出しました。こうして、臨床試験は男性だけを対象に行われるようになり、【薬の開発】【治療】【診断】もおのずと男性基準になっていったのです。

男女でこんなにも違う!病気の起こり方

1990年代初頭、アメリカのマリアンヌ・レガート博士らの取り組みによって、心臓病をはじめとする病気の男女差が認知され始め、女性には女性の医療が必要だという動きが起こりました。

見過ごされてきた 女性の狭心症

狭心症とは、一般的に心臓に血液を送っている「冠動脈」が動脈硬化で詰まり、血流が流れにくくなって、心筋(心臓の筋肉)が弱ってしまうものです。血管が完全に詰まれば心臓の筋肉が壊死し、死の危険があります。
狭心症などの心臓病は男性の方が3~5倍ほど多く発症しています。男性の狭心症は下の図のように太い血管が詰まる症状が多い傾向にあります。

男性の狭心症

しかし、最近になって女性は、男性に多い狭心症のように太い血管が詰まるのではなく、0.5ミリ以下のごく細い血管・微小血管が狭くなって起こる傾向にあることが分かり注目されるようになっています。
狭心症の検査として、一般的に行われる心臓の血液の流れを調べる「冠動脈の造影検査」では太い血管の詰まりは見つけることができますが、微小血管の狭まりを見つけることはできません。

微小血管の狭心症

心電図によって、心臓の血流不足を見つけることで微小血管の狭心症が疑われる場合もありますが、実際にはなかなか診断することができず、見過ごされるケースも少なくありませんでした。
さらに、狭心症を発症したときの症状も男女で違うことが分かっています。男性の症状は、締めつけられるような「胸の痛み」が主になります。対して女性は、首や肩、お腹などいろいろなところに痛みが出る傾向にあり、心臓の病気だと気づかない場合もあります。
まずは、疑わしい症状があったら、微小血管の狭心症についての知識が豊富な女性外来など専門医のいる医療機関などで受診することをおすすめします。

微少血管狭心症について、気になる症状がある方は女性外来や専門医へ相談を!
詳しい情報は👉【日本冠微小循環障害研究会】 ※NHKサイトから離れます

知っておきたい 認知症の性差

認知症にはさまざまな種類があり、それぞれ症状や特徴が違ってきます。
そして、認知症も男女によって起こり方が違うことが明らかになっています。

まず、男性に起こりやすい認知症の種類は、『血管性認知症』です。
血管性認知症は、脳の血管が動脈硬化によって詰まったり、血管の柔軟性が失われて血管が狭くなり、血流が悪くなり、神経細胞が死んでしまう病気です。そのため情報を最短ルートで伝えることができず、以前はスムーズにできたことが段取りよくできなくなります。次第に記憶を呼び起こすときにも時間がかかるようになり、物忘れが多くなってしまいます。さらに進行して脳の前頭葉の障害が大きくなると、感情のコントロールが難しくなるため、急に怒ったり、泣いたり、笑いだしたりするようになり、泣いている表情で笑うなどということが起こります。

それに対して女性は、アミロイドβというごみが蓄積することで、そのゴミの毒性で神経細胞が死ぬ、『アルツハイマー型認知症』の発症率が高い傾向があることが分かっています。アルツハイマー病の初期段階は軽度認知障害といい、この段階では日常生活にほぼ支障がありませんが、進行すると、日常生活に支障が出る認知症になります。進行に伴い、着替えや食事などの日常生活動作に障害が出始め、重度になってくると立つ、歩くといった運動機能にも障害が起こるようになります。女性の場合、閉経後にアルツハイマー型認知症の初期段階である軽度認知症が急激に増えてくることが分かっています。つまり閉経による女性ホルモンの減少が、アルツハイマー型認知症の発症に深く関わっていることが分かってきています。実は脳内で、女性ホルモンや男性ホルモンなどの性ステロイドホルモンは、神経細胞が健康な状態を維持するために、重要な役割を果たしているようです。性ステロイドホルモンは脳内でも作られるのですが、女性の場合、閉経で体から脳へと侵入する女性ホルモンが急激に減ってしまう影響で、脳の神経細胞の死滅が進むと考えられています。また、この女性ホルモンの減少が、アミロイドβが脳から排出されにくくなって蓄積していくメカニズムに関わっていることも指摘されています。

女性の死亡数1位!大腸がん 腫瘍のできる場所・でき方が男女で違う

日本人女性のがんによる死因1位は大腸がんです。がんの中で日本人が最も多くかかっている「大腸がん」。大腸がんは進行が遅い、性質が比較的おとなしい、ほかの臓器に転移しても切除可能といった特徴があり、治る可能性の高いがんと言われています。それにも関わらず、なぜ女性でがんによる死因1位となっているのでしょうか?

大腸がんは早期に発見して適切な治療を受けることが大切です。外科手術で根治可能な大腸がんは、大腸がん検診を正しく受診すれば約9割の確率で見つけることができます。

検査は、まず便潜血検査で便に血液が混じっていた場合、大腸内視鏡検査を受診します。
その大きな理由として、大腸がんの性差が関わっている可能性が指摘されています。下の図は、男性大腸がん患者さんの内視鏡画像です。

男性大腸がん患者の内視鏡画像

男性は、比較的肛門に近い位置に出っ張った腫瘍ができる傾向があります。

一方、下の図は女性大腸がん患者さんの内視鏡画像です。

女性大腸がん患者さんの内視鏡画像

女性は、肛門から離れた大腸の奥に扁平な腫瘍ができます。この腫瘍は見つけにくいために、検査で見逃される可能性もあるうえに、悪性度が高いことも知られています。こうした理由で、大腸がんは女性のがんの死亡数1位となっていると研究者は指摘してます(男性は3位)。

大腸がん 腫瘍のできる場所・でき方が男女で違う

知らないとキケン!薬の副作用にも性差がある!

一般的な市販薬の「用法・用量」には、男性と女性の区別はありませんが、薬の副作用にも男女の差があることが明らかになっています。

以前、アメリカで「ゾルビデム」という睡眠薬を服用した患者さんが、意識のない状態で通販の商品を注文するなどの夢遊病を起こすというケースが多発しました。中には、意識のないまま車を運転し、死亡事故を起こすといったケースもありました。そうした症状を引き起こした患者さんの大半は「女性」だったのです。
このことを重く見たアメリカ政府は、その原因を解明する実験を行いました。男女それぞれに、10mgのゾルビデムを服用させ、薬の効き目が消えるとされる8時間後の体内の残留量を調べました。実験の結果、血中に薬が多く残っていた人の割合は男性が3%だったのに対して、女性はその5倍でした。女性の方が長く薬が残りやすいことが明らかになったのです。

服用後、血中濃度が高い人

女性の体内に薬が残りやすい原因は、男女の体格差ではなく、臓器の働きの違いがあることが分かってきました。まず、女性は小腸で薬を吸収する速度が男性よりも遅い傾向にあります。そのため薬は時間をかけて吸収され、男性よりも長時間にわたり作用し続けます。
そして、薬の成分を体外排出する腎臓の機能も女性の方が遅い傾向にあるのです。このため、薬が体内に蓄積される濃度が高くなり、薬の作用が強くなります。これが、ゾルピデム服用後の女性で夢遊病が多かった理由と考えられています。

そもそも、薬の作用が長時間続くために女性は、男性よりも2倍副作用のリスクが高いことが分かっています。あるアメリカの調査では、一般に処方されている薬86種類中、76種類で女性の方が効き目が残りやすいことが分かり、人々に衝撃を与えました。また、副作用も頭痛、吐き気のような軽いものから、突然死につながる不整脈といった深刻なものもあることが分かってきました。しかしながら、女性は男性より薬の服用量を減らせば良いかというと、話はそう単純ではありません。副作用のリスクが減っても、そもそも薬の効果が低下してしまっては本末転倒です。このため、市場に出ている薬で、女性の服用量を男性より減らしているケースはほとんどありません。対策として、国や製薬会社は市場に出た後の薬の副作用の情報を収集しており、そこで薬の性差も監視しています。医師から新たな薬を処方された時、もし体に異変を感じた場合は医師に相談し、薬の種類や服用量を検討することが大切です。

この記事は以下の番組から作成しています。

男性目線 変えてみた

「“男性目線”変えてみた 第1回 性差医療の最前線」
2023年4月29日(土)夜10時(総合)
NHKオンデマンド 配信ページはこちら

「“男性目線”変えてみた 第2回 無意識の壁を打ち破れ」
2023年4月30日(日)夜9時(総合)
NHKオンデマンド 配信ページはこちら