ページの本文へ

かごしまWEB特集

  1. NHK鹿児島
  2. かごしまWEB特集
  3. 迫られる「決断」

迫られる「決断」

  • 2024年04月04日

シリーズ「被災地はいま」。1月16日から24日まで石川県輪島市を中心に取材した住山智洋記者が、住宅再建の難しさや、“地元に残るか離れるか”に揺れる住民を取材しました。

負担が重い「住宅の耐震化」

私は主に石川県輪島市で取材し、珠洲市や穴水町、能登町にも行きました。その中で、被災した人の
大きな壁になっていたのが「住宅の再建」でした。

 

実家を片づける東孝明さん

大規模火災が起きた輪島市の「朝市通り」近くで出会った東孝明さんは、母親が1人で暮らす実家の片づけをしていました。実家は倒壊していませんでしたが、壁が剥がれ落ちるなどの被害を受けていました。
能登半島ではこれまでも地震があり、被害が出るたびに修繕を繰り返していました。ただ、今回は特に大きな地震でした。東さんは、再建にあたって住宅の耐震化の必要性を改めて実感しましたが、多額の費用がかかるとみられ、不安を抱えていました。

 

東孝明さん

費用を投じて修繕するにしても、国などの補助は限られると思うので、悩ましい。

 

半壊するなどした住宅の修理の支援は災害救助法に基づき、行政が費用の一部を負担する「応急修理制度」という支援策があります。ただ、対象は屋根や台所、トイレなど「日常生活に必要不可欠な部分」で、限度額も「半壊」以上では70万6000円で、限度額を超える分は自己負担になります。さらに、原則、耐震補強は認められていません。このため東さんは、自己負担する費用が多額におよぶのではないかと感じ、耐震化は難しいと話していました。

「2次避難」に揺れる集落

「住む場所が決まらない」「自宅に住めない」となると、避難生活がより長引くことになります。そして避難については、一人ひとりの問題にとどまらず、地域の今後にも大きな影響を与えていることがわかりました。
取材したのは輪島市の中心部からおよそ18キロメートルほどのところにある、町野町の若桑地区です。山あいのこの地区は、一時孤立状態となりました。

 

町野町若桑地区で行われた話し合い

地区の集会所では、今後について話し合いが行われていました。住宅の被害が大きいことや生活への不安から、さまざまな声があがっていました。区長が「2次避難の申し込み書を出すのか、出さずに残るのかを聞かせてほしい」と尋ねました。すると、次のような声が上がってきました。

住民たちの声
「現状のまま、自宅避難を続けたい」
「妻の仕事が1年契約なので、それを守りたいと思っている」
「私自身、仕事もなく無収入だ。ここに残れるかと言ったら正直残れないと思う」

地区で暮らし続けたいという声がいる一方、別の地区に移らざるを得ないという声もありました。話し合いでは、当時の区長が2次避難を希望していて、後任の区長など地区の体制をどうするかといった内容もありました。

地震前の地区の住民は50人ほどです。「今後、誰が残っていくのかわからない。一部の人だけが地区のために働くのではなくて、残っている人たち全員でやっていこう」という発言がとても印象に残りました。小さな地区だからこそ、一人ひとりの決断が地域の今後に直接影響すると実感しました。

鹿児島県も過疎化が進み、住民が少なくなっている地域が数多くあります。「いつ、自分たちがこのような状況になってもおかしくない。他人ごとではない」と感じました。石川県の状況を見て感じたことを、一人ひとりが自分ごととして捉え、「災害」と向き合っていく意識が重要だと改めて思います。

  • 住山 智洋

    NHK鹿児島 記者

    住山 智洋

    2022年入局
    鹿児島市出身 
    事件・事故担当
    鹿児島の文化も取材しています

ページトップに戻る