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コロナとエンターテイナー

  • 2023年06月12日

長きにわたり県民を楽しませること(エンターテイメント)をなりわいとしている人々。新型コロナに多くの仕事を奪われたこの時代を生き抜き、失われた日常を取り戻そうと今も手探りの毎日を送っています。自身も歌手として鹿児島のエンタメ界を生きる歌手、ジミー入枝さんが業界の舞台裏に潜入し今を生き抜くための努力や工夫を探ります。

(鹿児島放送局ディレクター 赤﨑 英記)

老舗遊園地 SNSで発掘された新たな価値

ジミーさんがはじめにやってきたのは鹿児島県の東端、志布志市のダグリ岬にある遊園地。 1981年の開業当初から、園内の遊具はほとんど変わっていません。

運営企業の谷口一会(たにぐち・かずえ)さん。取締役ながら、マスコットキャラ「ダグりんちゃん」にふんした「ダグリンおばちゃん」としてお客さんをもてなすこともあります。

 ダグリンおばちゃんの案内のもと園内を巡ると、世にも珍しい回らないメリーゴーラウンドや、なぜか駐車場を周回するモノレールなど、ユニークな遊具の数々が。長い時間愛されてきたからこそ醸し出されるノスタルジックな雰囲気が漂います。

回らないメリーゴーラウンド
駐車場を周遊する「パノラマモノレール」

 とはいえ、お世辞にも大にぎわいとは言えないこの小さな遊園地。長きにわたり経営を続けるために、この園ならではの工夫にあふれていました。

一番人気だという観覧車へ向かいますが・・・。

観覧車は停止中 スタッフも不在

スタッフはおらず、動いている様子もありません。

実はお客さんがスタッフさんを呼び、搭乗するときだけ遊具を動かすのがこの園のスタイルなんです。平日のお客さんは20~30人程度。こうして人件費や電気代を節約しているというわけです。

そしてもう一つ、この園ならではの運営手法が。 

谷口さん

運営会社広報 谷口 一会さん

遊園地の運営をしているうちの会社は、遊具の制作会社なので、園の遊具の設計施工、メンテナンスまで、すべて自社でできるというのが経営的に大きいと思います。例えば、通常業者に依頼し観覧車の法定点検も、自社で行うことができるため、経費の削減につながるんです。

時にはお客さんを案内するクルー、そして時には、修理点検などをする技術者などスタッフの皆さんは一人何役もこなします。そのひとりひとりが、エンターテイナーなのです。 

 

お客さんを案内するクルー

 

時にメンテナンスをする技術者にもなる
従業員
松清さん

従業員 松清さん

こまめに見て、音とか聞いて。事故だけは絶対に起こってはいけないので。

工夫を重ねてきたこの遊園地でも、コロナ禍では入場者数が前年の2割程度にまで落ち込むなど、大きな打撃を受けました。

そんな中、思いも寄らない形でこの小さな遊園地が注目を集めます。 

来園者

レトロな映えスポットと書かれていて。色味がいいです。

来園者

SNSにこの乗り物が投稿されていて、来てみました。

懐かし面白い雰囲気がSNSで話題になり、若い世代のお客さんが訪れる様になったのです。

谷口さん

昭和レトロ遊園地に行ってきたとか、投稿してくれる若者が増えて、誤算というか、けなされることはあっても、褒められることはないと思っていたので、今すごくありがたく感じています。

人々を楽しませるという、同じエンターテイメントの世界を生きるジミーさん。この園をめぐり何を感じたのでしょうか。

ジミー入枝

ナビゲーター ジミー入枝(歌手)

私も歌手一本で生きていくために、いろんな方法を考えてきました。この遊園地は、エンジニアさん自らが、お客様のおもてなしをするスタッフとしても働いている。なかなかできることじゃないし努力が半端ない。置かれている環境を言い訳にするのではなく、方法を生み出す姿はすごいと思いました。

芸歴30年 鹿児島発ドゥーワップシンガー 

鹿児島市で開かれた地域のお祭り。ステージで歌うジミーさんの姿がありました。 

 ジミーさんは「ドゥーワップ」という、1950年代に全盛期を迎えたスタイルを貫いています。そして鹿児島弁の軽快なトークでも、お客さんのハートをつかんで離しません。 

 

ステージの後は、自主制作のCDを手売りします。今日の売り上げは10枚ほど。こうした一日一日を積み重ね、鹿児島で生き抜いてきました。

出番が終わるとCDを販売
ジミー入枝

おかげ様で、10枚超えると心の中でガッツポーズですよ。もっと有名人だったら100枚、1000枚と売れるんでしょうけどね。僕はそこじゃない。十分です。

高校卒業後 内田正人さんに師事

ジャパニーズドゥーワップの名曲、ザキングトーンズのグッドナイトベイビー。 高校時代にその歌声に衝撃を受けジミーさんは、弟子入りを決意。 

 上京し、リードボーカル内田正人(うちだまさと)さんのもとで修行する中、エンターテイナーとしてある壁に直面します。

ジミー入枝

しゃべると鹿児島なまりになるんです。しゃべりたいことがたくさんあっても、上手に話せず悔しい。鹿児島であれば心置きなく鹿児島弁で話せるので、鹿児島で活動して、次に東京に呼ばれるときには、鹿児島発の歌手として、このしゃべりでよしとしてもらえる人間になろうと思いました。

 ふるさと鹿児島で、自分らしく輝ける道を探そうと心に決め、人づてに仕事を探す日々。ついには、年間150ものステージに上がり、世界中からトップアーティストが集まるイベントにも出演するまでになりました。 

鹿児島に戻り歌手活動を開始

しかし、そんな日々が、コロナ禍で一転します。緊急事態宣言から4か月間、ステージでの仕事がゼロに。長い歌手生活で初めてのことでした。 

ジミー入枝

仕事のすべてが声なんです。声で仕事をしている人間が、声を出さないでくださいと。 40代終わりの3年近く、世間的には稼ぎ時。稼ぎ時に稼げないフリーランスというのは気が遠くなってもおかしくないですよね。

 4年目に入ったコロナとの戦い。今も仕事は以前の2割以下にとどまり、我慢の日々が続きます 

クラスターに揺れた老舗ショーパブ 

「コロナ禍をどう生き抜いてきたのか知りたい」とこの日ジミーさんが訪れたのは、天文館のある飲食店。 

総勢7名のキャストが出演するショータイム

お店の醍醐味は圧巻のショータイム。接客中とがらりと趣を変えたキャストの皆さんに、ジミーさんもくぎ付けです。 

お店の代表 若松麗奈さん

センターを務める、若松麗奈さん。体は男性、心は女性として生まれたトランスジェンダーです。24年前から、ママとしてこのお店を引っ張ってきました。

若松麗奈さん

お店の代表 若松麗奈さん

個々の持っているパワーはすごいです。だから、普段の生活をしていて、疲れてるなとか、きついなーって人たちの、サンドバッグにもなり、いい物を提供するプレゼンターにもなり、お互いに良い「気」を分け合いましょうよと。

27歳の時

 沖縄県で生まれ、自分を偽らず生きられる場所を探し求めていた麗奈さん。23歳のとき、偶然、この店と出会いました。 

若松麗奈さん

ステージで踊ったり歌ったりすることがしたかったので、この場所を見つけられたのはラッキーでした。男の子の体のままで生活することは、自分のやりたいことを隠して生きていくことなので、やっぱりしんどかったのかなって。そういう場所があるのはありがたいです。

開店前の楽屋

 その思いは。共に働くキャストの皆さんも同じです。 

桜庭優花さん

キャスト 桜庭 優花さん

(キャストにとってこの店は)家みたいな場所です。麗奈ママがお母さんでって感じですね。

しかし3年前、我が家のようなこの場所が大きく揺らぎました。このお店で、鹿児島県で初めての大規模クラスターが発生したのです。 当時、感染対策のために店名を公表すると決めた麗奈さん。〝夜の街〟への風当たりが強まる中、連日店名が報じられ、 根も葉もないデマや、ひぼう中傷にさらされました。

お店のSNSには100件を超える書き込みが
若松麗奈さん

相当へこみました。店を閉めた方がいいんじゃないかとか。それでもこれしかできないと思うと、逆に乗り越えていくしかないと思えたので。

ジミー入枝

麗奈さんの言葉を聞きながら自分も身に迫る思いがあります。

クラスターの発生から2か月半。麗奈さんは営業を再開する決断をします。再開を心待ちにしていたお客さんや、クラスターで入院していたという人も訪れるなど、この街に支えられていることを実感すると同時に、この場所を守り抜く決意を新たにしたといいます。

若松麗奈さん

世間から見てマイノリティだと思うことを、強みにできる場所があるっていうのは、やっぱりありがたいことだし、こういう場所は、私たちが残していかないといけないとは思っています。

お店の開店前 振付の練習が続く

 客足が戻りつつある今、準備を進めているのが、ショーのリニューアルです。連日、営業の直前まで、休む間を惜しんでの準備が続きます。 ショーを楽しみに来てくれるお客さんのためにと、コロナ禍でも続けてきたリニューアル。今回、客席でのパフォーマンスも復活。キャストも観客も、一体となって楽しめるショーを目指します。

若松麗奈さん

テーマは、「前向き」です。悪い意味で引きずっていたりしてたので、それを奪回しつつ、踊り狂います。今まで我慢していた分をいっきに放出するのではなく、自分たちも楽しみながら、徐々に元の生活に戻っていけて、私たちらしさが、お届け出来ればいいかなって思います。

ジミー入枝

まさに圧倒されました。ステージでパフォーマンスすることにおける、誇り、プライドっていう部分で、自分も人前で芸を披露する立場として、持ち続けたいなと痛感しましたね。

楽しませること

ジミーさん、この日はホームグラウンドのライブハウスでワンマンライブ。平日にもかかわらずたくさんのお客さんが集まりました。

ジミー入枝

(少しずつこういう現場がかえってきて思うことは?)

ま、かけがえの無い部分でありますよね。思い通りに行かない日々の中で、今日はお客様に集まっていただけたたほうではないかなと。

今回の取材を終えて、ジミーさんは新曲を準備していました。タイトルは「楽しませること」

最後にその歌詞をご紹介します。

楽しませること

作詞・作曲 ジミー入枝

雰囲気や味わいが、エモい評価の遊園地。

つややかでしなやかで、笑いも大胆なショウパブ。
長くやり続けるには覚悟もいるんだヨ。
やり抜く方法を見つけるんだヨ。

だってお客様の笑顔増やしたいから。
だってお客様の笑顔に出逢いたいから

 

  • 赤﨑英記

    鹿児島放送局ディレクター

    赤﨑英記

    生まれも育ちも鹿児島の40歳。2児の父。
    地元民放で送受信技術を担当後、 ディレクターとして、鹿児島の魅力を県内外に発信する職人やアーティストなどを取材。 2021年入局。

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