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鹿児島 桜島 やっかいものの火山灰が人の心を癒やす!?

  • 2022年11月11日

 あなたが観光客なら、珍しがって喜ぶかもしれない桜島の火山灰。でも地元、鹿児島では、窓を閉めていてもどこからか忍び込み、床がざらざらになってしまう灰は、想像以上にやっかいものです。ことしの夏に東京から転勤してきたわたしも、最近初めて降灰を経験し、洗車したばかりの車が灰まみれに…少々うんざりしています。
 ところがそんな灰を材料に、見事なアートを生み出す人がいると聞いて訪ねてみました。

      (鹿児島局ディレクター 細川雄矢)

まるで水墨画!圧巻の“火山灰アート”

桜島へ向かうフェリーを描いた作品

 鹿児島市街地からフェリーで15分。桜島のターミナルで人々を出迎えるこちらの作品。一見、水墨画のようにも見えますが、実はこれ、桜島の火山灰を使ったアートなんです。

 この作品を手がけたのが、“火山灰アーティスト”として活動している植村恭子さんです。

 桜島の火山灰で風景や動物などを巧みに描き、これまで県の美術展などで入選を果たしてきました。

 植村さんの創作は、「灰集め」から始まります。描画に使う灰はいつも、桜島の有村溶岩展望所で採取。でもなぜ?

植村さん

 噴火口から近いので、ここの灰には粒子が粗いものと細かいものの両方が含まれています。作品の表現を広げるために必要になるんです。

鹿児島名物?「克灰袋」

 ふるいにかけ、細かいゴミを取り除いた灰を、鹿児島市では各家庭に配られている「克灰袋」に詰めた植村さん。

 自宅に持ち帰ると、なんと・・・床に敷いた新聞紙の上に広げました。
 もう、見ているだけで、足の裏がざらざらしそうです・・・。

常に灰とともに生活している感じです・・・

 火山灰をキャンパスの上にフリーハンドでふりかけてデッサンしたのち、細かい部分は爪の先を使って描いていきます。左手には、接着剤を溶かした水。これで灰を固着させていきます。

 火山灰は鉱物なので光を反射する性質があって、絵の具や、日本画の岩絵の具とも違う見え方がするんです。

“故郷のシンボル” 桜島への思い

植村さんは鹿児島市出身。桜島の存在を身近に感じながら育ちました。

 校庭で遊んでいても見えましたね。時々噴火して、体育の時間に灰まみれになったことも。

 “火山灰アート”を始めたきっかけは、2016年の熊本地震。
 当時、桜島の観光施設で働いていた植村さんは、得意のスケッチでくまモンなどのキャラクターを描いて、観光客などに募金を呼びかけました。その時にひらめいたのが、身近な火山灰で絵を書くことでした。

 鹿児島らしいもの、桜島らしいもので募金の告知をしたいと思って。大量にある火山灰を何かに使いたいとは日々思っていましたが、絵を描くということは、熊本地震の時に初めて思いつきました。

 その後も観光客向けに、毎日のように果物や動物などのイラストを描いていた植村さんでしたが、本格的にアーティストを志す転機となる出来事がありました。
 新型コロナウイルスが感染拡大する中、鹿児島に帰ることができなくなった人たちから、「灰で桜島の絵をかいてほしい」という依頼が、続々と寄せられ始めたのです。

 やっぱり桜島って故郷のシンボルなんだなって。鹿児島で生まれ育った人たちの心や頭の中にいつも身近な存在としてある風景なんだと感じました。

見る人の心を癒やす火山灰アート

病棟の廊下に飾られた火山灰アート

 火山灰アートはいま、意外な場所で活用されています。
 認知症の症状がある人も入院している、鹿児島市内のクリニック。廊下に飾られた植村さんの作品が、患者さんと職員のコミュニケーションにも一役買っているといいます。

きいれ浜田クリニック
濵田歩美さん

 五感を使って心で感じることが、認知症への対処法によいと言われているので、飾っています

患者さん

「昔みたいに(噴煙が)大きく上がらないからね、昔はよう上がりおった」

「灰はやっぱり大変でした?」

「大変でしたよ。掃除するのが…」

 どこか懐かしく、郷愁を誘う、火山灰アート。
 火山灰を盛んに吹き上げる桜島は、植村さんにとってどんな存在なのでしょうか。

 ふだん生活していると忘れがちですが、噴火や降灰は、私たちが“地球に住んでいる”ことを気づかせてくれます。日々表情を変える桜島をこれからもアートとして描けたらいいなと思います。

<取材後記>

 「美術の勉強はしたことがない」という植村さん。まずはその巧みな指使い(爪使い?)に驚かされましたが、火山灰アートを通じて、“地球とのつながり”を感じさせる鹿児島の雄大な自然をPRしたいという熱い思いも、言葉の端々から感じました。
 車や洗濯物を汚され、ちょっとうんざりしていた桜島の降灰ですが、火山が身近にあるおかげで、鹿児島市には270以上もの源泉が沸いています。
 鹿児島に越してきたばかりのわたしですが、火山とともにある暮らしとはどういうものなのか、これからも取材していきたいと思います。

  • 細川雄矢

    NHK鹿児島放送局

    細川雄矢

    千葉県出身
    2020年入局 報道局「ニュース7」「おはよう日本」を経て鹿児島局へ

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