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鹿児島市の都市部でも進む“過疎” かつてのマンモス校は…

  • 2023年06月26日

“過疎”のような状態は、山間部だけでなく都市部でも広がっています。こうした中、将来を見据えて小中学校の存続をめぐる議論を始めた地域の取り組みを取材しました。

(鹿児島局記者 古河美香)

かつてはマンモス校 今は小規模校

鹿児島市の中心部、鹿児島中央駅から車で15分のところにある明和地区は、昭和40年代から住宅地として開発され、子育て世代を中心に多くの人が移り住みました。

明和中学校はこの地区の中心にあります。

昭和60年代には2000人近くが在籍する、いわゆる「マンモス校」として知られました。

新しい学校を作って、生徒を2つに分けたほどでした。

学校を2つに分けて以降、児童の減少傾向が続く

ところが、そのころから変化が訪れます。生徒数の減少傾向が続き、ことしは191人。

ピーク時の10分の1以下となりました。

「適正化を検討」に危機感

「明和まちづくり協議会」の伊地知紘徳会長

「明和まちづくり協議会」の会長を務める伊地知紘徳さんは、25年前に明和地区に引っ越してきました。

2人の子どもはいずれも明和小学校と明和中学校の出身。伊地知さんは当時、小中学校でPTA会長も務めました。

長年住む地域に愛着があるからこそ、変化を感じていたといいます。

 

各学年のクラスの数や地域で過ごす子どもたちの様子、公園にいる子どもたちの数を見ていると、ずいぶん減ったなという気はしました。

そうした中、耳を疑うような話が伝えられました。

文部科学省の手引きをもとに、5年前、鹿児島市教育委員会が作った学校の適正な規模に関する基本方針。

鹿児島市教委が作成した基本方針

この中では、11学級以下の小学校や8学級以下の中学校が「適正化の検討」の対象になっています。

規模が小さいと学びへの影響が出る懸念があるとされた中に、なんと明和中学校も含まれていたのです。

えっ?と思いました。明和中も「適正化の検討」の対象になるのかと。中学校がなくなる、学校がなくなることは地域の崩壊につながるのではないかという懸念を持っています。

学校の将来は、地域の将来

少子化が進む中、このまま放置することはできないものの、どうすればいいか頭を悩ませていた伊地知さん。

その中で、解決の糸口になると感じる出来事もありました。

明和地区で進められている県営住宅の建て替えです。

奥の建物が建て替えられた県営住宅

これまでよりも入居する世帯数が少なくなり、建物の階数は高くなります。これにより、広い空き地も生まれます。

街をコンパクトにするこの計画に新しい形の小中学校を取り入れれば、相乗効果が生まれるのではないかと考えたのです。

 

団地が再生することができるかというのも、この地域が考えなければならない課題の1つだったんです。学校をどうするかは、もちろん子どもの教育という観点が中心ですけど、団地の再生を図って、地域を浮揚、発展させたいという思いがあります。

「明和まちづくり協議会」のメンバーの話し合い

どうすれば地域の特性を生かしながら、子どもたちの学びの環境を整えられるのか。伊地知さんは地域の人たちと話し合いを始めました。

中学校が置かれた状況を、住民に配るリーフレットに掲載して知らせたり、専門家による講演会を開いたりして、住民が将来の学校を考える機会を広げてきました。

話し合いで出た答えは、近くの学校との統合ではなく、小中一貫校の導入でした。

 

鹿児島市教委に要望書を提出する伊地知さん(右)

そして、ことし3月、伊地知さんは子どもたちが1つの学校で9年間学べる環境を作ることを市の教育委員会に要望しました。

伊地知さんは9学年の子どもたちが同じ建物で学ぶことになるため、地域のつながりを強めることにもつながると期待しています。

また、小中一貫校の設置だけでなく、学校のコンパクト化にあわせて英語教育の特例校になることも要望しました。

このピンチを教育の質を上げるチャンスに変え、校区外からの通学や引っ越しも呼び込みたいとしています。

 

9年間をかけて、じっくりと、1つの物事に対して教育を施すことができるということがメリットだと思っています。将来的に子どもたちが安心して学び、育つことができ、なおかつ、特徴のある学校で、次の時代に生きていけるだけの力を育むことができる教育環境を備えることが大事だと思っています。

鹿児島市教育委員会は、学校を取り巻く状況を住民たちに知ってもらおうと「適正化の検討」となっている地区で説明会を開くことにしています。

鹿児島市では、桜島にある8つの小中学校でつくる小中一貫の「義務教育学校」が3年後に開校することが決まっています。

少子化に歯止めがかからない中、学校を含めた地域の将来を考える議論を進める時期に来ているのではないかと思います。

みなさまからの意見を紹介します

前回の記事(コチラ)を書いたあと、様々な意見や提案をいただきました。最後に、その一部を紹介いたします。みなさまからの意見をしっかりと受け止めて、取材を続けていきたいと考えています。

生徒数減少の原因は県営住宅の建て替えがうまくいっていないからではないでしょうか。空いた土地を貸し出すか売るかして民間のマンションなり戸建てを建てれば、人口も増え学校に通う子どもたちも増えるはず。鹿児島市と県で連携ができていないのでは。

問題は鹿児島の中でも若年人口が特定の地域に集中してきていることです。最近はコンパクトシティなどと言って集中化を政策的に進めようという動きがありますが、自分自身が切り捨てられる過疎地域に住んでいますと、とても容認できない考えです。

人口集中区域の人たちにとっても、地価が上がったり家が狭かったり、大規模校であるがゆえの問題もあります。それを分かった上で家を新築する人はいいのでしょうが、中山地区の道路問題のように、急速な人口集中によって起こっている問題も少なくありません。

かつてのニュータウンは明暗がはっきり分かれてきています。そして、もし寂れてもしょうがないというような地域があるなら、それは何が問題なのか、「まちづくり」につながる報道をしてほしいです。

  • 古河美香

    NHK鹿児島放送局

    古河美香

    長崎局を経て鹿児島局勤務 現在は教育や経済を担当 2児の母親

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