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ウクライナに人生ささげた息子 鹿児島の父親の思いは

  • 2022年05月31日

 

ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナ。そのウクライナとの交流に人生を捧げた鹿児島の男性がいます。2年前、ウクライナで44歳の若さで急死した五代裕己さんです。鹿児島県志布志市に住む父親は、息子と交流があったウクライナの若者と連絡をとりつづけ、一刻も早く平和が訪れることを祈り続けています。

(鹿児島局記者 庭本小季)


キーウで活躍した鹿児島出身者

3年前、ウクライナでのコンサートに臨んだピアニストのフジコ・ヘミングさん。現地のテレビ局の取材を受けるフジコさんの隣で通訳をしているのは鹿児島県志布志市出身の五代裕己さんです。

五代裕己さん

五代さんはウクライナの首都キーウに暮らし、オーケストラなどの音楽イベントやNHKをはじめとするテレビ局の番組取材の通訳やコーディネーターなどとして活躍してきました。

翻訳されて届くメッセージ

父親の豊一さんは裕己さんが産まれた志布志市に暮らし、息子が縁のあったウクライナの若者たちといまも連絡を取り続けています。
緊迫する情勢の中、現地の女性から送られてきたメッセージには、次のように書かれていました。

ウクライナから送られてきたメッセージ

「ロシアがウクライナを軍事攻撃しました。状況は複雑です。私と私の家族全員は無事です。心配しないでください」

ロシア語がわからない豊一さんのために、現地の人たちは日本語に翻訳して送ってくるのだといいます。

五代豊一さん

「かける言葉はただ無事を祈っています、としか言えないです」

ロシア語の通訳めざし留学

裕己さんは大学時代に独学でロシア語を勉強しました。きっかけはバレーボールの国際試合を見に行ったことでした。ロシア語の響きに魅了され、流ちょうに話す通訳の姿に強い憧れを抱いたのだといいます。大学卒業後、一度は就職しましたが、憧れの通訳の道を目指すために退職し、キーウの大学に留学しました。

通訳として活動し始めてからは、ウクライナのチョルノービリ原子力発電所、ロシア語でチェルノブイリ原発の事故の研究者や取材陣に協力するとともに、被災者の支援にもあたってきました。

さらに趣味の剣道を活かして、ウクライナに剣道連盟を設立。日本にも生徒を派遣するなど、ウクライナと日本の交流の架け橋になってきました。

五代豊一さん

「裕己はウクライナが大好きな子。ウクライナに骨をうずめたいというくらいの気持ちを持っていたと思います」

ウクライナでの最期

その裕己さんは2年前、44歳の若さで心不全で急死。父親の豊一さんは、その亡骸を迎えるために初めてウクライナを訪れました。現地で開かれたお別れの会には、多くのキーウの人が集まったと言います。

一人ひとりから「裕己さんを産んでくれてありがとう」と言葉をかけられ、感激したという豊一さん。ただ当時は、葬儀の準備に追われ、ウクライナの街を落ち着いて見る余裕はなかったと言います。

五代豊一さん

「早く顔を見たい、それだけでした。よく街を見ていなかった気がします。うちに帰ってきて、一連の葬儀などがすべて終わって家内と話したのは、いずれ子どもの歩いた道をたどってみたいねということでした」

再訪の夢阻む侵攻

いずれまたウクライナに・・。

そんな豊一さんの夢を阻んだのがロシアによるウクライナへの軍事侵攻です。
息子が愛した国とそこに暮らす人たちをこれ以上、傷つけないで欲しい。豊一さんは一刻も早く平和が戻ることを祈り続けています。

 

五代豊一さん

「ニュースは必ず見ています。なぜこうなってしまったのかという気持ちが強いです。胸が締め付けられる思いでいます。実際に私たちによくしてくれた人がシェルターで生活していると聞いていますので、一日でも早く平和な日が来てほしいです」

取材後記

五代さんのご自宅にお邪魔したとき、真っ先に目に入ったのは飾られていた数多くの裕己さんの写真でした。どれもウクライナで撮影されたものということで、裕己さんの表情からだけでもウクライナでの生き生きとした生活が感じ取れるほどでした。

「裕己がウクライナに行ったばかりの頃はその場所もすぐに思い浮かばなかった」と話していた豊一さん。裕己さんの活躍を知るたびにもう一つの大切な場所になっていったといいます。

いつかは息子の人生をたどりたいという豊一さんの思いを引き裂くように、今もロシア軍による侵攻は続いています。家族や大切な人とのつながりを隔てる戦争が、これから先無くなることを願ってやみません。

  • 庭本小季

    NHK鹿児島放送局 記者

    庭本小季

    令和2年入局 岐阜県出身事件事故や防災、調査報道などを担当   



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