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落語家・桂竹丸 鹿児島の落語家としての使命とは 

  • 2023年07月10日

鹿屋市出身の落語家、桂竹丸さん。四代目桂米丸に入門した後、1991年にNHK新人演芸大賞最優秀賞を受賞。2020年には文化庁芸術祭賞優秀賞を受賞しました。日本史が好きということもあって、歴史上の人物を題材にした創作落語を披露しています。その創作落語の1つに、特攻基地のあった知覧で食堂を営んでいた鳥濱トメさんと若き隊員たちの交流を描いた「ホタルの母」という落語があります。

鹿児島の落語家としての使命 特攻隊を語り継ぐ

竹丸さん)鳥濱トメさんのことを紹介した「ホタル帰る」という本がありまして。これを読んだときに、私は鹿屋生まれで、小さいときには周囲に防空壕があって、おふくろから鹿屋の特攻隊のことも聞かされながら育ちましたので、これは鹿児島の人間が、鹿児島弁でやらんといかんと思ったんですね。トメさんの言葉は標準語じゃだめだ。鹿児島弁で演じないと、トメさんの優しさ、悲しさは伝わらないんじゃないかと。

竹丸さん)ぐらしか(かわいそう)ですよね。16~18歳の人生まだまだこれからの命を落とす。兵隊さんたちがトメさんに「おばちゃん、僕ら、早く死んでいくけど、そのぶんの残りの命はおばちゃんにあげるね」って言って飛んでいったという話を聞くと、本当につらいですよね。いま世界中で一向に戦争は終わらないしね。そうした中で、自分のライフワークとして、知覧の「ホタルの母」。そしてもう一つは大隅町岩川の「飛ばなかった特攻隊」というのがあるんですよ。

白鳥

特攻の方針に異議を唱えた美濃部正少佐が率いた芙蓉部隊ですね。曽於市大隅町岩川に秘密飛行場が置かれました。

そうです。美濃部さんが部下の命を無駄にしたくないと、上官に刃向かって最後まで言うべきことを言った。もっとこの芙蓉部隊のことは全国の方に知ってもらいたいですよね。あと2年で戦後80年。鹿児島に生まれた落語家としての使命、運命みたいなものを感じながら、この「ホタルの母」と「芙蓉部隊」はライフワークとして語り継いでいきたいですね。

歌手としてデビュー

左:永井龍雲さん

桂竹丸さんは、2023年5月に歌手デビュー。曲のタイトルは「落語家の本分」。シンガーソングライターの永井龍雲さんがプロデュースしました。永井さんは五木ひろしさんや氷川きよしさんなど多くの歌手に楽曲提供していて、永井さん自身の母のふるさと、奄美大島を舞台にした曲「ルリカケス」は地元でも人気です。 

永井さんが落語好きで、その落語をテーマにした歌を竹丸さんに歌ってほしいと、白羽の矢が立ったんですか?

そうなんですよ。でも私言ったんですよ、「いやいや私に歌は無理です、下手なんですから」と。でも、永井さんが応援してくださるというので、だったら甘えさせていただきますねと。迷惑かけますけど、いいですかということで。

レコーディングは順調に進んだんですか?

何回か歌ったんですよ。1回目歌って、「じゃあ本番行きましょうか」ってなって2回目歌ったら、「ん?」ってなって、3回目歌って、「ん・・・今のはダメ、もう一度」って。それで4回目、5回目歌ったら、「竹丸さん、1本目が一番良かった」って。ああ、そうですか、じゃあ1本目を採用でいいですかって聞いたら、録音してなかったって…(笑)

曲には 「世の中(ドンドン)おかしくなっちゃって 正直者が馬鹿を見る」 「世の中(ドンドン)冷たくなっちゃって か弱き者が捨てられる」 「世の中(ドンドン)忙しくなっちゃって 働き者が病んでいる」 という歌詞があります。

たしかにこの歌詞のような風潮を感じなくもないですね。

一生懸命やってるんだけど、うまくいかないことってあるじゃないですか。生意気なようだけど、そういう人たちへの応援歌でありたいというのが、落語であり、落語家なんでしょうね。

落語が大好きな永井さんが考える、ある意味、理想の落語像、落語家像のようなものが詰め込まれたメッセージだと思いますが、竹丸さんが考える落語家の本分とは?

落語家の本分

竹丸さん)落語というのは、ガス抜きというかね…。みなさん日々、一生懸命仕事なさっていると思うけれど、例えば月曜から金曜まで一生懸命働いて神経つかってストレスもためていくんだけど、日曜日に「映画を観て泣く」「お芝居観て感動する」「落語聴いて、ふふ馬鹿だなぁ」と、喜怒哀楽の感情を解放すると月曜からの仕事がうまくいくという説もあるんですよ。落語というのは、あの相田みつをの世界ですよ。“失敗したっていいじゃん、人間なんだもん”という世界が落語なんじゃないかと思いますね。ありがたいですね、今回の歌手デビューもそうですけど、自分が好きなことやらせていただいて、こんないい商売ないですよ(笑)。

でもそれは、人がすすめてくれたことに素直に乗っかった結果、こうやっていろんな新たな風景が見えてきたんですよね。

竹丸さん)本当にそう思いますね。もう私は5合目までしか行けないと思ってても、もう少しばかり、6合目に行ってみないかと。すると景色が変わるじゃないですか。「あ、こんな発見があるんだな」ということもあるからね。年をとるとどうしても考えが固くなって、その固い頭の中で自分で計算するじゃないですか、「ここまでしかダメだな」と。それはちょっと、もったいないのかもしれないと思いますね。うまくいくかは分からないけど、失敗したら失敗したでネタになるじゃないですか。結果的にCDが売れなくても、それはそれでネタにすればいいんですよ。そうすればみんなが笑ってくれるでしょ。笑ってる時間は幸せじゃないですか。何か心に思うことがあったら笑えないですよ。1日1回笑ったら、その1回の時間は幸せだったということですからね。

竹丸さん)極論すれば、世の中に無くてもいい商売です、我々落語家というのは。無くてもいい商売なんだけど、我々の商売、演芸の世界が成立するというのは、「豊か」ということだと思います。そこでみんながお金を出して、知らない同士で観て、はははんと笑う、泣く。それを「豊か」と言うんじゃないですかね。

  • 白鳥 哲也

    アナウンサー

    白鳥 哲也

    長崎・京都・松山・沖縄局を経て、Eテレ「きょうの健康」などを担当
     現在は、ふるさと鹿児島で「情報WAVEかごしま」キャスター

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